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5章 イズナバール迷宮編
247話 地上へ
『魂の源流を勇者と同じうする我が忌敵よ、絶望の果てに朽ちるがよいわ!!』
「けっ! どこまで言ってもそこかよ、魔竜の王がケツの穴の小せえ事だな!!」
ジンは魔力回復薬のポーションを複数取り出すと、
「風精よ、集いて縮み──」
ヴリトラに的を絞らせないよう、未だに無事な床を高速で走りながら呪文の詠唱に入る。
『下らぬ、たかだか衝撃波を生み出す下級の魔道、いくら威力が上がろうとも……』
「効くに決まってんだろ、──”風爆”」
シンは圧縮空気を、巨大な一発ではなく高威力の物を複数生み出し、それら全てをヴリトラに向けて放つ。そして、
ドウン──!!
『ガアアア──!?』
「阿呆が、口に矢が刺さったままだよ」
魔竜の王がいかに強大な魔力を持つとはいえ、スキルを持たない魔法を完全に行使できるはずも無く、治癒魔法で傷は塞がり腕も再生したが、上顎に刺さった棘のような矢を取り除くまでには至らなかった。
シンの風爆はそれをピンポイントに狙い、刺さった状態で塞がっていた傷口を再び抉る。
更に頭部に撒いた圧縮空気を連鎖的に発動させて連続的に痛みを誘うと、ヴリトラの目には先ほどまでの余裕は一瞬で消え、瞬く間に憎悪に染まる。それこそ『狂乱』の呪いゆえであろうか。
『虫けらめが!!』
「聞き飽きたよ、そういう煽りはさ──”水球”」
ポーションで回復したシンは続けざまに大量の水を生み出すと、フロアは天井付近1メートル程度しか空気のエリアは無くなり、ほぼ水没した形になる。
『愚かな、水中なら動けぬとでも思うたか!』
ブオウ──!!
「──────!!」
ヴリトラの両翼が勢いよく唸るとフロアは、巨大な2本の櫂でかき混ぜられたように激しくうねり、シンは水底に叩き付けられた。
(……ああ、泳ぐ手間が省けたな)
シンはヨロヨロと水中で直立する姿勢をとると、周囲の空間に”領域”を展開、発音出来ない呪文の代わりに脳内で呪文を構築、それを領域を介して外に伝達させる。
(……水精よ荒れ狂え、汝は全てを引き摺り全てを飲み込む奈落への入り口、我が呼びかけに応え深淵より出でよ、”大渦”)
────ゴゴゴ
『ぬ?』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ──
フロア全体に広がる渦巻きはシンの暴走した全魔力を受け、まさに荒れ狂う渦潮となってヴリトラのみならず、砂塵や瓦礫を巻き込みながらヴリトラの巨体もその渦の中に引き込んでゆく。
『ぬうううう、どこまでも小賢しい!!』
目や口の中を砂塵に覆われ、瓦礫を叩き付けられる不快さに毒づくヴリトラは、水底で重り代わりに武器を担ぐシンの姿を見つけ、思わず目を見張る。
『キサマ、それは──』
(遅えよ!)
シンは武器──星球武器を振り下ろし、
ガツン!!
(大崩壊!!)
パリン──
────ズゴゴゴゴゴゴ!!
フロア内で渦を描いていた水流は、底が抜けた事によって今度は排水溝に飲み込まれる激流に変化、ヴリトラの巨体ごと抜けた穴へと殺到する。
『シンドゥラああああああ!!』
ヴリトラはシンに向かって手を伸ばし水流に抗おうと翼を広げるが、逆に流れに掴まり渦に飲み込まれ、やがて──
「────ふぅ」
パキパキパキパキ──
全ての水が流れた後、迷宮生物の修復機能が働きだし、フロアの修復が始まる。
「…………さて、これからどうするか」
一時的な脅威は去った、しかし根本的な解決はされていない。
最下層より下へ落ちたアレがどうなったのか、迷宮生物によって再度魔力に分解されるなり、なんらかの処置がされるならば最上だが、恐らくそうなる事は無いのだろう。
なぜなら──シンは床の修復が終わり、戦闘など無かったかのように静かになった50層を見渡す。
「閉じ込められたままだしなぁ……」
未だ迷宮の最下層は、入り口も出口も閉じたままであった。
シンはアースブレイカーを異空間バッグに収めるとその場に座り込み、頭を押さえながら今後の方策を思案する。
「あの野郎が治癒魔法が使える以上、ハンパな攻撃はコッチが疲れるだけか……魔力を尽かせるほどの致命傷を何度も与えられるはずも無ぇ……とっておきも、2度目も付き合ってくれるはずは無いし」
”移ろいゆく時の刃”は詠唱に時間がかかるため、発動前に潰される可能性が高い、初見で仕留められなかった事をシンは悔いていた。
「とはいえ、アレを一撃で沈められる技は……こんな狭い場所じゃ無理か。何より……」
(……アッチの方が前提条件が多すぎる、発動までの時間もだが、何より1人じゃ無理な技だ)
思い悩むシンはその身を床に投げ出し、大の字になって天井を見上げる。
60メートル四方のフロアは全面大理石のように白く、30メートル程の高さの天井からはどういう原理か眩しいくらいの光が差し込む。
多くの探索者達は、本来であればこの荘厳な空気の中で最後の試練に挑んでいたのだろうが、シンという不確定要素のせいでこのような事態に至ってしまった。それを思うとシンは迷宮生物に対して「空気読めや!」と叫びたくなる。
「ふぅ………………ん?」
床に寝そべるシンは、微かな違和感に眉根を寄せて耳を澄ます。
………………………………。
……………………ゴゴゴゴ。
「────────!?」
────ガバッ!!
シンは急いで立ち上がるとその場で跳躍、異空間バッグから一抱えもする瓶を取り出すと、空中で静止したまま振りかぶる。
やがて──
グ……ボゴ……バガァン!!
床が大きく盛り上がると、そのまま床を突き破るようにヴリトラの頭部が現れ、次いでその巨体が飛び出す!
『シンドゥラアアア!!』
「しつけえんだよ!!」
シンは振りかぶった瓶を雄たけびを上げるヴリトラの口の中に投げ込むと、体当たりを懸念して大盾を取り出し前面に構える。
──────────
『……ヌガアアアア!! どこまでもコケにしおってええええ!!』
瓶いっぱいのアギア・ガザルの粉末を口に入れたヴリトラは、文字通り口から火を吹きながらシンを睨みつける。
「仕方ねえだろ、そんなモンに引っ掛かる自分の低能を悔い改めろや」
シンは挑発しながら炎を避けながら飛行するが、
ゾクリ────
『────全くだ』
「────なっ!?」
背中に冷水をぶっかけられた様な悪寒を感じたシンが視線を下に向けると、苦しんでいたはずのヴリトラが何事も無かったかのように高速で飛行、シンの眼前に迫り──
「ぐああっ!!」
バキャン!!
とっさに突き出したヘヴィ・トータスの甲羅で作った大盾は粉々に砕け散り、ヴリトラの鼻先に押さえつけられたシンはそのまま天井に叩き付けられる。
──バキベキッ!!
革鎧は大きくたわみ、肋骨の砕ける音と重なって、
ボゴゴゴゴゴゴ!!
シンの体ごと天井を突き破ろうとヴリトラは翼をはためかせる。
「……て、めえ……ひっかけ、や…………がっ」
『詭道・詐術はキサマの専売よな、自分が喰ろうた感想はどうじゃ?』
「はっ……竜王サマの名が泣くぜ」
『何とでもほざけ。キサマが100度策を弄しようが地力で勝る我はただ1度、1度だけキサマの策を越えるだけで勝てる、それだけの事よ』
「……………………………………」
『……気に入らぬ、この期に及んでまだ目が死んでおらぬ! まだ我に勝つつもりでおる! 気に入らぬ、まこと気に入らぬなあ!!』
ドグアアアアン──!!
──ドゴン! ──ドゴン! ──……
50層の壁を破壊したヴリトラはその後も加速を続け、上の階層の天井を次々と破ってゆく。
シンはかろうじて防御魔法を展開、天井を突き破る衝撃で意識が跳びそうになる中シンは右手を自分の首筋に当て、
「────────!!」
虫刺されを己に打ち、断続的に起こる痛みで意識を失う事を拒絶する。
「……………………」
シンは痛みの中でヴリトラの顔を睨みつける、自分に向けて怒りと嘲りの感情をぶつけてくる大敵の瞳を──
…………………………。
…………………………。
ドゴオオオオオオオンンンンン!!
第1層の壁をぶち抜いたヴリトラは、ついに地上に躍り出た。
『クハハハハハハハ!! 地上だ、我はまたこの世界に戻ってきたぞ!!』
地上に出、全身に当たる風と空気の味、日の光を浴びたヴリトラは歓喜に震え、一瞬シンの存在を意識から遠ざける。
──そのスキをシンは見逃さなかった。
グッ!
シンはヴリトラの上顎に這い上がり、突き出たままになっている棘だらけの矢を握り締めると、一気にそれを引き抜く!
『ぐ、ぬがぁっ!?』
両手を血で染めながらその矢──鉄杭を槍のように構えたシンは、そのまま両足に渾身の力を込めて跳ぶ。
──バギャ!!
両足の骨が砕ける音が響く中、弾丸のように迫るシンに向かってヴリトラは、痛みで反射的に上げた手をそのまま横に、シンを叩き落とそうと力を込める。
「ちぃっ!!」
ズブリ──
『があっ!!』
とっさにシンは、本来は眉間か目を狙っていた鉄杭をヴリトラの掌に突き刺すと、バランスを崩しながらもそのまま身体をヴリトラの眼前に投げ出し、両の拳を握りこむと渾身の力でその眉間を殴りつけた。
ボギリ──!!
『くあっ!! おのれ、死にぞこないめが!!』
鉄杭を指されて眉間を殴りつけられたヴリトラは、痛みと怒りで反射的に腕を振るうと、両手両足の骨が砕け、逃げる事も防御する事も出来なくなったシンの身体を叩き落とす。
「くそ……ちくしょう……」
ヴリトラと3度目の戦闘は、シンの完全敗北だった──。
「けっ! どこまで言ってもそこかよ、魔竜の王がケツの穴の小せえ事だな!!」
ジンは魔力回復薬のポーションを複数取り出すと、
「風精よ、集いて縮み──」
ヴリトラに的を絞らせないよう、未だに無事な床を高速で走りながら呪文の詠唱に入る。
『下らぬ、たかだか衝撃波を生み出す下級の魔道、いくら威力が上がろうとも……』
「効くに決まってんだろ、──”風爆”」
シンは圧縮空気を、巨大な一発ではなく高威力の物を複数生み出し、それら全てをヴリトラに向けて放つ。そして、
ドウン──!!
『ガアアア──!?』
「阿呆が、口に矢が刺さったままだよ」
魔竜の王がいかに強大な魔力を持つとはいえ、スキルを持たない魔法を完全に行使できるはずも無く、治癒魔法で傷は塞がり腕も再生したが、上顎に刺さった棘のような矢を取り除くまでには至らなかった。
シンの風爆はそれをピンポイントに狙い、刺さった状態で塞がっていた傷口を再び抉る。
更に頭部に撒いた圧縮空気を連鎖的に発動させて連続的に痛みを誘うと、ヴリトラの目には先ほどまでの余裕は一瞬で消え、瞬く間に憎悪に染まる。それこそ『狂乱』の呪いゆえであろうか。
『虫けらめが!!』
「聞き飽きたよ、そういう煽りはさ──”水球”」
ポーションで回復したシンは続けざまに大量の水を生み出すと、フロアは天井付近1メートル程度しか空気のエリアは無くなり、ほぼ水没した形になる。
『愚かな、水中なら動けぬとでも思うたか!』
ブオウ──!!
「──────!!」
ヴリトラの両翼が勢いよく唸るとフロアは、巨大な2本の櫂でかき混ぜられたように激しくうねり、シンは水底に叩き付けられた。
(……ああ、泳ぐ手間が省けたな)
シンはヨロヨロと水中で直立する姿勢をとると、周囲の空間に”領域”を展開、発音出来ない呪文の代わりに脳内で呪文を構築、それを領域を介して外に伝達させる。
(……水精よ荒れ狂え、汝は全てを引き摺り全てを飲み込む奈落への入り口、我が呼びかけに応え深淵より出でよ、”大渦”)
────ゴゴゴ
『ぬ?』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ──
フロア全体に広がる渦巻きはシンの暴走した全魔力を受け、まさに荒れ狂う渦潮となってヴリトラのみならず、砂塵や瓦礫を巻き込みながらヴリトラの巨体もその渦の中に引き込んでゆく。
『ぬうううう、どこまでも小賢しい!!』
目や口の中を砂塵に覆われ、瓦礫を叩き付けられる不快さに毒づくヴリトラは、水底で重り代わりに武器を担ぐシンの姿を見つけ、思わず目を見張る。
『キサマ、それは──』
(遅えよ!)
シンは武器──星球武器を振り下ろし、
ガツン!!
(大崩壊!!)
パリン──
────ズゴゴゴゴゴゴ!!
フロア内で渦を描いていた水流は、底が抜けた事によって今度は排水溝に飲み込まれる激流に変化、ヴリトラの巨体ごと抜けた穴へと殺到する。
『シンドゥラああああああ!!』
ヴリトラはシンに向かって手を伸ばし水流に抗おうと翼を広げるが、逆に流れに掴まり渦に飲み込まれ、やがて──
「────ふぅ」
パキパキパキパキ──
全ての水が流れた後、迷宮生物の修復機能が働きだし、フロアの修復が始まる。
「…………さて、これからどうするか」
一時的な脅威は去った、しかし根本的な解決はされていない。
最下層より下へ落ちたアレがどうなったのか、迷宮生物によって再度魔力に分解されるなり、なんらかの処置がされるならば最上だが、恐らくそうなる事は無いのだろう。
なぜなら──シンは床の修復が終わり、戦闘など無かったかのように静かになった50層を見渡す。
「閉じ込められたままだしなぁ……」
未だ迷宮の最下層は、入り口も出口も閉じたままであった。
シンはアースブレイカーを異空間バッグに収めるとその場に座り込み、頭を押さえながら今後の方策を思案する。
「あの野郎が治癒魔法が使える以上、ハンパな攻撃はコッチが疲れるだけか……魔力を尽かせるほどの致命傷を何度も与えられるはずも無ぇ……とっておきも、2度目も付き合ってくれるはずは無いし」
”移ろいゆく時の刃”は詠唱に時間がかかるため、発動前に潰される可能性が高い、初見で仕留められなかった事をシンは悔いていた。
「とはいえ、アレを一撃で沈められる技は……こんな狭い場所じゃ無理か。何より……」
(……アッチの方が前提条件が多すぎる、発動までの時間もだが、何より1人じゃ無理な技だ)
思い悩むシンはその身を床に投げ出し、大の字になって天井を見上げる。
60メートル四方のフロアは全面大理石のように白く、30メートル程の高さの天井からはどういう原理か眩しいくらいの光が差し込む。
多くの探索者達は、本来であればこの荘厳な空気の中で最後の試練に挑んでいたのだろうが、シンという不確定要素のせいでこのような事態に至ってしまった。それを思うとシンは迷宮生物に対して「空気読めや!」と叫びたくなる。
「ふぅ………………ん?」
床に寝そべるシンは、微かな違和感に眉根を寄せて耳を澄ます。
………………………………。
……………………ゴゴゴゴ。
「────────!?」
────ガバッ!!
シンは急いで立ち上がるとその場で跳躍、異空間バッグから一抱えもする瓶を取り出すと、空中で静止したまま振りかぶる。
やがて──
グ……ボゴ……バガァン!!
床が大きく盛り上がると、そのまま床を突き破るようにヴリトラの頭部が現れ、次いでその巨体が飛び出す!
『シンドゥラアアア!!』
「しつけえんだよ!!」
シンは振りかぶった瓶を雄たけびを上げるヴリトラの口の中に投げ込むと、体当たりを懸念して大盾を取り出し前面に構える。
──────────
『……ヌガアアアア!! どこまでもコケにしおってええええ!!』
瓶いっぱいのアギア・ガザルの粉末を口に入れたヴリトラは、文字通り口から火を吹きながらシンを睨みつける。
「仕方ねえだろ、そんなモンに引っ掛かる自分の低能を悔い改めろや」
シンは挑発しながら炎を避けながら飛行するが、
ゾクリ────
『────全くだ』
「────なっ!?」
背中に冷水をぶっかけられた様な悪寒を感じたシンが視線を下に向けると、苦しんでいたはずのヴリトラが何事も無かったかのように高速で飛行、シンの眼前に迫り──
「ぐああっ!!」
バキャン!!
とっさに突き出したヘヴィ・トータスの甲羅で作った大盾は粉々に砕け散り、ヴリトラの鼻先に押さえつけられたシンはそのまま天井に叩き付けられる。
──バキベキッ!!
革鎧は大きくたわみ、肋骨の砕ける音と重なって、
ボゴゴゴゴゴゴ!!
シンの体ごと天井を突き破ろうとヴリトラは翼をはためかせる。
「……て、めえ……ひっかけ、や…………がっ」
『詭道・詐術はキサマの専売よな、自分が喰ろうた感想はどうじゃ?』
「はっ……竜王サマの名が泣くぜ」
『何とでもほざけ。キサマが100度策を弄しようが地力で勝る我はただ1度、1度だけキサマの策を越えるだけで勝てる、それだけの事よ』
「……………………………………」
『……気に入らぬ、この期に及んでまだ目が死んでおらぬ! まだ我に勝つつもりでおる! 気に入らぬ、まこと気に入らぬなあ!!』
ドグアアアアン──!!
──ドゴン! ──ドゴン! ──……
50層の壁を破壊したヴリトラはその後も加速を続け、上の階層の天井を次々と破ってゆく。
シンはかろうじて防御魔法を展開、天井を突き破る衝撃で意識が跳びそうになる中シンは右手を自分の首筋に当て、
「────────!!」
虫刺されを己に打ち、断続的に起こる痛みで意識を失う事を拒絶する。
「……………………」
シンは痛みの中でヴリトラの顔を睨みつける、自分に向けて怒りと嘲りの感情をぶつけてくる大敵の瞳を──
…………………………。
…………………………。
ドゴオオオオオオオンンンンン!!
第1層の壁をぶち抜いたヴリトラは、ついに地上に躍り出た。
『クハハハハハハハ!! 地上だ、我はまたこの世界に戻ってきたぞ!!』
地上に出、全身に当たる風と空気の味、日の光を浴びたヴリトラは歓喜に震え、一瞬シンの存在を意識から遠ざける。
──そのスキをシンは見逃さなかった。
グッ!
シンはヴリトラの上顎に這い上がり、突き出たままになっている棘だらけの矢を握り締めると、一気にそれを引き抜く!
『ぐ、ぬがぁっ!?』
両手を血で染めながらその矢──鉄杭を槍のように構えたシンは、そのまま両足に渾身の力を込めて跳ぶ。
──バギャ!!
両足の骨が砕ける音が響く中、弾丸のように迫るシンに向かってヴリトラは、痛みで反射的に上げた手をそのまま横に、シンを叩き落とそうと力を込める。
「ちぃっ!!」
ズブリ──
『があっ!!』
とっさにシンは、本来は眉間か目を狙っていた鉄杭をヴリトラの掌に突き刺すと、バランスを崩しながらもそのまま身体をヴリトラの眼前に投げ出し、両の拳を握りこむと渾身の力でその眉間を殴りつけた。
ボギリ──!!
『くあっ!! おのれ、死にぞこないめが!!』
鉄杭を指されて眉間を殴りつけられたヴリトラは、痛みと怒りで反射的に腕を振るうと、両手両足の骨が砕け、逃げる事も防御する事も出来なくなったシンの身体を叩き落とす。
「くそ……ちくしょう……」
ヴリトラと3度目の戦闘は、シンの完全敗北だった──。
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