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5章 イズナバール迷宮編
248話 よみがえる恐怖
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──昔語りに人は聞く、漆黒の鱗に身を包んだ巨竜と──
──我が事のように自慢する、その紅玉よりも赤き真紅の瞳と──
──疑問を持たずに人は吹く、その姿を見て生き延びた者はいないと──
イズナバールは死出の道、足を踏み入れるは死と同義、そう語られなくなって早4年、いや、もうすぐ5年になるイズナバール湖畔周辺は、かつての呼び名を思い出した。
曰く、邪竜の水飲み場。
曰く、邪竜の縄張り。
曰く、邪竜の狩り場、と──。
「ジンさん!? ジンさんなんですか!?」
自身が慕う青年と同じ外見ながら、あまりにかけ離れた相違点を見せて地面に横たわる青年──シンに向かってエルは悲痛な声で問いかける。
そうであって欲しい願いと、それとは逆の願い。目の前の男がジンであるならば彼は今現在瀕死の状況にあり、そうでなければジンの行方は未だに判らずじまい。
横たわる男は応えない、その代わり男の傍らにはエルもよく知る人物、リオンとルディが膝をついて寄り添っている事を見れば答えは明白だった。
「シン……こんなにボロボロで」
「封印解除の暴走形態でも勝てなかったか……」
リオンは悲しそうに、ルディは苦々しげにそれぞれ顔を歪ませながら呟くと、ゆっくりと上空のそれを見上げる。
古代迷宮の最下層に待ち受けていたソレは、そのルールや常識をことごとく破り、あろうことか地上に躍り出た。
邪竜ヴリトラ──暴竜、災厄の魔竜と呼ばれた伝説の存在。同時に過去のものとなったはずの存在。
それが戻ってきた。空を晴天から曇天に変え、徐々に渦巻く雷雲を頭上に仰ぎながら、かつての姿そのままに。
「聖竜王……」
「竜宝珠を取り込んで完全体になったか……回復魔法を手に入れたのは痛いね」
「2人とも何を言ってるんです!? 何か知ってるんですか!?」
エルの叫びを聞いて、周囲に集まっていたルフトをはじめ攻略部隊の視線が一点に集中する。
『逃げろおおおおおお!!』
『な、なんだあれは? 一体何なんだ──』
ゴオオオオオ──!!
周囲に響き渡る悲鳴と戸惑いの声は、時折聞こえる轟音──ヴリトラのブレスによってある者は瞬く間に炭と化し、またある者は全身がドロドロに腐り落ちる、地獄を見た事が無い者もこれが、これこそが地獄だと口を揃えて答えるであろう光景が広がっている。
その只中にあって彼等だけが無事で居られるのは同種の存在か最高神の存在か、はたまた好物は最後にとっておこうと言うのか。
少なくとも、何も分からぬ自分たちよりあの場で1人動く事の出来たジンが、何かしら事情を知っているかもとの期待を彼等は持っていた。
「教えて欲しいリオン殿、アレは何だ? そしてコレは、彼はジンなのか?」
彼等を代表してルフトはリオンに向かって質問をぶつける。
「アレに関してはあなた達の聞いた通り見た通り、そして文献の通りですよ。あれこそが災厄の魔竜、暴竜にして邪竜ヴリトラです。そしてこちらも見ての通り、アナタ達と共に迷宮を進み、あの場所でアナタ達を死から救ってくれた恩人です」
リオンはそう告げると彼等に向かって背筋が凍るほどの冷たい視線を送る。
兜を脱いで顔を晒しているリオンの顔は無表情でありながら瞳は冷たく、シンに向かって薄気味悪いものを見るような視線を投げる彼らに対して静かに怒る。
(所詮こんなものか……)
人間が臆病な存在だというのはこれでもかと言うほど理解している。だがそれに納得している訳でもない、臆病ゆえに過剰な行動をとる彼等の愚行の歴史なら、憎しみと呪いに囚われているヴリトラ以上に知っている。
だからこそ、エル達やルフトのように、純粋にシンの身を案じることの出来ない彼等には失望を禁じえない、短期間とはいえ仮にも轡を並べた者への態度かと。
「そして、これからの事を迷っているのであれば一刻も早くこの場を離れなさい、ここで死んでしまっては彼の行いが無意味なものになってしまいますからね」
パチン──!
リオンは彼等にそう告げながらシンの防具の留め金を外し、革鎧を脱がせる。
「「うっ──」」
「ジンさん!!」
浅く小刻みな呼吸に合わせて胸が歪に波打つ様は胸骨肋骨が砕けている証であり、手足どころか全身の骨が破壊される、まさに死闘の証明でもあった。
ギュッ──!!
それを見た彼等の、おそらくは自分自身に対する怒りが彼等の唇をきつく閉じさせ、拳を握らせる。自分達を逃がし、あの場でたった一人戦った彼等の恩人に対しての無礼に強く恥じ入る。
そしてリオンはそんな彼等の態度に柔らかい視線を送る。
臆病で移ろいやすい心の持ち主であるが故に、少しのきっかけさえあればその臆病さを乗り越える心のしなやかさを知っている。
(死なせる訳にはいきませんね、シンも、そしてみんなも)
パチン──
「意気込みは買いますが、現状アナタ達にアレに対抗する手立てはありません。それでも何かしたいと思うのであれば、住民の避難と迷宮内に潜ったままの探索者に、今は出てこないように忠告してきなさい、言っておきますが、どちらも簡単ではありませんよ?」
リオンは立ち上がると、今度は自分の防具の留め金を外しながら鎧を脱ぎ出す。
「リオン殿?」
「リオンさん、何を?」
「ルフト、そしてエル、シンを頼みますよ」
鎧を脱ぎ捨て、インナー姿になったリオンは振り向く事無く彼等に告げると、両手を広げて軽く垂直に跳び上がり、
カッ────ドゥン!!
「ぬぐっ……リオン殿!?」
閃光と軽い衝撃波、ルフトはとっさにシンの体を庇いながら薄目を開けると、
「な…………!!」
それは上空で猛威を振るうヴリトラよりも2回りも大きい、全長50メートルに届かんとする巨大なドラゴンの姿が頭上に浮いている。
「ドラゴン──?」
『ルフト、その暴言は一度だけ許します。2度目はありませんよ?』
『────メタリオン、その姿は何のつもりか? よもやサザントで惰眠を貪るだけのキサマが魔竜の王たる我に牙をむくつもりではあるまいな?』
サザント、そしてメタリオンという名にルフト達はその背筋を震わす。
大地の魔竜メタリオン──南大陸はファンダルマ山脈に住む魔竜にして南大陸最強の生物が彼等の目の前にいるものの名だと、しかもそれが、先程まで迷宮攻略の仲間として同行していた女戦士の正体だという。
『むろん、そのつもりですが?』
『王に対してその不敬……人に染まりて堕したか』
『勇者憎しから同胞を喰らいて力を奪い、呪いにまみれて災厄を振りまく王など、誰が仰ぎなどするものですか』
『そうか……ならばキサマも、そやつと同じところに連れていってくれるわあ!!』
激昂したヴリトラはリオンに向かって急降下、両腕を前面に突き出しながら爪を剥き突進してくる。
それに応えるようにリオンは急上昇、ヴリトラを迎え撃とうと翼をはためかせる。
『あの子はまだ生きていますが? 怒りでその程度の判断すら誤るとは……哀れな』
『キサマ!! ────ぬぐぅ!!』
バヂン──!!
両者が激突する直前、翼を翻してヴリトラの上をすり抜けようとするリオンに向かって頭を上げたヴリトラの顎に、リオンの振るった尻尾の一撃が見事に命中する。
ただの一撃でヴリトラはその巨体を1回転させると、姿勢を保つためにその場で数度羽ばたく。
『剛力無双──一度死んで我が2つ名を忘れましたか?』
上空で旋回しヴリトラに向き直るリオン。
しかし、
バシャアアアアアン!!
上空の雷雲から落ちてきた無数の雷のうち、数本がリオンに直撃する!!
『あぐううううう!!』
『キサマこそ眠り過ぎて呆けたか? 我はヴリトラ、貴様らの頂点に君臨する魔竜の王よ!!』
『……我等の王は後にも先にも光輝の魔竜たる聖竜王、断じてアナタでは無い!!』
『フン、見栄えが多少変わった程度で別モノと切り捨てる、よくよく人に染まったな!!』
ガシィィィィン────!!
がっぷり四つに組んだ2体の魔竜は揉みあいながらこの町から遠ざかり、湖の方へ飛んで行く。
──そして、残された者達は、
「何なんだよ……もう訳がわかんねえ」
「それでもやるべき事は分かっているはずだ、リオン殿の言葉に従い町の住民の避難と迷宮内の探索者たちへの注意喚起、どちらも一つ間違えば危険な役目だぞ」
「でも、アレはもう……」
「戻ってこない保証などどこにある? あの言葉はそういう意味だ!」
ルフトの言葉に仲間たちは黙って頷き、2~3人の小集団で各々散ってゆく。そして残ったのはルフト、ルディとエル達……そしてシュナとゲンマがシンの周りにいた。
シンの元を放れそうに無い彼等を確認すると、中級の体力回復薬をシンの体に振りまいて肉体の修復を促す。
「ん……んん……」
「意識は戻ったね、はい、シン」
シンはルディの差し出した上級の体力回復薬を飲みほし、傷を完全に癒す。
「ジンさぁぁんん!!」
横たわる上体を起こしたシンにエルが泣きながら抱きつくが、力の加減が出来ないシンはそれを剥がす事も頭を撫でてやる事も出来ず、ただ抱き付かれるままになる。そして、
「エル坊、生きてましたか。それに皆さんお揃いで……はぁ」
シンはデイジーやルフト達、特に親しかった面々がこの場にいることを確認すると、一人の姿を見て大きくため息をつく。
シンの視線の先には、困惑しながらシンとシュナの姿を交互に見るゲンマの姿と、居住まいを正して頭を垂れるシュナの姿があった。
「あー……それは何のおつもりで?」
「御身に気付かなかった無礼をお許し下さい、ヴリトラ討伐の英雄、シンドゥラ様」
「シン……ドゥラ? あの、ジンさん?」
抱きつくエルが見上げるシンの顔は、それこそ苦虫を噛み潰したような顔になり、そして天を仰ぐ。
(何とかなんねえかなぁ……)
何ともならなかった。
──我が事のように自慢する、その紅玉よりも赤き真紅の瞳と──
──疑問を持たずに人は吹く、その姿を見て生き延びた者はいないと──
イズナバールは死出の道、足を踏み入れるは死と同義、そう語られなくなって早4年、いや、もうすぐ5年になるイズナバール湖畔周辺は、かつての呼び名を思い出した。
曰く、邪竜の水飲み場。
曰く、邪竜の縄張り。
曰く、邪竜の狩り場、と──。
「ジンさん!? ジンさんなんですか!?」
自身が慕う青年と同じ外見ながら、あまりにかけ離れた相違点を見せて地面に横たわる青年──シンに向かってエルは悲痛な声で問いかける。
そうであって欲しい願いと、それとは逆の願い。目の前の男がジンであるならば彼は今現在瀕死の状況にあり、そうでなければジンの行方は未だに判らずじまい。
横たわる男は応えない、その代わり男の傍らにはエルもよく知る人物、リオンとルディが膝をついて寄り添っている事を見れば答えは明白だった。
「シン……こんなにボロボロで」
「封印解除の暴走形態でも勝てなかったか……」
リオンは悲しそうに、ルディは苦々しげにそれぞれ顔を歪ませながら呟くと、ゆっくりと上空のそれを見上げる。
古代迷宮の最下層に待ち受けていたソレは、そのルールや常識をことごとく破り、あろうことか地上に躍り出た。
邪竜ヴリトラ──暴竜、災厄の魔竜と呼ばれた伝説の存在。同時に過去のものとなったはずの存在。
それが戻ってきた。空を晴天から曇天に変え、徐々に渦巻く雷雲を頭上に仰ぎながら、かつての姿そのままに。
「聖竜王……」
「竜宝珠を取り込んで完全体になったか……回復魔法を手に入れたのは痛いね」
「2人とも何を言ってるんです!? 何か知ってるんですか!?」
エルの叫びを聞いて、周囲に集まっていたルフトをはじめ攻略部隊の視線が一点に集中する。
『逃げろおおおおおお!!』
『な、なんだあれは? 一体何なんだ──』
ゴオオオオオ──!!
周囲に響き渡る悲鳴と戸惑いの声は、時折聞こえる轟音──ヴリトラのブレスによってある者は瞬く間に炭と化し、またある者は全身がドロドロに腐り落ちる、地獄を見た事が無い者もこれが、これこそが地獄だと口を揃えて答えるであろう光景が広がっている。
その只中にあって彼等だけが無事で居られるのは同種の存在か最高神の存在か、はたまた好物は最後にとっておこうと言うのか。
少なくとも、何も分からぬ自分たちよりあの場で1人動く事の出来たジンが、何かしら事情を知っているかもとの期待を彼等は持っていた。
「教えて欲しいリオン殿、アレは何だ? そしてコレは、彼はジンなのか?」
彼等を代表してルフトはリオンに向かって質問をぶつける。
「アレに関してはあなた達の聞いた通り見た通り、そして文献の通りですよ。あれこそが災厄の魔竜、暴竜にして邪竜ヴリトラです。そしてこちらも見ての通り、アナタ達と共に迷宮を進み、あの場所でアナタ達を死から救ってくれた恩人です」
リオンはそう告げると彼等に向かって背筋が凍るほどの冷たい視線を送る。
兜を脱いで顔を晒しているリオンの顔は無表情でありながら瞳は冷たく、シンに向かって薄気味悪いものを見るような視線を投げる彼らに対して静かに怒る。
(所詮こんなものか……)
人間が臆病な存在だというのはこれでもかと言うほど理解している。だがそれに納得している訳でもない、臆病ゆえに過剰な行動をとる彼等の愚行の歴史なら、憎しみと呪いに囚われているヴリトラ以上に知っている。
だからこそ、エル達やルフトのように、純粋にシンの身を案じることの出来ない彼等には失望を禁じえない、短期間とはいえ仮にも轡を並べた者への態度かと。
「そして、これからの事を迷っているのであれば一刻も早くこの場を離れなさい、ここで死んでしまっては彼の行いが無意味なものになってしまいますからね」
パチン──!
リオンは彼等にそう告げながらシンの防具の留め金を外し、革鎧を脱がせる。
「「うっ──」」
「ジンさん!!」
浅く小刻みな呼吸に合わせて胸が歪に波打つ様は胸骨肋骨が砕けている証であり、手足どころか全身の骨が破壊される、まさに死闘の証明でもあった。
ギュッ──!!
それを見た彼等の、おそらくは自分自身に対する怒りが彼等の唇をきつく閉じさせ、拳を握らせる。自分達を逃がし、あの場でたった一人戦った彼等の恩人に対しての無礼に強く恥じ入る。
そしてリオンはそんな彼等の態度に柔らかい視線を送る。
臆病で移ろいやすい心の持ち主であるが故に、少しのきっかけさえあればその臆病さを乗り越える心のしなやかさを知っている。
(死なせる訳にはいきませんね、シンも、そしてみんなも)
パチン──
「意気込みは買いますが、現状アナタ達にアレに対抗する手立てはありません。それでも何かしたいと思うのであれば、住民の避難と迷宮内に潜ったままの探索者に、今は出てこないように忠告してきなさい、言っておきますが、どちらも簡単ではありませんよ?」
リオンは立ち上がると、今度は自分の防具の留め金を外しながら鎧を脱ぎ出す。
「リオン殿?」
「リオンさん、何を?」
「ルフト、そしてエル、シンを頼みますよ」
鎧を脱ぎ捨て、インナー姿になったリオンは振り向く事無く彼等に告げると、両手を広げて軽く垂直に跳び上がり、
カッ────ドゥン!!
「ぬぐっ……リオン殿!?」
閃光と軽い衝撃波、ルフトはとっさにシンの体を庇いながら薄目を開けると、
「な…………!!」
それは上空で猛威を振るうヴリトラよりも2回りも大きい、全長50メートルに届かんとする巨大なドラゴンの姿が頭上に浮いている。
「ドラゴン──?」
『ルフト、その暴言は一度だけ許します。2度目はありませんよ?』
『────メタリオン、その姿は何のつもりか? よもやサザントで惰眠を貪るだけのキサマが魔竜の王たる我に牙をむくつもりではあるまいな?』
サザント、そしてメタリオンという名にルフト達はその背筋を震わす。
大地の魔竜メタリオン──南大陸はファンダルマ山脈に住む魔竜にして南大陸最強の生物が彼等の目の前にいるものの名だと、しかもそれが、先程まで迷宮攻略の仲間として同行していた女戦士の正体だという。
『むろん、そのつもりですが?』
『王に対してその不敬……人に染まりて堕したか』
『勇者憎しから同胞を喰らいて力を奪い、呪いにまみれて災厄を振りまく王など、誰が仰ぎなどするものですか』
『そうか……ならばキサマも、そやつと同じところに連れていってくれるわあ!!』
激昂したヴリトラはリオンに向かって急降下、両腕を前面に突き出しながら爪を剥き突進してくる。
それに応えるようにリオンは急上昇、ヴリトラを迎え撃とうと翼をはためかせる。
『あの子はまだ生きていますが? 怒りでその程度の判断すら誤るとは……哀れな』
『キサマ!! ────ぬぐぅ!!』
バヂン──!!
両者が激突する直前、翼を翻してヴリトラの上をすり抜けようとするリオンに向かって頭を上げたヴリトラの顎に、リオンの振るった尻尾の一撃が見事に命中する。
ただの一撃でヴリトラはその巨体を1回転させると、姿勢を保つためにその場で数度羽ばたく。
『剛力無双──一度死んで我が2つ名を忘れましたか?』
上空で旋回しヴリトラに向き直るリオン。
しかし、
バシャアアアアアン!!
上空の雷雲から落ちてきた無数の雷のうち、数本がリオンに直撃する!!
『あぐううううう!!』
『キサマこそ眠り過ぎて呆けたか? 我はヴリトラ、貴様らの頂点に君臨する魔竜の王よ!!』
『……我等の王は後にも先にも光輝の魔竜たる聖竜王、断じてアナタでは無い!!』
『フン、見栄えが多少変わった程度で別モノと切り捨てる、よくよく人に染まったな!!』
ガシィィィィン────!!
がっぷり四つに組んだ2体の魔竜は揉みあいながらこの町から遠ざかり、湖の方へ飛んで行く。
──そして、残された者達は、
「何なんだよ……もう訳がわかんねえ」
「それでもやるべき事は分かっているはずだ、リオン殿の言葉に従い町の住民の避難と迷宮内の探索者たちへの注意喚起、どちらも一つ間違えば危険な役目だぞ」
「でも、アレはもう……」
「戻ってこない保証などどこにある? あの言葉はそういう意味だ!」
ルフトの言葉に仲間たちは黙って頷き、2~3人の小集団で各々散ってゆく。そして残ったのはルフト、ルディとエル達……そしてシュナとゲンマがシンの周りにいた。
シンの元を放れそうに無い彼等を確認すると、中級の体力回復薬をシンの体に振りまいて肉体の修復を促す。
「ん……んん……」
「意識は戻ったね、はい、シン」
シンはルディの差し出した上級の体力回復薬を飲みほし、傷を完全に癒す。
「ジンさぁぁんん!!」
横たわる上体を起こしたシンにエルが泣きながら抱きつくが、力の加減が出来ないシンはそれを剥がす事も頭を撫でてやる事も出来ず、ただ抱き付かれるままになる。そして、
「エル坊、生きてましたか。それに皆さんお揃いで……はぁ」
シンはデイジーやルフト達、特に親しかった面々がこの場にいることを確認すると、一人の姿を見て大きくため息をつく。
シンの視線の先には、困惑しながらシンとシュナの姿を交互に見るゲンマの姿と、居住まいを正して頭を垂れるシュナの姿があった。
「あー……それは何のおつもりで?」
「御身に気付かなかった無礼をお許し下さい、ヴリトラ討伐の英雄、シンドゥラ様」
「シン……ドゥラ? あの、ジンさん?」
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