転生薬師は異世界を巡る(旧題:転生者は異世界を巡る)

山川イブキ(nobuyukisan)

文字の大きさ
214 / 231
6章 ライゼン・獣人連合編

277話 義妹の心配事

 ──今、ウチには奇妙な居候いそうろうがいる。

 それはヒト種の男で、名前はシン──ルフト義兄にいさんの友人で、つい最近まで『仕事』で行っていた街、リトルフィンガーで知り合ったのだとか。
 もう、そこからしてオカシイ……。
 年末年始の里帰りと、定期的に送られてくる姉さんへの手紙、そこでこの男の話題なんか一度も出なかったし、手紙に一言も書いていなかった。
 仮に今年になって知り合ったとして、そんな事あり得る? だって義兄さんは、『イズナバール迷宮』の踏破を目標に作られた『異種混合』ってコミュニティの代表をしていたはず。そんな大物と、ごく短期間で、実家に呼ばれるほど仲良くなる方法があるなら教えて欲しい。
 しかも、仲が良いのは義兄さんだけじゃなく、獅子獣人オルバさんや熊獣人ガリュウさん、チョット気難しい兎獣人リーヴァルさんまで彼と親しげに話していた。

『腕のいい薬師だ』

 リーヴァルさんはそう言っていたけど、それだけであの親密度は考えられない。なにより、義兄さんに至っては、

『うん、まあ……シンは頼りになるヤツなんだ、色々と。そう、イロイロと……』

 ……アソコまで隠し事が苦手な義兄さんが、よく組織の代表なんか出来たと思うわ。まあ姉さんも、そんな真っ直ぐな所に惚れたって言ってるから悪い事じゃない……じゃなくて!!
 義兄さんの、何かを黙っている態度も、なぜか隣国の『ライゼン』が身元を保証する『羽飾り』を着けてるのも、会っていきなりアタシの大事なところを……って、そこは違う!
 とにかく、何から何までアヤシイのよ!
 そして何より怪しいのが──目の前の光景なのよね……。

「はぁい、ゴハンの時間ですよ~♪」
「……一体、何をしてるの?」

 この男──シンは今、木材で自作した縦横一メートル、長さ三メートルの簡素な檻に、どこから捕まえてきたのか『鎧ヤモリ』を檻に入れると、あろう事か餌付けをしている。
 鎧ヤモリを無傷でどうやって捕まえたのか、そしてソイツをどうして檻に入れて餌付けをしているのか、どこからツッコめばいいのか判らない……義兄さん、助けて。

「……いやなに、先日の巨大イソギンチャクサウザントソーンの件が気になりましてね」

 会話が飛びすぎて理解できないんですけど?
 ポカンとする私を見てシンは、はじめから話してくれた。最初からそうしなさいよ。
 はじめは、巨大になったサウザントソーンに疑問を持ったのだとか。
 マニエル湿原の広大な温水地帯──温泉を作るには、近くに火山があるのが普通なんだとか。それは確かにそうで、マニエル湿原の南東には確かに大きな火山がある。
 そんな会話を以前、ルフトにいさんとしていたシンは、『コウエンはそれ・・が原因か……』とか言っていたけど、公園がなに?
 なんでも、温泉には火山からしみ出たいろんな栄養? が含まれているらしく、そこで生き物を育てると、普通の所で育てるより大きくなったりするんだとか。
 でも、それでもあそこまで巨大化するのは異常らしく、また、あそこまで巨大化するのを誰も気付かなかったのが不思議だとか。確かにそうよね。

「だから、あれは成長じゃなく、『進化』したんじゃないかと思いましてね」

 シンは昔、南大陸に住む森エルフフォルディアの集落で、巨大なワームにフォレストバイパーの卵を沢山食べさせて、別種の魔物に進化させる儀式を見た事があるらしい。
 フォレストバイパーって、確かBランクモンスターよね……南大陸の森エルフって、どんな凶悪な種族なのよ?
 ……その話は置いといて、シンは、先日のアレも進化の一種じゃないかと思って、実験をしているのだとか。
 頭が痛い……コイツ、頭はきっと良いんだろうけど、魔物をわざわざ進化させようだとか、絶対オカシイ。何を考えているの?
 っと、サウザントソーンといえば──

「ねえアンタ」
「……色々思うところがあるのは仕方ありませんが、出来れば女の子にはアンタじゃなくて、シンと名前で呼んで欲しいですね」
「……シン、あの時サウザントソーンに向かって投げた液体って、何だったの?」

 アレを浴びた直後、苦しみ出したアイツが触手を緩めたおかげで私は逃げる事が出来て……クソッ! 助けてくれた事には感謝してるけど、アンタは乙女の敵よ!!

「そんな乙女の敵を見るような目で見なくても……ハイ、スミマセン。別に毒とかじゃありませんよ、ただの濃い塩水です」

 魚であれ魔物であれ、川や湖などに棲むものは塩水が、逆に海に棲むものには真水が、それぞれ毒のように作用するのだそうだ。聞いた事があるような無いような……。

「だったら、塩をそのまま撒けばよかったじゃないの?」
「それだと表面にしか付着しませんし、塩が溶けで体内に入り込むまで時間がかかるんですよ。その点、あのて・・・の魔物は、身体全体で水分を吸収、排出を繰り返すので、体内に入りやすいんです」

 うん、なるほど、シンが頭が良いのは理解した。

「そういえば言って無かったわね……助けてくれてありがと」
「どういたしまして。女の子の肌にキズが残るのは嬉しくありませんからねえ……あ、彼氏さんによろしく言っといてください」

 義兄さんか……よし、家に戻ったら尻尾を思いっきり踏んづけよう。
 まあ、確かに頭もいいし、最近じゃ姉さん達にも手伝ってもらってあのヘンテコな飴? も沢山作ってる事から薬師としても腕はいいんだろう。それは納得した。
 ただ……やっぱりコレ・・は理解できない。

「……こんな実験して、何か役に立つの?」
「面白いじゃないですか」

 ──あ、コイツ、ヤバイ奴だ。関わったら駄目なヤツだ。
 危険を察知した私が、刺激しないよう静かに後ずさると、シンは面白そうに笑う。コワイ!!
 ……でも、シンが笑ったのは意味が違っていた。

「義理とはいえ、流石ルフトさんの妹ですね。事前に危険を察知するとは」

 ──え、なに?
 私がシンの言葉に戸惑っていると、

 ヴゥン──

「え? ……何コレ?」

 檻の中の鎧ヤモリがブルンと震えると、その表面を魔力の光が包み込み、まるで鼓動のように大きくなったり小さくなったりする。そして──

 ギョオオオワアアアアァァァ──!!

 バギャン!!

「キャアッ──!!」

 天を見上げながら響く魔物の咆哮ほうこうと檻が弾け飛ぶ音、そして私の悲鳴が重なる中、

 ヒュン──ギュルルル!!

 気がつけば、シンの右手にはサウザントソーンの触腕しょくわんから作られた、太いイバラむちと、左手には中身が空になった薬瓶が握られていた。

「そら、よっ!」

 バジャン──!!

 そう言いながらシンが、鎧ヤモリの首に巻きついた鞭を引っ張ると、四メートル近くの大きさに膨れ上がったソイツ・・・はその巨体を水面に引きひきずり倒される。ちょっとシン、一体なんなのその怪力!?
 驚いて動けない私など気にもかけず、シンは暴れる鎧ヤモリだったものに、腰から取り出した布袋の封を開け、何度も開閉している口の中に放り込んだ──。

 ……………………………………。

 二分・・くらいだろうか、暫く暴れていた魔物も次第に大人しくなると、まるで冬眠しているように動かなくなった。
 そして、どこからか取り出した、二本の細い片刃の剣をそいつの身体に突き立てた直後──

 バチバチバチバチ──!!

「キャ!!」

 雷のような激しい炸裂音の後には、身体の一部を真っ黒にした魔物が、ブスブスと煙を上げながら死んでいた。
 ……うん、薬師がどうとかの話じゃない。義兄さん、お願いだからコイツがここにいる間、絶対目を離さないで!!

「なるほど……やっぱり魔物を進化させるのは『魔石』の摂取が原因な訳だ」

 つまり、さっきのは魔石を食べさせてたわけね……なんて勿体ない。

「シン……そんなお金のかかる実験なんかして、何考えてるの?」
「なに、ものは考えようですよ。ホラ、こいつの鱗も外皮も、鎧ヤモリの物より上質だと思いません?」
「……それは、確かに」

 その後シンは、鎧ヤモリ『だったもの』をウチに持って帰ると、義兄さん達と一緒に解体しながら、談笑していた。
 ちなみにその日の晩御飯は凄く美味しかった──。

 うん、やっぱりアイツはよく分かんないヤツだ。
 ──けどまあ、たぶん害は無いと思うから、もう少しくらいなら家に居てもいい、かな?
感想 497

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。