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6章 ライゼン・獣人連合編
279話 忙しい朝・前編
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マニエル湿原が襲撃された日の早朝──。
「──?」
ルフト宅の客間で雑魚寝していたシンは、不意に目を覚ます。
まだ覚めやらぬ頭を振りながら身体を起こすと、その動きに反応したのか、両サイドに寝ている毛むくじゃら二人も目を覚まし、不思議そうにシンを見る。
「外はまだ暗いな……ん?」
────ャァァァ!
「「「──!!」」」
微かに耳に届く声──悲鳴に三人の脳は完全に覚醒すると、跳ねるように立ち上がると屋外に飛び出る。
そこで三人が見たのは──
「!! オイ、こりゃあ一体──」
「マニエル湿原で火事だとぉ!?」
信じられないと言った風に驚愕する獅子獣人と熊獣人に、三人よりもほんの少しだけ早く起き、外に出ていた兎獣人が振り向く。
「火事と言うよりは火攻めだろう。見ろ、橋の上に弓を持った騎兵の姿がある。おそらくアイツが──シン?」
リーヴァルは、炎に包まれたマニエル湿原を無感情のまま見つめるシンに、一瞬恐怖を覚える。殺気や威圧は抑えられているが、その目を見ればシンの心のうちは容易に想像できる。
幸いにして、それを見ずに済んだ残りの二人は、ここも火を放たれている事にようやく気付き、オルバは早朝の寒さでまだ起きてこないルフト達の所に、ガリュウは消火をする為に湿原に飛び降りた。
しかし──
「ぐあああああ!!」
「「──!?」」
直後に響いたガリュウの悲鳴を聞き、弾かれたようにシンとリーヴァルは声の主を探す。
そこには、脇腹から槍を生やしたガリュウが、苦痛に顔を歪めながら、それでも槍を掴んだまま仁王立ちしている。
「く……こんな針で、俺様を串刺しに出来るもんかよ!!」
ブォン──!!
ガリュウは、自分の腹に穂先が十センチほど刺さった槍をそのまま右手で掴むと、身体ごと強引に振り、霧に隠れた襲撃者の手から奪う。
「ちっ──」
小さくした男はそのまま霧の中に身を隠すと、大量出血を恐れて抜く事の出来ない槍を、今度こそ奥深くまで押し込むために機会を伺い、息を潜める。
「伏兵か! 待ってろガリュウ、すぐ──?」
シュン──!
ドスッ!
「ぐむっ!?」
ハンドツリーの根元を覗き込むリーヴァルの背後から、シンが蛮刀を異空間バッグから取り出し、隠れている男に向かって投げつけた。
刀身がくの字に折れ曲がったそれは、ただの剣を投げるよりもキレイに回転し、そのまま兵士の背中に深々と突き刺さる。
そのままシンは、振り向いたリーヴァルに中級の体力回復薬を渡すと、何も言わずに数メートル先の橋まで跳躍した。
タスンと、体重を感じさせぬ着地で騎馬の前に現れた男に、馬上の兵士は一瞬怪訝な表情を浮かべるが、頭に着けた羽飾りを見ると、シンに向かって詰問する。
「キサマ、どういうつもりか? その羽根飾りをつけているという事はライゼンの手の者であろう。なのに何故我らの邪魔をする?」
「……なるほど、つまり手前らはライゼンの人間な訳だ。わざわざ自己紹介ありがとよ」
「ち──死ね!!」
抜剣した男は馬から下りようとするが、
「ヒヒヒィィィンン!!」
「なっ!?」
直後にシンが発した殺気をあてられて、訓練されているはずの軍馬は恐怖のあまり立ち上がると、体勢の悪かった男はそのまま橋の上に振り落とされた。
そのままゆっくり歩きながら両者の差を詰めるシンに向かって、男は剣を突き出す!
ボギン!
「ぐぁっ!!」
しかし、その攻撃が届く前にシンの蹴りが手首を襲い、骨を砕かれると同時に剣を手放してしまい、思わず男は悲鳴を上げる。
「ぐぅぅぅ──」
「民間人ごと街を襲うゴミの分際で人間みたいにピーピー泣くんじゃねえよ。まさかとは思うが、自分は人間だと思ってんじゃねえだろうな? 勘違いも甚だしいぞ、コラ」
シンは、そのまま男の横顔を踏みつけると、そのまま男に問いかける。
「で、遠路はるばるライゼンから来たテメエは、一体何が目的なんだ? ──ああ大丈夫。すぐに自分から話したくなるからよ」
頭を踏みつけたまま、シンは男の二の腕を掴むとゆっくりと引っ張り──
ミチミチミチミチ──ブチィッ!!
そのまま左腕を千切り取った──
「ギャアアアアアア!!」
シンが足を上げると、男は出血を防ごうと右手で肩を抑えるが、砕けた手首のせいで力が入らず、ドクドクと大量に血液が流れ落ちる。
「ああ、これじゃあ話を聞く前に死んじまうか、こりゃ失敗……火精よ、我が手に宿りて全てを焦がせ──”灼手”」
ジュウウウウ──!!
「があああああ!!」
オレンジ色に光るシンの右手が男の肩口に触れると、ジュウジュウと肉の焦げる音と共に、出血は止まり、周囲の血もどす黒い塊になる。
そのままシンは男の右手を掴んで、灼熱の握手を交わしながら男に質問する。
「これ以上痛い目に遭いたくないのなら正直に答えろ。テメエはどこの誰で、何の目的があってこんな事をする?」
「い、言う!! だからっ! て、手を──!!」
シンの魔の手から逃れた男は、恐怖に脅える目でシンを見つめながら、ポツリポツリと話し出す。
──話を聞いたシンは渋面になると、そのまま考え込む。
(オウカの兵だと?)
オウカ──ライゼンの南東にある都市であり、ライゼンと獣人連合を繋ぐ二本の交易街道の先にある、二つの都市の一つである。
仮にライゼンが獣人連合を相手に戦争をする場合、行軍距離を考えてもマニエル湿原の北部を攻めるのはコウエン、オウカは南部になるはずである。
兵士の言葉をそのままに受け止める訳にはいかない、シンはそもそもライゼンを名乗っている事すら信じていない。今の情勢下でライゼンが獣人連合に剣を向ける事自体がおかしいからだ。。灌漑工事はまだ完了しておらず、獣人の手を借りないどころか、わざわざ敵を増やした状態にして工事を続けられるはずも無い。
──ならば別の国の偽装工作か?
だとすれば、彼等も素直にコウエンの兵だと話せばいい。あえてオウカの名を出す必要が無い。
(情報が少ないな……)
「ヒィッ──!!」
シンと目が合った兵士は完全に脅えきっており、嘘を言っているようには見えない。だからこそシンも判断に困っていた。
「シン──!!」
そこへ、家の消火を終えたガリュウ達とルフト一家がシンの元までやって来る。
そして、その足元でガタガタと震える男を一瞥すると、
「──コイツが?」
「本人が言うには自分は『オウカ』の兵士らしいですが、果たしてどこまで信じてよいのか」
「オウカ!? ライゼンが攻めてきたと言うのか!? まさか!!」
「普通に考えればおかしな話ですが、嘘をついているようにも見えません……ルフトさん、俺は族長の所に行ってくるので、後はお願いします」
シンはそう言うと、その場に残っていた馬にまたがり、橋の上を駆ける。
「あ、おいシン──」
「全く、どこが薬師なんだか……」
「そうでもないさ、ホラ」
そう言ってリーヴァルが拾い上げた袋の中には、下級と中級の体力回復薬に、火傷に効く塗り薬などが詰まっている。
ルフト達も、すでに寒露飴を食べて活性化している状態だ。あちこちで反撃の声も上がっている。
彼等の何が目的なのかは未だ分かってはいないが、収束は時間の問題と思える。だからこそ、次は傷病者の救済にまわる頃合だった。
「とりあえず、考えるのは後にしようや」
「だな」
「敵の掃討は俺達に任せろ、ルフトは家族と一緒にケガ人の治療を」
「わかった」
戦闘の終結は終わりに近付いていた。
──────────────
──────────────
パカラッパカラッ──
馬を駆るシンが、橋の終端にある族長宅兼、練武場をその視界に捕らえると、そこには十頭以上の軍馬の姿があった。
「ちっ──標的は族長か?」
あるいは目的の一つか──シンは馬の背に足を掛けると、そのまま高く跳躍して練武場に突入する。そこには──
「フンッ! ワシの技の冴え、その身で喰らうがよいわ──”雪崩突き”」
シュバアアアアア!!
眼前に展開する八人の襲撃者、その全員を革鎧ごと貫いた蜥蜴人は、残心を決めながら、新たな侵入者がシンだと気付くと、ニカッと笑みを浮かべ、親指を立てる。
「ほほぅ。シン殿、音も聞こえぬとは見事な着地ですな」
「……年のせいか、耳は遠いのでは?」
「そうでしたかの? ヤレヤレ、年よりは物忘れも激しくてのう。ハッハッハ」
そう笑う族長の足元には、十五の死体が転がっていた。
ヒューロはひとしきり笑った後、シンを正面から見据えると──
チャキン──
「──何しに来ましたかの、シン殿?」
魔槍を構え、シンに向かって殺気を放った。
「──?」
ルフト宅の客間で雑魚寝していたシンは、不意に目を覚ます。
まだ覚めやらぬ頭を振りながら身体を起こすと、その動きに反応したのか、両サイドに寝ている毛むくじゃら二人も目を覚まし、不思議そうにシンを見る。
「外はまだ暗いな……ん?」
────ャァァァ!
「「「──!!」」」
微かに耳に届く声──悲鳴に三人の脳は完全に覚醒すると、跳ねるように立ち上がると屋外に飛び出る。
そこで三人が見たのは──
「!! オイ、こりゃあ一体──」
「マニエル湿原で火事だとぉ!?」
信じられないと言った風に驚愕する獅子獣人と熊獣人に、三人よりもほんの少しだけ早く起き、外に出ていた兎獣人が振り向く。
「火事と言うよりは火攻めだろう。見ろ、橋の上に弓を持った騎兵の姿がある。おそらくアイツが──シン?」
リーヴァルは、炎に包まれたマニエル湿原を無感情のまま見つめるシンに、一瞬恐怖を覚える。殺気や威圧は抑えられているが、その目を見ればシンの心のうちは容易に想像できる。
幸いにして、それを見ずに済んだ残りの二人は、ここも火を放たれている事にようやく気付き、オルバは早朝の寒さでまだ起きてこないルフト達の所に、ガリュウは消火をする為に湿原に飛び降りた。
しかし──
「ぐあああああ!!」
「「──!?」」
直後に響いたガリュウの悲鳴を聞き、弾かれたようにシンとリーヴァルは声の主を探す。
そこには、脇腹から槍を生やしたガリュウが、苦痛に顔を歪めながら、それでも槍を掴んだまま仁王立ちしている。
「く……こんな針で、俺様を串刺しに出来るもんかよ!!」
ブォン──!!
ガリュウは、自分の腹に穂先が十センチほど刺さった槍をそのまま右手で掴むと、身体ごと強引に振り、霧に隠れた襲撃者の手から奪う。
「ちっ──」
小さくした男はそのまま霧の中に身を隠すと、大量出血を恐れて抜く事の出来ない槍を、今度こそ奥深くまで押し込むために機会を伺い、息を潜める。
「伏兵か! 待ってろガリュウ、すぐ──?」
シュン──!
ドスッ!
「ぐむっ!?」
ハンドツリーの根元を覗き込むリーヴァルの背後から、シンが蛮刀を異空間バッグから取り出し、隠れている男に向かって投げつけた。
刀身がくの字に折れ曲がったそれは、ただの剣を投げるよりもキレイに回転し、そのまま兵士の背中に深々と突き刺さる。
そのままシンは、振り向いたリーヴァルに中級の体力回復薬を渡すと、何も言わずに数メートル先の橋まで跳躍した。
タスンと、体重を感じさせぬ着地で騎馬の前に現れた男に、馬上の兵士は一瞬怪訝な表情を浮かべるが、頭に着けた羽飾りを見ると、シンに向かって詰問する。
「キサマ、どういうつもりか? その羽根飾りをつけているという事はライゼンの手の者であろう。なのに何故我らの邪魔をする?」
「……なるほど、つまり手前らはライゼンの人間な訳だ。わざわざ自己紹介ありがとよ」
「ち──死ね!!」
抜剣した男は馬から下りようとするが、
「ヒヒヒィィィンン!!」
「なっ!?」
直後にシンが発した殺気をあてられて、訓練されているはずの軍馬は恐怖のあまり立ち上がると、体勢の悪かった男はそのまま橋の上に振り落とされた。
そのままゆっくり歩きながら両者の差を詰めるシンに向かって、男は剣を突き出す!
ボギン!
「ぐぁっ!!」
しかし、その攻撃が届く前にシンの蹴りが手首を襲い、骨を砕かれると同時に剣を手放してしまい、思わず男は悲鳴を上げる。
「ぐぅぅぅ──」
「民間人ごと街を襲うゴミの分際で人間みたいにピーピー泣くんじゃねえよ。まさかとは思うが、自分は人間だと思ってんじゃねえだろうな? 勘違いも甚だしいぞ、コラ」
シンは、そのまま男の横顔を踏みつけると、そのまま男に問いかける。
「で、遠路はるばるライゼンから来たテメエは、一体何が目的なんだ? ──ああ大丈夫。すぐに自分から話したくなるからよ」
頭を踏みつけたまま、シンは男の二の腕を掴むとゆっくりと引っ張り──
ミチミチミチミチ──ブチィッ!!
そのまま左腕を千切り取った──
「ギャアアアアアア!!」
シンが足を上げると、男は出血を防ごうと右手で肩を抑えるが、砕けた手首のせいで力が入らず、ドクドクと大量に血液が流れ落ちる。
「ああ、これじゃあ話を聞く前に死んじまうか、こりゃ失敗……火精よ、我が手に宿りて全てを焦がせ──”灼手”」
ジュウウウウ──!!
「があああああ!!」
オレンジ色に光るシンの右手が男の肩口に触れると、ジュウジュウと肉の焦げる音と共に、出血は止まり、周囲の血もどす黒い塊になる。
そのままシンは男の右手を掴んで、灼熱の握手を交わしながら男に質問する。
「これ以上痛い目に遭いたくないのなら正直に答えろ。テメエはどこの誰で、何の目的があってこんな事をする?」
「い、言う!! だからっ! て、手を──!!」
シンの魔の手から逃れた男は、恐怖に脅える目でシンを見つめながら、ポツリポツリと話し出す。
──話を聞いたシンは渋面になると、そのまま考え込む。
(オウカの兵だと?)
オウカ──ライゼンの南東にある都市であり、ライゼンと獣人連合を繋ぐ二本の交易街道の先にある、二つの都市の一つである。
仮にライゼンが獣人連合を相手に戦争をする場合、行軍距離を考えてもマニエル湿原の北部を攻めるのはコウエン、オウカは南部になるはずである。
兵士の言葉をそのままに受け止める訳にはいかない、シンはそもそもライゼンを名乗っている事すら信じていない。今の情勢下でライゼンが獣人連合に剣を向ける事自体がおかしいからだ。。灌漑工事はまだ完了しておらず、獣人の手を借りないどころか、わざわざ敵を増やした状態にして工事を続けられるはずも無い。
──ならば別の国の偽装工作か?
だとすれば、彼等も素直にコウエンの兵だと話せばいい。あえてオウカの名を出す必要が無い。
(情報が少ないな……)
「ヒィッ──!!」
シンと目が合った兵士は完全に脅えきっており、嘘を言っているようには見えない。だからこそシンも判断に困っていた。
「シン──!!」
そこへ、家の消火を終えたガリュウ達とルフト一家がシンの元までやって来る。
そして、その足元でガタガタと震える男を一瞥すると、
「──コイツが?」
「本人が言うには自分は『オウカ』の兵士らしいですが、果たしてどこまで信じてよいのか」
「オウカ!? ライゼンが攻めてきたと言うのか!? まさか!!」
「普通に考えればおかしな話ですが、嘘をついているようにも見えません……ルフトさん、俺は族長の所に行ってくるので、後はお願いします」
シンはそう言うと、その場に残っていた馬にまたがり、橋の上を駆ける。
「あ、おいシン──」
「全く、どこが薬師なんだか……」
「そうでもないさ、ホラ」
そう言ってリーヴァルが拾い上げた袋の中には、下級と中級の体力回復薬に、火傷に効く塗り薬などが詰まっている。
ルフト達も、すでに寒露飴を食べて活性化している状態だ。あちこちで反撃の声も上がっている。
彼等の何が目的なのかは未だ分かってはいないが、収束は時間の問題と思える。だからこそ、次は傷病者の救済にまわる頃合だった。
「とりあえず、考えるのは後にしようや」
「だな」
「敵の掃討は俺達に任せろ、ルフトは家族と一緒にケガ人の治療を」
「わかった」
戦闘の終結は終わりに近付いていた。
──────────────
──────────────
パカラッパカラッ──
馬を駆るシンが、橋の終端にある族長宅兼、練武場をその視界に捕らえると、そこには十頭以上の軍馬の姿があった。
「ちっ──標的は族長か?」
あるいは目的の一つか──シンは馬の背に足を掛けると、そのまま高く跳躍して練武場に突入する。そこには──
「フンッ! ワシの技の冴え、その身で喰らうがよいわ──”雪崩突き”」
シュバアアアアア!!
眼前に展開する八人の襲撃者、その全員を革鎧ごと貫いた蜥蜴人は、残心を決めながら、新たな侵入者がシンだと気付くと、ニカッと笑みを浮かべ、親指を立てる。
「ほほぅ。シン殿、音も聞こえぬとは見事な着地ですな」
「……年のせいか、耳は遠いのでは?」
「そうでしたかの? ヤレヤレ、年よりは物忘れも激しくてのう。ハッハッハ」
そう笑う族長の足元には、十五の死体が転がっていた。
ヒューロはひとしきり笑った後、シンを正面から見据えると──
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