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第2章

第2話(4)

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 群司ははじめ、他愛もない与太話と聞き流していた。兄に関することで気が鬱いでいて、雑談に加わる気になどとてもなれなかったからだ。
 その場かぎりだろうと思っていた『魔法の薬』の話は、しかし、意想外に仲間たちの興味を引いたらしく、その後もしばらく、ゼミの集まりがある都度話題になった。

 少し調べてみると、専用掲示板や個人サイトなどで取り上げているところもそれなりにあったそうで、各自が仕入れた情報について、意見を交換し合いながら真偽のほどを検討していた。

 曰く、愛用者はすでに世界中にひろがっており、ハリウッドセレブから国家権力者、王族、実業家などなど、一流どころが顔をそろえているらしいこと。ゲノム配列の解析にひとりあたり億単位の費用がかかり、薬はその解析結果に基づいて、それぞれの希望を満たすオーダーメイド形式で精製されるらしいこと。要望の内容にもよるが、平均でかかる薬代はひと月でおよそ百万単位。効果を維持するためには継続的に服用しつづける必要があり、結果として、充分な財力を備えたごく一部の人間にのみ門戸が開かれた、選民意識まる出しのエリート製造薬、もしくは超人製造薬と呼ばれていること。その『魔法の薬』は『フェリス』と命名され、その効能によって、より豊かで可能性に満ちた未来を約束された人々は《フェリシアン》と呼ばれる存在であるらしいこと。《フェリシアン》は人類の最上位に位置づけられ、超人類という立場でやがては人類を統べる存在として特別な登録が為されているらしいこと。フェリスを開発したのは日本の大手製薬会社であるらしいこと。当然ながら、日本の政界、財界の中にも相当数のフェリシアンが存在しているらしいこと。フェリシアンとして噂されている各界の著名人たちのリスト等々――

 果ては、フェリスの成分を予測したものまでが多数出まわっているそうで、それらの一覧を仲間内で吟味しては、ああでもないこうでもないと議論していた。最終的には教授までが加わる始末である。
 群司は呆れ半分で傍観していたが、フェリスの存在を嗅ぎつけたマトリや警察が動きはじめているというところで思わず反応した。

 なぜそんな組織が動くのだと尋ねると、はじめて興味を示した群司に嬉しそうな様子を見せながら、仲間のひとりが説明してくれた。周知されておらず、都市伝説のようなかたちでひろがっていることからもわかるとおり、フェリスは認可されておらず、それどころか黒い噂もあるのだと。
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