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第11章
第3話(3)
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痩けた頬。落ち窪んだ眼窩。無精髭が生えていて、焦点の合わない虚ろな眼差しに生気はなかったが、いまぶつかったのは、間違いなく藤川という男だった。天城製薬の社屋のまえで、息子を殺されたと騒いで如月に刃物で襲いかかった人物。
自分でも、どうしてわかったのかと不思議に思うほど、その様相は別人のように面変わりしていたが、それでも間違いないと直感した。
「お~い、群司、どうした?」
後方を振り返ったまま動かなくなった群司に、前方から声がかかった。
フラフラとした足取りで雑踏の中に消えていく男の後ろ姿を群司はしばし見送る。それから、意を決して仲間たちを顧みた。
「悪い、ちょっと急用思い出した。俺、このまま抜けるから、あとはおまえらだけで行ってきて」
「えっ、ちょっ! 群司っ!? 店、すぐそこっ!」
「ほんと悪い。埋め合わせはまた今度」
顔のまえでゴメンと片手をたてて謝罪すると、群司はそのまま身を翻した。
土曜の午後。多くの若者たちで賑わう繁華街は、歩道いっぱいに行き交う人々で溢れかえっていた。藤川の後ろ姿を目で追いながら、群司は携帯を取りだして登録しておいた新宿署の番号を呼び出す。
「あ、すみません。天城製薬で研究アシスタントをしている八神と申しますが、今日、そちらに大島さんはいらっしゃるでしょうか?」
応答した相手に担当の大島に繋いでくれるよう頼むと、今日は非番で出勤していないという。ただし、話は伝わっているらしく、事情を説明すると、すぐに大島に連絡を取って折り返してくれることになった。
携帯を手にしたまま、群司はつかず離れず、適度な距離を保って藤川のあとを追った。
いったい、どこへ向かおうとしているのか。
おぼつかない足取りで雑踏を行く藤川の様子は、なにか目的があるようには思えなかった。
道行く人々も不気味に思うのか、皆、男を避けるように通り過ぎていく。
手にしていた携帯が震動し、群司はすぐに応答した。電話の向こうから、以前一度耳にしている大島の声が聞こえてきた。
『八神さんですか? お電話ありがとうございました。新宿署の大島です』
不在にしていたことを手短に詫びた大島は、すぐに本題に入って、いまの状況を尋ねてきた。群司もできるだけ簡潔に、事の経緯と現状とを報告する。短いやりとりで大体の状況を把握した大島は、すぐに所轄の人間を向かわせると請け合ってくれた。
『くれぐれも無理はしないでくださいね。私もすぐそちらに向かいますから』
「え、でも大島さん、今日、非番なんですよね?」
『あ~、まあ。でもうちの会社の場合、こういうのはわりと日常茶飯事なんで』
気にしないでくれと笑いながら言い置いて電話が切れる。携帯をジーンズのポケットにしまった群司は、あらためて藤川との距離を確認すると、意を決して歩き出した。
自分でも、どうしてわかったのかと不思議に思うほど、その様相は別人のように面変わりしていたが、それでも間違いないと直感した。
「お~い、群司、どうした?」
後方を振り返ったまま動かなくなった群司に、前方から声がかかった。
フラフラとした足取りで雑踏の中に消えていく男の後ろ姿を群司はしばし見送る。それから、意を決して仲間たちを顧みた。
「悪い、ちょっと急用思い出した。俺、このまま抜けるから、あとはおまえらだけで行ってきて」
「えっ、ちょっ! 群司っ!? 店、すぐそこっ!」
「ほんと悪い。埋め合わせはまた今度」
顔のまえでゴメンと片手をたてて謝罪すると、群司はそのまま身を翻した。
土曜の午後。多くの若者たちで賑わう繁華街は、歩道いっぱいに行き交う人々で溢れかえっていた。藤川の後ろ姿を目で追いながら、群司は携帯を取りだして登録しておいた新宿署の番号を呼び出す。
「あ、すみません。天城製薬で研究アシスタントをしている八神と申しますが、今日、そちらに大島さんはいらっしゃるでしょうか?」
応答した相手に担当の大島に繋いでくれるよう頼むと、今日は非番で出勤していないという。ただし、話は伝わっているらしく、事情を説明すると、すぐに大島に連絡を取って折り返してくれることになった。
携帯を手にしたまま、群司はつかず離れず、適度な距離を保って藤川のあとを追った。
いったい、どこへ向かおうとしているのか。
おぼつかない足取りで雑踏を行く藤川の様子は、なにか目的があるようには思えなかった。
道行く人々も不気味に思うのか、皆、男を避けるように通り過ぎていく。
手にしていた携帯が震動し、群司はすぐに応答した。電話の向こうから、以前一度耳にしている大島の声が聞こえてきた。
『八神さんですか? お電話ありがとうございました。新宿署の大島です』
不在にしていたことを手短に詫びた大島は、すぐに本題に入って、いまの状況を尋ねてきた。群司もできるだけ簡潔に、事の経緯と現状とを報告する。短いやりとりで大体の状況を把握した大島は、すぐに所轄の人間を向かわせると請け合ってくれた。
『くれぐれも無理はしないでくださいね。私もすぐそちらに向かいますから』
「え、でも大島さん、今日、非番なんですよね?」
『あ~、まあ。でもうちの会社の場合、こういうのはわりと日常茶飯事なんで』
気にしないでくれと笑いながら言い置いて電話が切れる。携帯をジーンズのポケットにしまった群司は、あらためて藤川との距離を確認すると、意を決して歩き出した。
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