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7.繋がる想い
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ハッと気づいたときには、私の視界には一番に白い天井が飛び込んだ。
私、一体どうしたんだっけ?
何となく見える範囲内にあるものから、ここはどこかの病院なんだと悟る。
頭はぼんやりとしているものの、ついさっきまで見ていた、とても懐かしい夢の余韻はしっかりと残っている。
あの夢は、ただの夢ではない。
私がずっと思い出せなかった、高校時代の恋の思い出だった。
今まで高校生の頃の記憶は、受験生をしていた最後の一年間のことくらいしかまとも思い出せなかった。ずっとその理由がわからなかったけれど、その理由がようやくはっきりした。
まさか本当に忘れていたなんて、思いもしなかった。
しかも自分の人生で最も大切な記憶を忘れていて、それさえも気づいていなかったなんて──。
私が恋愛をしたことがないなんて、そんなことは全くなかったんだ。
私には亮也という大切な彼氏がいて、亮也は……。
私が高校生のときに私を守ろうとして事故に遭った亮也は、あれからどうしたんだろう?
そこから先は、私が亮也と顔を合わせた記憶は全くなかった。
私が藤崎製菓に入社して、副社長と秘書として亮也と再会するまでは。
いくら忘れていた空白の時間の記憶を思い出したとはいえ、高校生の頃に亮也と過ごした記憶は、亮也が赤く染まってぐったりとしている姿を見たところで途絶えている。
とはいえ、私は何年もの時を経て、藤崎製菓の副社長を務める彼と再会したということは事実だ。
あのあと、亮也は助かっていたんだ……。
良かったと思う一方で、今まで亮也のことに気づけなかった自分を責めてしまう。
どうして今まで忘れてしまっていたのだろう。
どうして今まで思い出せなかったのだろう。
少なくともここ二ヶ月近くの時間、こんなに近くに居たのに……。
亮也は、私と再会したとき一体何を思ったのだろう。
何を思って亮也は私を彼の秘書にして、一緒に住まわせたというのだろう。
頭の中にわきあがる問いかけのこたえはわからない。
だけど、亮也は私のことを忘れてなんていなかったということはわかる。
その証拠は、ちゃんとわかりやすく私に呈示されていたのだから。
よみがえった記憶の中でも出てきた、ジグソーパズルのピースのような形のペンダントトップ。
私たちが離れていても一緒だという意味の込められたそれを、今でも彼は胸元にさげていたんだ。
大切そうに、いとおしむように、あのペンダントトップを握りしめて……。
あのときの彼の哀愁を帯びた表情が、今でも鮮明に思い出される。
副社長が私の好みを何かと把握していたのもきっと、お兄ちゃんから聞いたわけではなくて、最初から知ってたんだ。
私のことを咄嗟に“紗和”と呼ぶことがあったのは、過去に亮也は私のことをそう呼んでいたからなのだろう。
私の作ったたまご焼きが懐かしい味がすると言っていたのも、私が高校生の頃に亮也に作ってあげたことがあったから、その味を覚えてくれていたということだ。
そして、副社長と住み始めて最初に彼に抱きしめられて彼の温もりに包まれた夜、懐かしさに似た安心感を覚えた理由も、これではっきりわかった。
無償に今、亮也に会いたい。
会って謝りたい。
だけど、そんな夢の中の余韻から徐々に現実へと引き戻される中、私は重大なことを思い出した。
記憶が途絶える前、トラックの前に飛び出してしまった私に気づいて、こちらに駆けてきていた亮也の姿。
脳裏に蘇るその光景に、途端にゾッとする。
亮也はあれからどうなったの?
まさか亮也は……。
そう思うと、居ても立ってもいられなくて身体を動かそうとしたけれどズキンズキンと強い頭痛に見舞われて、私は元の仰向けの状態に戻ってしまった。
事故の影響なのか、一気に今まで思い出せなかった過去を思い出したからなのか、何だか脳内をかき回されたような感じがして気分が悪い。
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ハッと気づいたときには、私の視界には一番に白い天井が飛び込んだ。
私、一体どうしたんだっけ?
何となく見える範囲内にあるものから、ここはどこかの病院なんだと悟る。
頭はぼんやりとしているものの、ついさっきまで見ていた、とても懐かしい夢の余韻はしっかりと残っている。
あの夢は、ただの夢ではない。
私がずっと思い出せなかった、高校時代の恋の思い出だった。
今まで高校生の頃の記憶は、受験生をしていた最後の一年間のことくらいしかまとも思い出せなかった。ずっとその理由がわからなかったけれど、その理由がようやくはっきりした。
まさか本当に忘れていたなんて、思いもしなかった。
しかも自分の人生で最も大切な記憶を忘れていて、それさえも気づいていなかったなんて──。
私が恋愛をしたことがないなんて、そんなことは全くなかったんだ。
私には亮也という大切な彼氏がいて、亮也は……。
私が高校生のときに私を守ろうとして事故に遭った亮也は、あれからどうしたんだろう?
そこから先は、私が亮也と顔を合わせた記憶は全くなかった。
私が藤崎製菓に入社して、副社長と秘書として亮也と再会するまでは。
いくら忘れていた空白の時間の記憶を思い出したとはいえ、高校生の頃に亮也と過ごした記憶は、亮也が赤く染まってぐったりとしている姿を見たところで途絶えている。
とはいえ、私は何年もの時を経て、藤崎製菓の副社長を務める彼と再会したということは事実だ。
あのあと、亮也は助かっていたんだ……。
良かったと思う一方で、今まで亮也のことに気づけなかった自分を責めてしまう。
どうして今まで忘れてしまっていたのだろう。
どうして今まで思い出せなかったのだろう。
少なくともここ二ヶ月近くの時間、こんなに近くに居たのに……。
亮也は、私と再会したとき一体何を思ったのだろう。
何を思って亮也は私を彼の秘書にして、一緒に住まわせたというのだろう。
頭の中にわきあがる問いかけのこたえはわからない。
だけど、亮也は私のことを忘れてなんていなかったということはわかる。
その証拠は、ちゃんとわかりやすく私に呈示されていたのだから。
よみがえった記憶の中でも出てきた、ジグソーパズルのピースのような形のペンダントトップ。
私たちが離れていても一緒だという意味の込められたそれを、今でも彼は胸元にさげていたんだ。
大切そうに、いとおしむように、あのペンダントトップを握りしめて……。
あのときの彼の哀愁を帯びた表情が、今でも鮮明に思い出される。
副社長が私の好みを何かと把握していたのもきっと、お兄ちゃんから聞いたわけではなくて、最初から知ってたんだ。
私のことを咄嗟に“紗和”と呼ぶことがあったのは、過去に亮也は私のことをそう呼んでいたからなのだろう。
私の作ったたまご焼きが懐かしい味がすると言っていたのも、私が高校生の頃に亮也に作ってあげたことがあったから、その味を覚えてくれていたということだ。
そして、副社長と住み始めて最初に彼に抱きしめられて彼の温もりに包まれた夜、懐かしさに似た安心感を覚えた理由も、これではっきりわかった。
無償に今、亮也に会いたい。
会って謝りたい。
だけど、そんな夢の中の余韻から徐々に現実へと引き戻される中、私は重大なことを思い出した。
記憶が途絶える前、トラックの前に飛び出してしまった私に気づいて、こちらに駆けてきていた亮也の姿。
脳裏に蘇るその光景に、途端にゾッとする。
亮也はあれからどうなったの?
まさか亮也は……。
そう思うと、居ても立ってもいられなくて身体を動かそうとしたけれどズキンズキンと強い頭痛に見舞われて、私は元の仰向けの状態に戻ってしまった。
事故の影響なのか、一気に今まで思い出せなかった過去を思い出したからなのか、何だか脳内をかき回されたような感じがして気分が悪い。
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