はぐれ三匹ぶらり旅

かじや みの

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一話 腐れ縁の始まり 金の山は三匹を誘う

一 

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 深編笠を被った侍が一人、街道を歩いている。

 街道と言っても、人通りの少ない脇道のようだった。
 のどかな田舎道で、着流しに二刀を落としざしにし、悠々と急ぐでもなく歩くその姿は、妙に目立っている。

 実際は、早く歩きたいのだが、できないのだ。

 ゆらゆらと、時にふらつきながら歩くその足が、ふと止まった。

 疲れたのか、膝に手を置いて、腰を落とす。

 すると、後を追ってきた、どこかの家中の侍らしき数人が、走ってきて深編笠を取り囲んだ。

「いい加減にしてくれないかな」

 深編笠が、うんざりしたように言う。

「こっちは、争うつもりなんてないんだけど」

「ならば、大人しく同道を」

「嫌だね。せっかく自由になったんだ。ごめんこうむる」

 侍たちが、一斉に刀の柄に手をかけた。

「懲りないねえ。またやるの? 鬼ごっこはやめようよ。大人なんだからさあ。・・・本当に斬るよ」

「お斬りください」

「も~~っ」

 まるで駄々っ子のように、身を捩った。

 何度か繰り返されたやりとりを、江戸から続けている。

 向こうも本気で斬ってこないことはわかっているから、こちらが降参するまで続けられることになる。

 次第に疲れ、刃を跳ね除ける力がなくなってくるだろう。

 こっちが弱るのを待っているのだとしたら、いずれは成功する。

 兵糧攻めには、勝てそうにない。

 要するに、路銀を持っていなかった。

 正確に言えば、盗まれたのだ。

 己の不得のいたすところで、この侍たちには関係がない。

 不甲斐なさと、苛立ちを刀に乗せるように、鯉口をきる。

 従ってしまえば、飯にありつけるのだろうが、それでは、ここまで来た甲斐がない。

 これはもはや、己との戦いでもあった。

(やるしかないか)

 笠の紐を外し、跳ね上げ、腰を沈めた。

 先ほどとは、まとう気が違う。

 色白の顔をさらし、切れ長の目で鋭く牽制する。

 同時に刀を抜き、峰に返した。
 斬らないという意思表示だ。

「こい!」

 道の右端によっているために、相手の侍は、前と左と後ろにいる。
 右側は、木々が生い茂っていて踏み込めない。

 旅人を妨げないように、早くカタをつけなければならない。

 前と左が同時にきた。
 後ろにもいるため、下がることはできない。

 前に一歩出て、上段から振り下ろされる刃を受け、体を捻って左から来た刃をかわす。
 耳元で刃風がうなる。

 構わず、前へ押し、二撃目が来るのに備えたが、打ってこなかった。

「甘いな」

 言い様に、受け止めた刃を脇へいなし、体勢を崩した侍の胴を打ち、返す刀で今頃打ち込んできた左の侍の胴も打つ。

「どうした、来いよ」

 後ろの侍に向けて刃を伸ばした。

 打たれた侍は道に転がり、痛みにうめいている。
 しばらくは、動けないはずだ。

 トンボを落とすように刃先をくるくる回し、ニヤリと口元を歪める。
 
 これが、さっきやめようと言っていたのと同じ人物とは思えない。

 ジリジリと間合いを詰めていく。

 恐怖に駆られて打ち込んできた侍の刃を、余裕で受け止めて言った。

「それで、おれを捕まえるつもりだったのかよ。もうよすんだな」

 鍔元で刃を跳ね上げ、胴に当てる。

 崩れ落ちる侍を見向きもせず、刀を収めると、ぐううっと腹が鳴った。

 長居は無用だ。

 顔を顰めながら、深編笠を探し、拾うと、被りながらその場を離れる。
 さっきの立ち回りが嘘のように、ふらふらと心許ない足取りだ。

 今のうちに遠くへ行っておかなくては、すぐに追いつかれてしまう。

 鬼ごっこは終わらない。

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