7 / 11
一話 腐れ縁の始まり 金の山は三匹を誘う
七
しおりを挟む
「ちょっと、にいさん、探したわよ」
「そっちこそ、どこ行っちまったんだよ。待てねえから先に行かしてもらったぜ」
「そりゃそうだろうけど、会えなかったらどうしようかと思ったわ」
「へえ、そんなにおいらに会いたかったのかい?」
獅子丸がカッコつけるように顎に手をやった。
「あの子のおかげで会えてよかったわ」
と、おえんは獅子丸のドヤ顔を無視して手を出した。
獅子丸は、そんなおえんを横目で見て、ニヤニヤした。
「何よ」
「あんな物騒なもん、どうすんだよ」
と声をひそめた。
おえんを見る目が、子供達に向けられていたものとは違って、悪事を共有する者の、馴れ馴れしく悪戯っぽいものになる。
「そりゃ、隠したくもなるわなあ」
「う・・・」
預けたものがものだけに、言葉に詰まった。
「ま、おいらに預けたのは正解だ。でもよぉ、通してもらうのに手間取って、これが余分にかかっちまってなあ」
と、上に向けた手のひらに、親指と人差し指で丸を作ってみせた。
「もう少し、弾んでくんない?」
「ええっ? そんなあ・・・」
おえんがげんなりする。
「嘘だよ」
懐に手を入れて、取り出したそれをおえんの手に渡した。
布に包まれているので、見ただけでは何かはわからない。
だが、固く冷たい感じが手のひらに伝わり、それがおえんの手に馴染んだものだと瞬時にわかった。
「あんまり物騒だからよ、子供達に見つからねえうちにここに入れといたんだ」
「ありがとう」
おえんは中身を確かめることなく、素早く帯の結び目に布ごと押し込んだ。
「確かめなくていいのか?」
「持っただけでわかるわよ。あたしのものなんだから」
「どうしてそんなもん、持ってんだ」
獅子丸の目は、絡みつくようにおえんを離さない。
それはそうだ。
危険な物を預けたのだから、当然の疑問だろう。
「父の形見なの」
「家においてこればよかったのに」
「そうもいかないのよ。もうあたしの家はないんだから」
「ない? そういうふうには見えないけど」
獅子丸はおえんをまじまじと眺めた。
家のない無宿者と思われたのだろうか。
「ちょっと前にはあったのよ。取られただけ」
「取られたあ? それこそ物騒だな」
「獅子丸兄ちゃん」
おぎんが駆け寄ってきて、獅子丸に抱きついた。
「そうだ。おとっつあんはどうした? 村の大人たちが事故に巻き込まれたって聞いたぞ」
おぎんは、自分のやるべきことを思い出したようだった。
所在なげに佇んでいた二人の大人を捕まえて、引っ張ってきた。
「おとっつあんは、事故に巻き込まれたんじゃないの。あたい一人じゃ、何にもできないから、手伝ってもらおうと思って。・・・白うさぎの旦那と、ヤモリ先生」
「は?」
獅子丸は目を丸くした。
「うさぎとヤモリ?」
「獅子丸兄ちゃんも、おとっつあんを探すの手伝ってくれる?」
くすくす笑い出したのは、おえんだった。
「なんか面白いわね、おぎんちゃん。うさぎとヤモリとシシなんて」
「おえん姉さんは、閻魔さまのえん?」
「ちょっと何それ! 違うわよ!」
おぎんの言葉に、思わず声を荒げてしまった。
「閻魔さまか。傑作だな」
「当たってんじゃねえの」
三人とも笑い出した。
その笑い声に、子どもたちがまた集まってきた。
「そっちこそ、どこ行っちまったんだよ。待てねえから先に行かしてもらったぜ」
「そりゃそうだろうけど、会えなかったらどうしようかと思ったわ」
「へえ、そんなにおいらに会いたかったのかい?」
獅子丸がカッコつけるように顎に手をやった。
「あの子のおかげで会えてよかったわ」
と、おえんは獅子丸のドヤ顔を無視して手を出した。
獅子丸は、そんなおえんを横目で見て、ニヤニヤした。
「何よ」
「あんな物騒なもん、どうすんだよ」
と声をひそめた。
おえんを見る目が、子供達に向けられていたものとは違って、悪事を共有する者の、馴れ馴れしく悪戯っぽいものになる。
「そりゃ、隠したくもなるわなあ」
「う・・・」
預けたものがものだけに、言葉に詰まった。
「ま、おいらに預けたのは正解だ。でもよぉ、通してもらうのに手間取って、これが余分にかかっちまってなあ」
と、上に向けた手のひらに、親指と人差し指で丸を作ってみせた。
「もう少し、弾んでくんない?」
「ええっ? そんなあ・・・」
おえんがげんなりする。
「嘘だよ」
懐に手を入れて、取り出したそれをおえんの手に渡した。
布に包まれているので、見ただけでは何かはわからない。
だが、固く冷たい感じが手のひらに伝わり、それがおえんの手に馴染んだものだと瞬時にわかった。
「あんまり物騒だからよ、子供達に見つからねえうちにここに入れといたんだ」
「ありがとう」
おえんは中身を確かめることなく、素早く帯の結び目に布ごと押し込んだ。
「確かめなくていいのか?」
「持っただけでわかるわよ。あたしのものなんだから」
「どうしてそんなもん、持ってんだ」
獅子丸の目は、絡みつくようにおえんを離さない。
それはそうだ。
危険な物を預けたのだから、当然の疑問だろう。
「父の形見なの」
「家においてこればよかったのに」
「そうもいかないのよ。もうあたしの家はないんだから」
「ない? そういうふうには見えないけど」
獅子丸はおえんをまじまじと眺めた。
家のない無宿者と思われたのだろうか。
「ちょっと前にはあったのよ。取られただけ」
「取られたあ? それこそ物騒だな」
「獅子丸兄ちゃん」
おぎんが駆け寄ってきて、獅子丸に抱きついた。
「そうだ。おとっつあんはどうした? 村の大人たちが事故に巻き込まれたって聞いたぞ」
おぎんは、自分のやるべきことを思い出したようだった。
所在なげに佇んでいた二人の大人を捕まえて、引っ張ってきた。
「おとっつあんは、事故に巻き込まれたんじゃないの。あたい一人じゃ、何にもできないから、手伝ってもらおうと思って。・・・白うさぎの旦那と、ヤモリ先生」
「は?」
獅子丸は目を丸くした。
「うさぎとヤモリ?」
「獅子丸兄ちゃんも、おとっつあんを探すの手伝ってくれる?」
くすくす笑い出したのは、おえんだった。
「なんか面白いわね、おぎんちゃん。うさぎとヤモリとシシなんて」
「おえん姉さんは、閻魔さまのえん?」
「ちょっと何それ! 違うわよ!」
おぎんの言葉に、思わず声を荒げてしまった。
「閻魔さまか。傑作だな」
「当たってんじゃねえの」
三人とも笑い出した。
その笑い声に、子どもたちがまた集まってきた。
5
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜
かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。
徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。
堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる……
豊臣家に味方する者はいない。
西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。
しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。
全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。
If太平洋戦争 日本が懸命な判断をしていたら
みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら?
国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。
真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。
破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。
現在1945年中盤まで執筆
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ソラノカケラ ⦅Shattered Skies⦆
みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始
台湾側は地の利を生かし善戦するも
人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね
たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される
背に腹を変えられなくなった台湾政府は
傭兵を雇うことを決定
世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった
これは、その中の1人
台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと
舞時景都と
台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと
佐世野榛名のコンビによる
台湾開放戦を描いた物語である
※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる