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一話 腐れ縁の始まり 金の山は三匹を誘う
六
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お寺の境内を借りて、小屋掛けの作業が始まった。
子供達が興味津々に近寄ってくる。
「ねえねえ。にいちゃんなんかやってー」
荷物を運ぶ獅子丸の袖を引っ張った。
「そうだなあ」
一座のほとんどは女子なので、男手は貴重だ。
まして、今この村には働ける男がいない。
遊んでいるわけにはいかないが、子供達の期待を込めた瞳には逆らえない。
「じゃあ、桃太郎でいいか?」
「うん!」
「むか~し、むかしのことじゃったあ」
戯けたように声を張り上げた。
小道具を入れた木箱を運ぶ手を止めることなく、始める。
子供達の目がキラキラと輝きを増す。
ただの語りではない。
「おばあさんは、川に洗濯に。おじいさんは、山へ芝刈りに行ったんじゃ」
言葉だけでも面白いが、そこへ音が入る。
ザクザクという足音から、物を下ろす音。
「川から桃が、どんぶらこ・・・」
何かが流れてくる音が本当にする。
「うんしょ、うんしょ」
荷物を運びながら、おばあさんが桃を運ぶのを再現し、子供たちも一緒になって運ぶ。
「さあて、食べようかのう。おじいさんもいねえから、一人で。・・・うししし」
ポン、と桃が割れる音で、爆笑が起こる。
赤子の泣き声から、おじいさんおばあさんの声も、使い分ける。
人形があるわけでもないのに、音だけで情景が浮かび、劇を見ているような気になるのだ。
動物が出てくるところは圧巻だ。
犬、猿、鳥の鳴き声を本物に似せるのはもちろんのこと、羽ばたきの音も再現する。
「桃太郎、きび団子おくれよ! はあ? おめえにはやらねえよ、ウキキィ。これはおいらんのだ、ワン! いてててっ、雉やろう、つっつきやがったなあ!」
とうとう喧嘩が始まったようだ。
「おい、おめえら、喧嘩してっと、きび団子やらねえぞ」
べらんめえ口調の桃太郎が、ポカポカポカっとゲンコツをくらわす音でも笑いが起こる。
「獅子丸にいちゃん!」
子供が一人、飛び込んできた。
「おう、来たか」
「おぎん姉ちゃんどこ行ってたんだ」
「遅いよ。もう始まっちゃったよ」
「ごめんごめん。続きやって」
鬼ヶ島に乗り込む場面では、口が忙しくなって、荷物を運ぶ手を休めた。
一座のみんなは獅子丸が子供達に囲まれている間は、文句を言わない。
鬼の低く重そうな足音に、軽やかに動き回る動物たちが入り乱れて戦う。
矢が飛ぶ音。
うめく鬼の声。
拍子木を手にして打ちながら、戦の場を演出した。
ぎんが連れてきた妙な大人たちが、突っ立ってこっちを見ていたが、無視する。
「てめえら、手ェ出すんじゃねえぞ」
桃太郎が言って、あたりが静まる。
風がビュービュー吹いて、桃太郎と、鬼の頭との一騎打ちだ。
子供達も、固唾を飲んで見守っている。
一騎打ちは刀や鉄棒ではなく、殴り合いだ。
音真似にも限界がある。
「素手で鬼に敵うわけない」
そう言ったのは、若いお侍だった。
子供達が振り返って、お侍を睨んだので、気まずそうにしている。
動きも、解説もない。
ただ、音のみだ。
桃太郎が鬼に向かっていく。
拳が空を切る音。
激しくぶつかる体。
気合いの息。うめき声。
「やあっ!」
息つまる攻防の末に、投げ飛ばす。
どすん! と地に落ち倒れる。
「おお、見事だ」
と、お侍が手を叩いた。
「うまいもんだな」
息を殺すようにしていた子供達も、それを見て、嬉しそうに手を叩く。
「どうだ、まいったか。まいりました。もう悪さはしないな。しない。じゃあ、奪った宝物を返せ。さすれば許してやろう。ははあ・・・」
侍たちと一緒にきた女が、さっきからソワソワしている。
関所で会った女だということに気がついていた。
子供達が楽しんでいるところに、割り込むことをためらっているようだった。
拍子木をカンカン鳴らした。
「さあ、宝物を運んで帰ろうぜ」
再び、犬、雉、猿の出番だ。
本当に荷車を引いていく。
「猫ばばすんじゃねえぞぉ。にゃあ~・・・あれえ? 猫いたっけ?」
「いなかったーー!!」
子供達が大声で答えた。
「誰だよ、猫になってんのは」
犬! 猿! 雉! 桃太郎! いろんな声が入り乱れた。
「よし。今度はあのお姉ちゃんに、なんかもらっておいで」
獅子丸が指差した方向に、一座の若い女が籠を手に持っている。
わあっと子供達がそっちに走って行った。
入れ替わるようにして、関所の女、おえんが獅子丸に近づいた。
子供達が興味津々に近寄ってくる。
「ねえねえ。にいちゃんなんかやってー」
荷物を運ぶ獅子丸の袖を引っ張った。
「そうだなあ」
一座のほとんどは女子なので、男手は貴重だ。
まして、今この村には働ける男がいない。
遊んでいるわけにはいかないが、子供達の期待を込めた瞳には逆らえない。
「じゃあ、桃太郎でいいか?」
「うん!」
「むか~し、むかしのことじゃったあ」
戯けたように声を張り上げた。
小道具を入れた木箱を運ぶ手を止めることなく、始める。
子供達の目がキラキラと輝きを増す。
ただの語りではない。
「おばあさんは、川に洗濯に。おじいさんは、山へ芝刈りに行ったんじゃ」
言葉だけでも面白いが、そこへ音が入る。
ザクザクという足音から、物を下ろす音。
「川から桃が、どんぶらこ・・・」
何かが流れてくる音が本当にする。
「うんしょ、うんしょ」
荷物を運びながら、おばあさんが桃を運ぶのを再現し、子供たちも一緒になって運ぶ。
「さあて、食べようかのう。おじいさんもいねえから、一人で。・・・うししし」
ポン、と桃が割れる音で、爆笑が起こる。
赤子の泣き声から、おじいさんおばあさんの声も、使い分ける。
人形があるわけでもないのに、音だけで情景が浮かび、劇を見ているような気になるのだ。
動物が出てくるところは圧巻だ。
犬、猿、鳥の鳴き声を本物に似せるのはもちろんのこと、羽ばたきの音も再現する。
「桃太郎、きび団子おくれよ! はあ? おめえにはやらねえよ、ウキキィ。これはおいらんのだ、ワン! いてててっ、雉やろう、つっつきやがったなあ!」
とうとう喧嘩が始まったようだ。
「おい、おめえら、喧嘩してっと、きび団子やらねえぞ」
べらんめえ口調の桃太郎が、ポカポカポカっとゲンコツをくらわす音でも笑いが起こる。
「獅子丸にいちゃん!」
子供が一人、飛び込んできた。
「おう、来たか」
「おぎん姉ちゃんどこ行ってたんだ」
「遅いよ。もう始まっちゃったよ」
「ごめんごめん。続きやって」
鬼ヶ島に乗り込む場面では、口が忙しくなって、荷物を運ぶ手を休めた。
一座のみんなは獅子丸が子供達に囲まれている間は、文句を言わない。
鬼の低く重そうな足音に、軽やかに動き回る動物たちが入り乱れて戦う。
矢が飛ぶ音。
うめく鬼の声。
拍子木を手にして打ちながら、戦の場を演出した。
ぎんが連れてきた妙な大人たちが、突っ立ってこっちを見ていたが、無視する。
「てめえら、手ェ出すんじゃねえぞ」
桃太郎が言って、あたりが静まる。
風がビュービュー吹いて、桃太郎と、鬼の頭との一騎打ちだ。
子供達も、固唾を飲んで見守っている。
一騎打ちは刀や鉄棒ではなく、殴り合いだ。
音真似にも限界がある。
「素手で鬼に敵うわけない」
そう言ったのは、若いお侍だった。
子供達が振り返って、お侍を睨んだので、気まずそうにしている。
動きも、解説もない。
ただ、音のみだ。
桃太郎が鬼に向かっていく。
拳が空を切る音。
激しくぶつかる体。
気合いの息。うめき声。
「やあっ!」
息つまる攻防の末に、投げ飛ばす。
どすん! と地に落ち倒れる。
「おお、見事だ」
と、お侍が手を叩いた。
「うまいもんだな」
息を殺すようにしていた子供達も、それを見て、嬉しそうに手を叩く。
「どうだ、まいったか。まいりました。もう悪さはしないな。しない。じゃあ、奪った宝物を返せ。さすれば許してやろう。ははあ・・・」
侍たちと一緒にきた女が、さっきからソワソワしている。
関所で会った女だということに気がついていた。
子供達が楽しんでいるところに、割り込むことをためらっているようだった。
拍子木をカンカン鳴らした。
「さあ、宝物を運んで帰ろうぜ」
再び、犬、雉、猿の出番だ。
本当に荷車を引いていく。
「猫ばばすんじゃねえぞぉ。にゃあ~・・・あれえ? 猫いたっけ?」
「いなかったーー!!」
子供達が大声で答えた。
「誰だよ、猫になってんのは」
犬! 猿! 雉! 桃太郎! いろんな声が入り乱れた。
「よし。今度はあのお姉ちゃんに、なんかもらっておいで」
獅子丸が指差した方向に、一座の若い女が籠を手に持っている。
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