はぐれ三匹ぶらり旅

かじや みの

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一話 腐れ縁の始まり 金の山は三匹を誘う

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 お寺の境内を借りて、小屋掛けの作業が始まった。

 子供達が興味津々に近寄ってくる。

「ねえねえ。にいちゃんなんかやってー」

 荷物を運ぶ獅子丸の袖を引っ張った。

「そうだなあ」

 一座のほとんどは女子なので、男手は貴重だ。
 まして、今この村には働ける男がいない。
 遊んでいるわけにはいかないが、子供達の期待を込めた瞳には逆らえない。

「じゃあ、桃太郎でいいか?」
「うん!」

「むか~し、むかしのことじゃったあ」

 戯けたように声を張り上げた。

 小道具を入れた木箱を運ぶ手を止めることなく、始める。
 子供達の目がキラキラと輝きを増す。

 ただの語りではない。
「おばあさんは、川に洗濯に。おじいさんは、山へ芝刈りに行ったんじゃ」
 言葉だけでも面白いが、そこへ音が入る。
 ザクザクという足音から、物を下ろす音。
「川から桃が、どんぶらこ・・・」
 何かが流れてくる音が本当にする。

「うんしょ、うんしょ」
 荷物を運びながら、おばあさんが桃を運ぶのを再現し、子供たちも一緒になって運ぶ。
「さあて、食べようかのう。おじいさんもいねえから、一人で。・・・うししし」
 ポン、と桃が割れる音で、爆笑が起こる。
 赤子の泣き声から、おじいさんおばあさんの声も、使い分ける。
 人形があるわけでもないのに、音だけで情景が浮かび、劇を見ているような気になるのだ。

 動物が出てくるところは圧巻だ。
 犬、猿、鳥の鳴き声を本物に似せるのはもちろんのこと、羽ばたきの音も再現する。
「桃太郎、きび団子おくれよ! はあ? おめえにはやらねえよ、ウキキィ。これはおいらんのだ、ワン! いてててっ、雉やろう、つっつきやがったなあ!」
 とうとう喧嘩が始まったようだ。
「おい、おめえら、喧嘩してっと、きび団子やらねえぞ」
 べらんめえ口調の桃太郎が、ポカポカポカっとゲンコツをくらわす音でも笑いが起こる。

「獅子丸にいちゃん!」

 子供が一人、飛び込んできた。
「おう、来たか」

「おぎん姉ちゃんどこ行ってたんだ」
「遅いよ。もう始まっちゃったよ」
「ごめんごめん。続きやって」

 鬼ヶ島に乗り込む場面では、口が忙しくなって、荷物を運ぶ手を休めた。

 一座のみんなは獅子丸が子供達に囲まれている間は、文句を言わない。

 鬼の低く重そうな足音に、軽やかに動き回る動物たちが入り乱れて戦う。
 矢が飛ぶ音。
 うめく鬼の声。
 拍子木を手にして打ちながら、戦の場を演出した。

 ぎんが連れてきた妙な大人たちが、突っ立ってこっちを見ていたが、無視する。

「てめえら、手ェ出すんじゃねえぞ」
 桃太郎が言って、あたりが静まる。
 風がビュービュー吹いて、桃太郎と、鬼の頭との一騎打ちだ。

 子供達も、固唾を飲んで見守っている。

 一騎打ちは刀や鉄棒ではなく、殴り合いだ。
 音真似にも限界がある。

「素手で鬼に敵うわけない」
 そう言ったのは、若いお侍だった。

 子供達が振り返って、お侍を睨んだので、気まずそうにしている。

 動きも、解説もない。
 ただ、音のみだ。

 桃太郎が鬼に向かっていく。
 拳が空を切る音。
 激しくぶつかる体。
 気合いの息。うめき声。
「やあっ!」
 息つまる攻防の末に、投げ飛ばす。
 どすん! と地に落ち倒れる。

「おお、見事だ」
 と、お侍が手を叩いた。
「うまいもんだな」

 息を殺すようにしていた子供達も、それを見て、嬉しそうに手を叩く。

「どうだ、まいったか。まいりました。もう悪さはしないな。しない。じゃあ、奪った宝物を返せ。さすれば許してやろう。ははあ・・・」

 侍たちと一緒にきた女が、さっきからソワソワしている。
 関所で会った女だということに気がついていた。

 子供達が楽しんでいるところに、割り込むことをためらっているようだった。

 拍子木をカンカン鳴らした。

「さあ、宝物を運んで帰ろうぜ」
 再び、犬、雉、猿の出番だ。

 本当に荷車を引いていく。

「猫ばばすんじゃねえぞぉ。にゃあ~・・・あれえ? 猫いたっけ?」
「いなかったーー!!」
 子供達が大声で答えた。

「誰だよ、猫になってんのは」
 犬! 猿! 雉! 桃太郎! いろんな声が入り乱れた。

「よし。今度はあのお姉ちゃんに、なんかもらっておいで」

 獅子丸が指差した方向に、一座の若い女が籠を手に持っている。

 わあっと子供達がそっちに走って行った。

 入れ替わるようにして、関所の女、おえんが獅子丸に近づいた。
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