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一話 腐れ縁の始まり 金の山は三匹を誘う
五
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「お侍さんも早く!」
女の子が、源斎と亮輔を引っ張っていく。
「おいおい。どこに行くんだ?」
「あたいの村」
「村に帰ったら、捕まるんじゃないの?」
「違うの。村にいれば大丈夫なんだ」
「どういうことだ」
「そうだよね、聞いてくれる?」
女の子が、二人の袖を放すまいと握り込んでいる。
追われていたことが怖かったという感じではない。
思わぬ拾い物に、得したと嬉そうにしているのだ。
「じゃあ、あたしは行くから」
と道を急ぐ三人に踵を返しかけたおえんは、あ、そうそうと、女の子と、源斎に声をかけた。
自然とついていく形になる。
「旅の一座を見かけなかった? 探しているんだけど」
「見なかったよ」
女の子がにべもなく言った。
「わしも知らん」
「ああ、そう。・・・本街道行っちゃったのかしら。困ったわね」
ガックリと肩を落とした。
「あ、でも・・・」
女の子は立ち止まったおえんを振り返りながら、思いついたように言う。
「獅子丸にいちゃんの菊丸一座なら、今日あたりうちの村に来るんじゃない? 村長さんが言ってた」
「それだ!」
探していた一座だ。
ついて行くしかない。
奇妙な四人連れになった。
ぎんと名乗った女の子は、それぞれの名前を聞いてから話し出した。
「おとっつぁんは、正吉といって、山師なんだけど、山に入ったっきり帰ってこないの。遭難なんてあり得ないと思うんだけど、あんまり帰ってこないから心配になって」
「それは心配だな」
「一人で探しに行ったのか? それは危険だろう」
子供が一人で山に入るのは危険だ。
「村の山なら平気よ。慣れてるから。よくおとっつぁんについて歩いてるし。一緒について行けばよかったんだけど・・・危険だからお前は来るなって言われて・・・」
「なるほど。それでは探しに行きたくなるな」
「それで、どうして追われたの?」
仕方なく後ろについて歩いていたおえんが、前のめりに訊く。
今の話では、悪いことをしているようには思えない。
「代官が悪い奴なのか」
亮輔が断定するように言い切った。
「鉱場に近づいたら役人がいて・・・」
「鉱場って?」
「金を掘ってるの。落盤事故があって、みんな生き埋めになったんだ」
「え!?」
三人とも、なんと言ったらいいのか黙ってしまった。
重苦しい空気が流れる中、おぎんだけが何食わぬ顔で歩いていた。
「今、そこは立ち入りが禁止されているの。また崩れると危険だからって」
二人の袖を握る拳に力を込めた。
「でも、そんなのおかしいよ。間歩は、一方が塞がれても、一本道じゃないから抜けられるはずなんだけどな・・・」
おぎんの声は小さく、つぶやくようだった。
◇ ◇ ◇
「ここだっけ」
一座の荷車が村に入った。
「なんか、すっかり寂れちまったな」
獅子丸は、しんと静まりかえった村の様子に首をかしげた。
「なんか、寂しいわね」
一座のみんなも口々に言い、辺りを見回している。
まるで村には誰もいないかのようにひっそりしていた。
ここは、鉱山で栄えた村で、以前きた時は、羽振も良く、たくさんの人が芝居を見に来てくれていた。
村長の屋敷の前に荷車を停めて、挨拶をするために中に入る。
出てきた村長さんも、元気がないようだ。
「今年もどうぞ、ご贔屓に。よろしくお願いいたします」
一同頭を下げる。
菊丸一座は、娘芝居が売りで、うら若い娘が大半なので、ずらりと揃ってお辞儀をするだけで、興行主はご機嫌になるものだが、今日の村長さんは、弱々しく笑っただけだった。
「何かあったんでしょうか」
座頭の菊丸が口を開いた。
もう五十歳近くになるが、美貌は衰えず、誰よりもしゃんと背筋が伸びて、その威厳には誰も敵わない。
諸国に、菊丸を贔屓にする興行主がたくさんいた。
男の獅子丸も、その気風とかっこよさに憧れていた。
村長さんは、白髪の好々爺のような人だが、弱々しい笑顔を引っ込めてうなずいた。
「実はのう。男衆のほとんどが、事故に遭って帰ってこんのじゃよ」
村が死んだようになっているのは、そのためか。
衝撃的な告白に、言葉をなくした。
「そんな大変なときに、よろしいのでしょうか」
遠慮がちに座頭が訊く。
「いやいや、こんな時だからこそ、あんたたちに来てもらいたかったんじゃよ」
一座が来たことは、荷車に立てられた幟がはためいていることでも知れる。
子供達が集まってきていた。
女の子が、源斎と亮輔を引っ張っていく。
「おいおい。どこに行くんだ?」
「あたいの村」
「村に帰ったら、捕まるんじゃないの?」
「違うの。村にいれば大丈夫なんだ」
「どういうことだ」
「そうだよね、聞いてくれる?」
女の子が、二人の袖を放すまいと握り込んでいる。
追われていたことが怖かったという感じではない。
思わぬ拾い物に、得したと嬉そうにしているのだ。
「じゃあ、あたしは行くから」
と道を急ぐ三人に踵を返しかけたおえんは、あ、そうそうと、女の子と、源斎に声をかけた。
自然とついていく形になる。
「旅の一座を見かけなかった? 探しているんだけど」
「見なかったよ」
女の子がにべもなく言った。
「わしも知らん」
「ああ、そう。・・・本街道行っちゃったのかしら。困ったわね」
ガックリと肩を落とした。
「あ、でも・・・」
女の子は立ち止まったおえんを振り返りながら、思いついたように言う。
「獅子丸にいちゃんの菊丸一座なら、今日あたりうちの村に来るんじゃない? 村長さんが言ってた」
「それだ!」
探していた一座だ。
ついて行くしかない。
奇妙な四人連れになった。
ぎんと名乗った女の子は、それぞれの名前を聞いてから話し出した。
「おとっつぁんは、正吉といって、山師なんだけど、山に入ったっきり帰ってこないの。遭難なんてあり得ないと思うんだけど、あんまり帰ってこないから心配になって」
「それは心配だな」
「一人で探しに行ったのか? それは危険だろう」
子供が一人で山に入るのは危険だ。
「村の山なら平気よ。慣れてるから。よくおとっつぁんについて歩いてるし。一緒について行けばよかったんだけど・・・危険だからお前は来るなって言われて・・・」
「なるほど。それでは探しに行きたくなるな」
「それで、どうして追われたの?」
仕方なく後ろについて歩いていたおえんが、前のめりに訊く。
今の話では、悪いことをしているようには思えない。
「代官が悪い奴なのか」
亮輔が断定するように言い切った。
「鉱場に近づいたら役人がいて・・・」
「鉱場って?」
「金を掘ってるの。落盤事故があって、みんな生き埋めになったんだ」
「え!?」
三人とも、なんと言ったらいいのか黙ってしまった。
重苦しい空気が流れる中、おぎんだけが何食わぬ顔で歩いていた。
「今、そこは立ち入りが禁止されているの。また崩れると危険だからって」
二人の袖を握る拳に力を込めた。
「でも、そんなのおかしいよ。間歩は、一方が塞がれても、一本道じゃないから抜けられるはずなんだけどな・・・」
おぎんの声は小さく、つぶやくようだった。
◇ ◇ ◇
「ここだっけ」
一座の荷車が村に入った。
「なんか、すっかり寂れちまったな」
獅子丸は、しんと静まりかえった村の様子に首をかしげた。
「なんか、寂しいわね」
一座のみんなも口々に言い、辺りを見回している。
まるで村には誰もいないかのようにひっそりしていた。
ここは、鉱山で栄えた村で、以前きた時は、羽振も良く、たくさんの人が芝居を見に来てくれていた。
村長の屋敷の前に荷車を停めて、挨拶をするために中に入る。
出てきた村長さんも、元気がないようだ。
「今年もどうぞ、ご贔屓に。よろしくお願いいたします」
一同頭を下げる。
菊丸一座は、娘芝居が売りで、うら若い娘が大半なので、ずらりと揃ってお辞儀をするだけで、興行主はご機嫌になるものだが、今日の村長さんは、弱々しく笑っただけだった。
「何かあったんでしょうか」
座頭の菊丸が口を開いた。
もう五十歳近くになるが、美貌は衰えず、誰よりもしゃんと背筋が伸びて、その威厳には誰も敵わない。
諸国に、菊丸を贔屓にする興行主がたくさんいた。
男の獅子丸も、その気風とかっこよさに憧れていた。
村長さんは、白髪の好々爺のような人だが、弱々しい笑顔を引っ込めてうなずいた。
「実はのう。男衆のほとんどが、事故に遭って帰ってこんのじゃよ」
村が死んだようになっているのは、そのためか。
衝撃的な告白に、言葉をなくした。
「そんな大変なときに、よろしいのでしょうか」
遠慮がちに座頭が訊く。
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子供達が集まってきていた。
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