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一話 腐れ縁の始まり 金の山は三匹を誘う
十
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「ヤモリ先生! ウサギの旦那! 支度できたあ?」
朝から元気な声が庄屋の屋敷に響いた。
おぎんが二人を呼んでいる。
獅子丸は、見送りの一座の人たちと、すでに到着している。
「握り飯作ったから持っていって」
おえんは、風呂敷包を獅子丸に手渡した。
「悪いな」
「お姉ちゃんの作ったご飯、めちゃくちゃ美味しいよ!」
「ありがと、おぎんちゃん」
「ほんと、こんな美味しいおにぎり、食べたことないもん」
「そうお?」
褒められて悪い気はしない。
「みんなにも食べさせてあげるね。楽しみにしててね」
屈託のない笑顔に、みんなが笑顔になる。
大事なものを取り戻したおえんは、もうこの村にいる必要はなかったのだが、おぎんが、家に泊まっていけというので留まっていた。
ひとりぼっちのおぎんが不憫に思え、泊まることにしたのだった。
その夜、一人で寝るのが寂しかったのだろう。
母親はすでになく、父親は行方不明で不安な夜が続いていた。
一つの布団で、抱き合うようにして一緒に寝たのだ。
男たちが事故に遭ったというこの村の女たちも、不安な夜を過ごしていたに違いない。
おえんにできることは、今、こうして寄り添ってあげることだけだ。
「あ、ウサギの旦那、似合ってる」
「そうか?」
亮輔が山歩きのしやすい山師の格好で姿を現した。
ただ、白い顔が姿と合っていなくて、ちぐはぐな感じは否めない。
その格好が珍しいらしく、目をキラキラさせて、自分の姿を眺めている。
「あれ? ヤモリ先生は?」
準備万端そうな源斎の姿はまだ見えない。
「待たせたな」
源斎が、湯呑みを三つお盆に乗せて持ってきた。
「なになに?」
おぎんが湯呑みの中を覗く。
濃い緑色の、茶のようなものが入っている。
「お茶?」
「まあ、そんなものだ。薬というほどではないが、薬だと思って飲んでくれ。・・・二人とも、昨夜は寝不足のようだからな」
源斎はそう言うと、毒味をするように、まず自分が湯呑みを取って口にする。
それを見て、二人も湯呑みを取った。
恐る恐る飲む。
「ぶはっ! にがっ」
「うえっ! まっず」
二人とも思わず吐き出し、水水っ! と大騒ぎだ。
「良薬は口に苦しだ。そんなにまずかったか?」
と平気な顔の源斎が首を捻っている。
おぎんがお腹を抱えて笑いころげている。
見送りに来てくれた女たちもおかしそうに笑っている。
「さあ、行こうか」
気を取り直して三人とも気を引き締める。
代官所が絡んでいるかもしれないのだ。
見張もいて、力ずくで阻止してくるだろう。
「こっちはまかしといて」
おえんは村に残る。
「ああ、留守は頼んだぜ。大丈夫だとは思うけど。なんたって、鉄砲玉のねえちゃんだもんな」
獅子丸が意味ありげな笑みを浮かべている。
「しっ」
顔をしかめて獅子丸を止める。
「鉄砲玉?」
おぎんが目を丸くする。
「おうよ。閻魔さまは強えんだ」
おえんは咳払いでごました。
いざというときは、これで・・・と思っているが、使うことはないと信じたい。
「さあ、行くよ! ついてきて」
おぎんが声を張り上げる。
「目指すは武田の埋蔵金!」
「埋蔵金?」
「そう、おとっつぁんが山に行くときにいつも言ってるの。山にはたくさんお宝が眠ってるから、それを掘り起こしに行くって」
「へえ・・・」
埋蔵金という言葉に、三匹の目が途端に輝きだした。
源斎の薬よりも、よほど効果がある。
「金かあ・・・」
「見つかるといいな」
「早く行こうぜ」
源斎まで目の色が違っている。
肩を組んでいきそうな勢いだった。
「ちょっと、気をつけてよ。遊びじゃないんだからさ。そんなの簡単に見つかるわけないでしょ」
急に元気になった男たちを、おえんが嗜めるが、聞こえているのかさえ危うい。
「もう、ほんと、単純」
ため息をつくおえんに、おぎんがすっと身を寄せた。
「男って、みんな馬鹿だから、ほんとしょがないよね」
と片目をつぶって見せる。
昼間のおぎんは子供だということを忘れるほど、しっかりしていた。
「おぎん、くれぐれも無茶はするなよ。方々も山を甘く見てはなりませんぞ。無理せず早く帰ってきてくだされ」
庄屋が声をかけると、神妙にうなずき、行ってきますと、手を振って四人は出発した。
朝から元気な声が庄屋の屋敷に響いた。
おぎんが二人を呼んでいる。
獅子丸は、見送りの一座の人たちと、すでに到着している。
「握り飯作ったから持っていって」
おえんは、風呂敷包を獅子丸に手渡した。
「悪いな」
「お姉ちゃんの作ったご飯、めちゃくちゃ美味しいよ!」
「ありがと、おぎんちゃん」
「ほんと、こんな美味しいおにぎり、食べたことないもん」
「そうお?」
褒められて悪い気はしない。
「みんなにも食べさせてあげるね。楽しみにしててね」
屈託のない笑顔に、みんなが笑顔になる。
大事なものを取り戻したおえんは、もうこの村にいる必要はなかったのだが、おぎんが、家に泊まっていけというので留まっていた。
ひとりぼっちのおぎんが不憫に思え、泊まることにしたのだった。
その夜、一人で寝るのが寂しかったのだろう。
母親はすでになく、父親は行方不明で不安な夜が続いていた。
一つの布団で、抱き合うようにして一緒に寝たのだ。
男たちが事故に遭ったというこの村の女たちも、不安な夜を過ごしていたに違いない。
おえんにできることは、今、こうして寄り添ってあげることだけだ。
「あ、ウサギの旦那、似合ってる」
「そうか?」
亮輔が山歩きのしやすい山師の格好で姿を現した。
ただ、白い顔が姿と合っていなくて、ちぐはぐな感じは否めない。
その格好が珍しいらしく、目をキラキラさせて、自分の姿を眺めている。
「あれ? ヤモリ先生は?」
準備万端そうな源斎の姿はまだ見えない。
「待たせたな」
源斎が、湯呑みを三つお盆に乗せて持ってきた。
「なになに?」
おぎんが湯呑みの中を覗く。
濃い緑色の、茶のようなものが入っている。
「お茶?」
「まあ、そんなものだ。薬というほどではないが、薬だと思って飲んでくれ。・・・二人とも、昨夜は寝不足のようだからな」
源斎はそう言うと、毒味をするように、まず自分が湯呑みを取って口にする。
それを見て、二人も湯呑みを取った。
恐る恐る飲む。
「ぶはっ! にがっ」
「うえっ! まっず」
二人とも思わず吐き出し、水水っ! と大騒ぎだ。
「良薬は口に苦しだ。そんなにまずかったか?」
と平気な顔の源斎が首を捻っている。
おぎんがお腹を抱えて笑いころげている。
見送りに来てくれた女たちもおかしそうに笑っている。
「さあ、行こうか」
気を取り直して三人とも気を引き締める。
代官所が絡んでいるかもしれないのだ。
見張もいて、力ずくで阻止してくるだろう。
「こっちはまかしといて」
おえんは村に残る。
「ああ、留守は頼んだぜ。大丈夫だとは思うけど。なんたって、鉄砲玉のねえちゃんだもんな」
獅子丸が意味ありげな笑みを浮かべている。
「しっ」
顔をしかめて獅子丸を止める。
「鉄砲玉?」
おぎんが目を丸くする。
「おうよ。閻魔さまは強えんだ」
おえんは咳払いでごました。
いざというときは、これで・・・と思っているが、使うことはないと信じたい。
「さあ、行くよ! ついてきて」
おぎんが声を張り上げる。
「目指すは武田の埋蔵金!」
「埋蔵金?」
「そう、おとっつぁんが山に行くときにいつも言ってるの。山にはたくさんお宝が眠ってるから、それを掘り起こしに行くって」
「へえ・・・」
埋蔵金という言葉に、三匹の目が途端に輝きだした。
源斎の薬よりも、よほど効果がある。
「金かあ・・・」
「見つかるといいな」
「早く行こうぜ」
源斎まで目の色が違っている。
肩を組んでいきそうな勢いだった。
「ちょっと、気をつけてよ。遊びじゃないんだからさ。そんなの簡単に見つかるわけないでしょ」
急に元気になった男たちを、おえんが嗜めるが、聞こえているのかさえ危うい。
「もう、ほんと、単純」
ため息をつくおえんに、おぎんがすっと身を寄せた。
「男って、みんな馬鹿だから、ほんとしょがないよね」
と片目をつぶって見せる。
昼間のおぎんは子供だということを忘れるほど、しっかりしていた。
「おぎん、くれぐれも無茶はするなよ。方々も山を甘く見てはなりませんぞ。無理せず早く帰ってきてくだされ」
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