はぐれ三匹ぶらり旅

かじや みの

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一話 腐れ縁の始まり 金の山は三匹を誘う

十一

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 道案内はおぎんだ。

 普段父親と山を歩くことがあるようで、迷うことなく登っていく。

「先生は、山によく登るの?」

 おぎんが振り向いて聞いている。

「ああ、そうだな。薬草を探しによく登る」
 ほっかむりに山師のような姿がなぜか似合っている。

「そう。じゃあ平気ね。・・・うさぎの旦那は大丈夫なの? 山に登ったことある?」
 おぎんは、子供らしく無遠慮にきく。

「ない。これが初めてだ」
 少し恥ずかしかったが、正直に言う。

「やっぱり。なんか危なっかしい感じだから」
「そうか? 体力がないわけではないと思うが」
「剣の腕は確かだな」
 助け舟を出すように、源斎が言った。
「それはそうね」
 おぎんも、亮輔の腕はじかに見ている。

 白くても、弱々しい感じはない。

 線が細いわけでもなく、体は鍛えられている。

「今までどこにいたの? もしかして外に出たことないの?」

 器用に歩きながら、亮輔の白い顔をまじまじと見る。
 足元を見なくても平気なおぎんが、たくましく見える。

「そんなことは・・・ないさ」
 とは言ったものの、実は事実だ。

 正直に言っても信じてもらえないと亮輔は思っている。

 誰が信じるだろう。
 屋敷から出たことがないなんて、病でもない、いい大人が。

「幼い頃は、病がちで・・・」
 それは、間違いないし、よくある話だ。

「なるほど」
 うんうんとおぎんが頷く。

「体を鍛えるために、剣術をやってたんだ」
 これで、納得してくれるだろうか。
「道場に通っていたのに、黒くならなかったんだね」
「そういうことだな」
 そう言って笑って誤魔化した。

 道場に通っていたわけではないが、剣術の稽古は許されていた。

 通わなくとも剣術指南役がついて、指導を受けていたのだ。

 それが意外に楽しく、いい気分転換になっていた。

 外に出してもらえない鬱憤を溜めずにこられたのは、剣術に打ち込むことができたからだ。

 飴と鞭でいえば、飴の部分と言ってもいいだろう。

 今思えば、うまく飼い慣らされていたと言える。

 鞭はなんだっただろう。

 家老の言いなりになっていれば、それがお家のため、父のため、国元にいる兄弟のためだと思い込まされていた。
 自分が我慢して大人しくしていれば、すべてがうまくいくのだと。

 そして、あるとき気がついてしまった。
 どうして自分は、ここに大人しく監禁されているのだろうと。

 かごの鳥が、扉が開いているにもかかわらず、出ていかないのと同じように。

 気がつくのが遅すぎると言われてしまえば、まったくその通りだった。
 幼い頃から刷り込まれた、間違った常識の力は凄まじいものがある。

 だからこうして、屋敷の外に出て、旅をし、監視されることなく自由に山を歩くことが、嬉しくてたまらない。

 そんな顔は見せないように、下を向いているが、辛そうには見えないはずだ。




 四人が登っているのは、道ではない。
 見つからないようにわざとなのか、いつも山師が使う間道なのかわからないが、道を外れて登っていた。

「なあ。これは、道なのか?」

 足元を常に見てなければ歩けないような山道に、亮輔が思わず漏らした。
 もっと歩きやすい道があっても良さそうなものだ。

「大丈夫。いつも歩いてるから。道なんて通ったら、すぐに見つかっちゃうでしょ」
 そんなこともわからないの、といいたげに、おぎんが大人びた言い方をする。
「確かにそうだな」
「楽をしようと思ってもだめだからね。山のことは、あたいに従ってもらうから」
「はい、お師匠」
 獅子丸がかしこまって言った。
「よろしい」


 登っていくにつれて、口数が少なくなっていく。

 休憩のために立ち止まり、みんなで水を飲む。

「おぎんは、山師になるのか」
 源斎が聞いた。

「うん。なる」
 採掘場に近づいているからか、声をひそめる。
「そうか」
「だから、おとっつぁんに、もっと教えてもらいたいの」

「女子には、厳しい仕事ではないのか?」

 一番大人の源斎が、もっともらしいことを言う。
「女の山師なんて聞いたこともない」

「先生、決めつけないで。あたいは山が好きだし、お宝を見つけたい。男の人には負けない」
 キッパリと言い切るおぎんの顔は、真剣そのものだった。

「なれるさ」

 亮輔は、気休めでもなく、本気でそうなればいいと思って言った。

「おれも、そう思う」
 獅子丸が賛同した。
「見つけてくれよな。お宝。期待してるぜ」

「うん」

 キラキラした笑顔は、羨ましいほど自信に満ちていた。
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