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16 試練とプリン
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「どうしよう、るみ~~」
週明け、いつもの昼休み。
この時を待ちかねていた美香がるみに泣きついた。
「とうとう宣戦布告しちゃったのね」
何も言わなくても、るみにはわかってしまっている。
「これでしょ?」
とスマホを指す。
週末にチョコレートケーキの投稿をしてから、やたらと誹謗中傷コメントが増えた。
これまでないことだったので、面食らったが、そういうことだろう。
美香の写真を見た矢崎というかすみのマネージャーが、SNSで探したのだろうと、京一郎も言っていた。
「で? 彼はなんて?」
「しばらく公開しない方がいいんじゃないかって」
美香のアカウントを潰そうとしている。
無視して続けることもできるが、精神的な負担は大きく、心配だと言ってくれた。
アカウントを乗っ取られることもあり得る話だ。
そうなる前に、手を打った方がいいと。
「そうよね。それがいいと思う」
「悔しい・・・」
京一郎と一緒に育てているアカウントだ。
そんなことで閉鎖してしまうのは、嫌がらせに負けたようで悔しかった。
美香を応援してくれるコメントも増えていたが、フォローしてくれる人たちに、不快な思いをさせてしまうのも心苦しい。
コメント欄を閉じればいいかもしれないと、まだ迷っているのだった。
「痩せるかもしれない」
誹謗中傷なんて、他人事だと思っていた。
自分が悪いわけじゃないし、誰の仕業なのかもわかっているから、まだ耐えられるが、それでも攻撃されるのは辛いものだ。
食欲が落ちているし、熟睡もできない。
「試練だね。ここが踏ん張りどころかも」
「そうだね。帰りにメロンパン買って食べようかな」
確かに、やけ食いがしたくなる。
けれど、以前のように、食べ物でなければ収まらないということがなくなっていた。
帰りにジムで走って、気分を紛らわせることができる。
走ったあとは、プロテインでお腹を満たすのだ。
「来月はゆっくり旅行でも行ってきたら? 今まで頑張って来たんだし、ご褒美のつもりで。何も気にせず」
「でも決算が・・・」
「そうだったね。仕事気合い入れないと、目をつけられるか」
るみが苦笑した。
社内でも、美香のSNSを見てくれている人がいて、相当遊んでいると思われている可能性がある。
「実名はまずかったかなあ」
色々調べられて、会社や家族、友達に被害が及んだらどうしようという思いもあった。
「まあ、長くは続かないと思うから、あまり気に病まないようがいいわよ。私、御曹司を見直しちゃった。今のところ、美香がいいって言ってるんでしょ。このこのぉ」
ニヤニヤして、肘で突ついてくる。
「信じてもいいんじゃない? 遊びなら、もっと美人でスタイルのいい人を選ぶじゃない、普通」
「確かに」
遠慮のないるみの言葉に少し傷つくが、事実なのだから仕方がない。
かすみや優美と比べたら、どれほど見劣りするか、いやというほどわかっている。
貢がせたいわけでもないなら、太ってて平凡な女を相手に遊ぶなんて考えられない。
京一郎が遊ぼうと思ったら、いくらでもいい女が寄ってくる。
「信じていいんだよね」
だから信じていいというのも変な気がするが、もうここまで来たら、信じるしかなかった。
「もしかしたら、美人に飽きちゃったとか」
「こら、美香ぁ。しっかりしないと、ライバルに弾き飛ばされるぞ」
バシッと肩を叩かれた。
ライバルと言えるほど対等だとも思えなかったが、応援してくれる人がそばにいてくれるのは、心強い。
しばらく休止すると告知した上で、アカウントを閉じることにした。
3月に入り、るみの助言に従って、1泊で旅行に行く。
下呂と高山。
名古屋から電車一本で気軽に行ける人気の観光地だ。
下呂は、温泉宿でゆっくりするつもりだった。
和室を一人で使うのは、とても贅沢な気分。
チェックインして荷物を置いてから、温泉街をぶらぶらする。
SNSにあげるわけではないけれど、京一郎に会った時に見せるための写真を撮る。
今を共有できないけれど、美香にとって、かけがえのない時間を切り取っておきたかった。
気負わなくてもいい分、楽で、本当に自分を癒すための旅行だという気がする。
プリンのお店に入り、種類の違う瓶入りのプリンを3つ注文した。
これはやけ食いではないと、自分に言い聞かせ、写真に収めてから食べ比べる。
「美味しい~~」
スイーツには、人を癒す力がある。
旅先で出会う、目の前の美味しいものに集中する時間は、美香にとっては宝物だ。
歩いたあとは、宿に戻って、露天風呂に入った。
余計な音がしない。まだ冬のような寒さだが、春がそこまで来ている自然の匂いを感じていると、頭が空っぽになり、悩んでいることもどこかへ飛んで行く。
人のことなんて、どうだっていい。
デジタルデトックスするために、宿ではスマホを見ないことにした。
会社に戻った京一郎は、これまで以上に忙しいため、電話がかかってくるのを待つしかない状態は変わらなかったが、寂しいとは思わなかった。
一人での部屋食も、最高で、とても贅沢な時間だ。
高級かどうかは問題じゃない。
最高の自分に、乾杯。
「おひとりさま、バンザイ!」
ビールの泡を上唇につけて、一人ではしゃいだ。
翌日は高山まで足を伸ばす。
小京都と呼ばれる高山の古い街並みを歩き、写真を撮った。
寂しくないと言えば、嘘になる。
やはり、京一郎と歩きたい。
二人で歩いたら、どんなに楽しいだろうと、デトックスしてクリアになった心が求めていた。
週明け、いつもの昼休み。
この時を待ちかねていた美香がるみに泣きついた。
「とうとう宣戦布告しちゃったのね」
何も言わなくても、るみにはわかってしまっている。
「これでしょ?」
とスマホを指す。
週末にチョコレートケーキの投稿をしてから、やたらと誹謗中傷コメントが増えた。
これまでないことだったので、面食らったが、そういうことだろう。
美香の写真を見た矢崎というかすみのマネージャーが、SNSで探したのだろうと、京一郎も言っていた。
「で? 彼はなんて?」
「しばらく公開しない方がいいんじゃないかって」
美香のアカウントを潰そうとしている。
無視して続けることもできるが、精神的な負担は大きく、心配だと言ってくれた。
アカウントを乗っ取られることもあり得る話だ。
そうなる前に、手を打った方がいいと。
「そうよね。それがいいと思う」
「悔しい・・・」
京一郎と一緒に育てているアカウントだ。
そんなことで閉鎖してしまうのは、嫌がらせに負けたようで悔しかった。
美香を応援してくれるコメントも増えていたが、フォローしてくれる人たちに、不快な思いをさせてしまうのも心苦しい。
コメント欄を閉じればいいかもしれないと、まだ迷っているのだった。
「痩せるかもしれない」
誹謗中傷なんて、他人事だと思っていた。
自分が悪いわけじゃないし、誰の仕業なのかもわかっているから、まだ耐えられるが、それでも攻撃されるのは辛いものだ。
食欲が落ちているし、熟睡もできない。
「試練だね。ここが踏ん張りどころかも」
「そうだね。帰りにメロンパン買って食べようかな」
確かに、やけ食いがしたくなる。
けれど、以前のように、食べ物でなければ収まらないということがなくなっていた。
帰りにジムで走って、気分を紛らわせることができる。
走ったあとは、プロテインでお腹を満たすのだ。
「来月はゆっくり旅行でも行ってきたら? 今まで頑張って来たんだし、ご褒美のつもりで。何も気にせず」
「でも決算が・・・」
「そうだったね。仕事気合い入れないと、目をつけられるか」
るみが苦笑した。
社内でも、美香のSNSを見てくれている人がいて、相当遊んでいると思われている可能性がある。
「実名はまずかったかなあ」
色々調べられて、会社や家族、友達に被害が及んだらどうしようという思いもあった。
「まあ、長くは続かないと思うから、あまり気に病まないようがいいわよ。私、御曹司を見直しちゃった。今のところ、美香がいいって言ってるんでしょ。このこのぉ」
ニヤニヤして、肘で突ついてくる。
「信じてもいいんじゃない? 遊びなら、もっと美人でスタイルのいい人を選ぶじゃない、普通」
「確かに」
遠慮のないるみの言葉に少し傷つくが、事実なのだから仕方がない。
かすみや優美と比べたら、どれほど見劣りするか、いやというほどわかっている。
貢がせたいわけでもないなら、太ってて平凡な女を相手に遊ぶなんて考えられない。
京一郎が遊ぼうと思ったら、いくらでもいい女が寄ってくる。
「信じていいんだよね」
だから信じていいというのも変な気がするが、もうここまで来たら、信じるしかなかった。
「もしかしたら、美人に飽きちゃったとか」
「こら、美香ぁ。しっかりしないと、ライバルに弾き飛ばされるぞ」
バシッと肩を叩かれた。
ライバルと言えるほど対等だとも思えなかったが、応援してくれる人がそばにいてくれるのは、心強い。
しばらく休止すると告知した上で、アカウントを閉じることにした。
3月に入り、るみの助言に従って、1泊で旅行に行く。
下呂と高山。
名古屋から電車一本で気軽に行ける人気の観光地だ。
下呂は、温泉宿でゆっくりするつもりだった。
和室を一人で使うのは、とても贅沢な気分。
チェックインして荷物を置いてから、温泉街をぶらぶらする。
SNSにあげるわけではないけれど、京一郎に会った時に見せるための写真を撮る。
今を共有できないけれど、美香にとって、かけがえのない時間を切り取っておきたかった。
気負わなくてもいい分、楽で、本当に自分を癒すための旅行だという気がする。
プリンのお店に入り、種類の違う瓶入りのプリンを3つ注文した。
これはやけ食いではないと、自分に言い聞かせ、写真に収めてから食べ比べる。
「美味しい~~」
スイーツには、人を癒す力がある。
旅先で出会う、目の前の美味しいものに集中する時間は、美香にとっては宝物だ。
歩いたあとは、宿に戻って、露天風呂に入った。
余計な音がしない。まだ冬のような寒さだが、春がそこまで来ている自然の匂いを感じていると、頭が空っぽになり、悩んでいることもどこかへ飛んで行く。
人のことなんて、どうだっていい。
デジタルデトックスするために、宿ではスマホを見ないことにした。
会社に戻った京一郎は、これまで以上に忙しいため、電話がかかってくるのを待つしかない状態は変わらなかったが、寂しいとは思わなかった。
一人での部屋食も、最高で、とても贅沢な時間だ。
高級かどうかは問題じゃない。
最高の自分に、乾杯。
「おひとりさま、バンザイ!」
ビールの泡を上唇につけて、一人ではしゃいだ。
翌日は高山まで足を伸ばす。
小京都と呼ばれる高山の古い街並みを歩き、写真を撮った。
寂しくないと言えば、嘘になる。
やはり、京一郎と歩きたい。
二人で歩いたら、どんなに楽しいだろうと、デトックスしてクリアになった心が求めていた。
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