25個のスイーツのあとで

かじや みの

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16 試練とプリン

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「どうしよう、るみ~~」

 週明け、いつもの昼休み。
 この時を待ちかねていた美香がるみに泣きついた。

「とうとう宣戦布告しちゃったのね」
 何も言わなくても、るみにはわかってしまっている。

「これでしょ?」
 とスマホを指す。

 週末にチョコレートケーキの投稿をしてから、やたらと誹謗中傷コメントが増えた。

 これまでないことだったので、面食らったが、そういうことだろう。

 美香の写真を見た矢崎というかすみのマネージャーが、SNSで探したのだろうと、京一郎も言っていた。

「で? 彼はなんて?」
「しばらく公開しない方がいいんじゃないかって」

 美香のアカウントを潰そうとしている。
 無視して続けることもできるが、精神的な負担は大きく、心配だと言ってくれた。
 アカウントを乗っ取られることもあり得る話だ。
 そうなる前に、手を打った方がいいと。

「そうよね。それがいいと思う」
「悔しい・・・」

 京一郎と一緒に育てているアカウントだ。
 そんなことで閉鎖してしまうのは、嫌がらせに負けたようで悔しかった。

 美香を応援してくれるコメントも増えていたが、フォローしてくれる人たちに、不快な思いをさせてしまうのも心苦しい。

 コメント欄を閉じればいいかもしれないと、まだ迷っているのだった。

「痩せるかもしれない」

 誹謗中傷なんて、他人事だと思っていた。
 自分が悪いわけじゃないし、誰の仕業なのかもわかっているから、まだ耐えられるが、それでも攻撃されるのは辛いものだ。
 食欲が落ちているし、熟睡もできない。

「試練だね。ここが踏ん張りどころかも」
「そうだね。帰りにメロンパン買って食べようかな」

 確かに、やけ食いがしたくなる。
 けれど、以前のように、食べ物でなければ収まらないということがなくなっていた。

 帰りにジムで走って、気分を紛らわせることができる。
 走ったあとは、プロテインでお腹を満たすのだ。

「来月はゆっくり旅行でも行ってきたら? 今まで頑張って来たんだし、ご褒美のつもりで。何も気にせず」
「でも決算が・・・」
「そうだったね。仕事気合い入れないと、目をつけられるか」

 るみが苦笑した。
 社内でも、美香のSNSを見てくれている人がいて、相当遊んでいると思われている可能性がある。

「実名はまずかったかなあ」
 色々調べられて、会社や家族、友達に被害が及んだらどうしようという思いもあった。

「まあ、長くは続かないと思うから、あまり気に病まないようがいいわよ。私、御曹司を見直しちゃった。今のところ、美香がいいって言ってるんでしょ。このこのぉ」
 ニヤニヤして、肘で突ついてくる。

「信じてもいいんじゃない? 遊びなら、もっと美人でスタイルのいい人を選ぶじゃない、普通」
「確かに」
 遠慮のないるみの言葉に少し傷つくが、事実なのだから仕方がない。
 かすみや優美と比べたら、どれほど見劣りするか、いやというほどわかっている。

 貢がせたいわけでもないなら、太ってて平凡な女を相手に遊ぶなんて考えられない。
 京一郎が遊ぼうと思ったら、いくらでもいい女が寄ってくる。

「信じていいんだよね」

 だから信じていいというのも変な気がするが、もうここまで来たら、信じるしかなかった。

「もしかしたら、美人に飽きちゃったとか」
「こら、美香ぁ。しっかりしないと、ライバルに弾き飛ばされるぞ」
 バシッと肩を叩かれた。
 ライバルと言えるほど対等だとも思えなかったが、応援してくれる人がそばにいてくれるのは、心強い。

 しばらく休止すると告知した上で、アカウントを閉じることにした。



 3月に入り、るみの助言に従って、1泊で旅行に行く。

 下呂と高山。

 名古屋から電車一本で気軽に行ける人気の観光地だ。

 下呂は、温泉宿でゆっくりするつもりだった。

 和室を一人で使うのは、とても贅沢な気分。

 チェックインして荷物を置いてから、温泉街をぶらぶらする。

 SNSにあげるわけではないけれど、京一郎に会った時に見せるための写真を撮る。

 今を共有できないけれど、美香にとって、かけがえのない時間を切り取っておきたかった。

 気負わなくてもいい分、楽で、本当に自分を癒すための旅行だという気がする。

 プリンのお店に入り、種類の違う瓶入りのプリンを3つ注文した。

 これはやけ食いではないと、自分に言い聞かせ、写真に収めてから食べ比べる。

「美味しい~~」
 スイーツには、人を癒す力がある。
 旅先で出会う、目の前の美味しいものに集中する時間は、美香にとっては宝物だ。

 歩いたあとは、宿に戻って、露天風呂に入った。

 余計な音がしない。まだ冬のような寒さだが、春がそこまで来ている自然の匂いを感じていると、頭が空っぽになり、悩んでいることもどこかへ飛んで行く。

 人のことなんて、どうだっていい。

 デジタルデトックスするために、宿ではスマホを見ないことにした。

 会社に戻った京一郎は、これまで以上に忙しいため、電話がかかってくるのを待つしかない状態は変わらなかったが、寂しいとは思わなかった。

 一人での部屋食も、最高で、とても贅沢な時間だ。
 高級かどうかは問題じゃない。

 最高の自分に、乾杯。

「おひとりさま、バンザイ!」

 ビールの泡を上唇につけて、一人ではしゃいだ。




 翌日は高山まで足を伸ばす。

 小京都と呼ばれる高山の古い街並みを歩き、写真を撮った。

 寂しくないと言えば、嘘になる。

 やはり、京一郎と歩きたい。

 二人で歩いたら、どんなに楽しいだろうと、デトックスしてクリアになった心が求めていた。
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