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「したよぉー。 それリアーヌ嬢が自分で書いたサインだよ? 俺この目でちゃんと見てたもん」
「ええ⁉︎」
リアーヌはゼクスが、なぜそんな分かりきった嘘をつくのか理解できず、困惑に歪む顔をゼクスに向けた。
しかしその言葉は、リアーヌに向けられたものでは無いようで、ゼクスは挑戦的な視線をずっとヴァルムに向けつづけていた。
「…… そうですか。 雇用契約書にこれを混ぜましたか……」
ヴァルムはそう言いながら、片手で持った書類をもうかた方の手でベシッと叩きながらゼクスを睨みつけた。
しかし睨まれているゼクスはニヤリと余裕の笑みを浮かべつつ口を開く。
「そんな事してませんよ」
ゼクスの答えを聞いたヴァルムの眉がピクリと跳ね上がる。
そして悔しそうにギリリッと奥歯を噛みしめた。
そんな様子がハッキリ見えたリアーヌはオロオロとゼクスとヴァルムの二人に視線を走らせ続けていたが、そこでようやく今の二人会話の意味を理解した。
(ーーこれ、ゼクスわざと言葉にしてるんだ……ヴァルムさんはウソが分かるから……ーーえ、ちょっと待って……? ヴァルムさんが指摘しなかっちって事は、本当にこのサイン私が書いたんです⁉︎)
その考えに至ったリアーヌがギョッとゼクスを見つめる。
ーーと同時にヴァルムもまたゼクスに向かって質問を飛ばした。
「ではーー白紙でも混ぜ込みましたか……?」
「そんなヒドイことしませんよー」
ゼクスは再び余裕たっぷりに、クスクスと笑いながら答えた。
リアーヌはその言葉に(いいや、お前はそのくらいやれる人間だよ……)と思うと同時に(ーー良かったぁ! そうだよね⁉︎ いくら私だって白紙にサインして覚えてないなんて事ないもんね⁉︎)と、一人ひっそりと胸を撫で下ろしていた。
「ーー……姉ちゃん嫁に行くのか?」
そんなリアーヌにザームが声をひそめてたずねる。
ーー声をひそめると言っても、音楽もかかっていない、部屋にいる人間も談笑しているわけでもないこの部屋の中、少し離れたところに立っている使用人の耳にまで、その言葉は届いていた。
「行かないよ!」
咄嗟にそう考えたリアーヌだったが、その意見はすぐさまゼクスによって否定された。
「いやいや……アレ、お嫁に行きますって約束した紙だから」
アレ。 とヴァルムの手の中でシワだらけになった婚約承諾書を指差しながら、ゼクスが言った。
「う……で、でも私は本当にサインした覚えが無いんですからーーそんなの無効なんじゃないかと……」
「えー……? でも国王陛下がせっかく認めたくれた契約なのに「実は覚えてなかったんで、無効にしてくださーい」とか失礼すぎない⁇ ーーいくらボスハウト家が王家に連なる血筋だって言っても……流石にダメなんじゃないかなぁ……?」
んー? と、少しわざとらしい動作で悩むそぶりを見せたゼクスは、そう言いながらヴァルムやリアーヌの両親の反応を伺うようにチラリチラリと視線を送っていく。
「ええ⁉︎」
リアーヌはゼクスが、なぜそんな分かりきった嘘をつくのか理解できず、困惑に歪む顔をゼクスに向けた。
しかしその言葉は、リアーヌに向けられたものでは無いようで、ゼクスは挑戦的な視線をずっとヴァルムに向けつづけていた。
「…… そうですか。 雇用契約書にこれを混ぜましたか……」
ヴァルムはそう言いながら、片手で持った書類をもうかた方の手でベシッと叩きながらゼクスを睨みつけた。
しかし睨まれているゼクスはニヤリと余裕の笑みを浮かべつつ口を開く。
「そんな事してませんよ」
ゼクスの答えを聞いたヴァルムの眉がピクリと跳ね上がる。
そして悔しそうにギリリッと奥歯を噛みしめた。
そんな様子がハッキリ見えたリアーヌはオロオロとゼクスとヴァルムの二人に視線を走らせ続けていたが、そこでようやく今の二人会話の意味を理解した。
(ーーこれ、ゼクスわざと言葉にしてるんだ……ヴァルムさんはウソが分かるから……ーーえ、ちょっと待って……? ヴァルムさんが指摘しなかっちって事は、本当にこのサイン私が書いたんです⁉︎)
その考えに至ったリアーヌがギョッとゼクスを見つめる。
ーーと同時にヴァルムもまたゼクスに向かって質問を飛ばした。
「ではーー白紙でも混ぜ込みましたか……?」
「そんなヒドイことしませんよー」
ゼクスは再び余裕たっぷりに、クスクスと笑いながら答えた。
リアーヌはその言葉に(いいや、お前はそのくらいやれる人間だよ……)と思うと同時に(ーー良かったぁ! そうだよね⁉︎ いくら私だって白紙にサインして覚えてないなんて事ないもんね⁉︎)と、一人ひっそりと胸を撫で下ろしていた。
「ーー……姉ちゃん嫁に行くのか?」
そんなリアーヌにザームが声をひそめてたずねる。
ーー声をひそめると言っても、音楽もかかっていない、部屋にいる人間も談笑しているわけでもないこの部屋の中、少し離れたところに立っている使用人の耳にまで、その言葉は届いていた。
「行かないよ!」
咄嗟にそう考えたリアーヌだったが、その意見はすぐさまゼクスによって否定された。
「いやいや……アレ、お嫁に行きますって約束した紙だから」
アレ。 とヴァルムの手の中でシワだらけになった婚約承諾書を指差しながら、ゼクスが言った。
「う……で、でも私は本当にサインした覚えが無いんですからーーそんなの無効なんじゃないかと……」
「えー……? でも国王陛下がせっかく認めたくれた契約なのに「実は覚えてなかったんで、無効にしてくださーい」とか失礼すぎない⁇ ーーいくらボスハウト家が王家に連なる血筋だって言っても……流石にダメなんじゃないかなぁ……?」
んー? と、少しわざとらしい動作で悩むそぶりを見せたゼクスは、そう言いながらヴァルムやリアーヌの両親の反応を伺うようにチラリチラリと視線を送っていく。
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