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ボスハウト家にやってきた頃からの知り合いのこの店主は、親戚のような眼差しをザームに向けながら言った。
「ーー普通に通うだけじゃダメだ。 ……ヴァルムさんがいねぇと」
「……そりゃ出来も良くなりそうだ」
「すげー良くなる……ーー本当良くなる……」
遠い目をしながら答えたザームに、少しだけ同情的な表情を浮かべた店主は「頑張ったんだな……?」としみじみ答えた。
その言葉に大きく頷くリアーヌ。
(……正直ザームは私より、ずっとたくさん頑張ってると思う。 だって私はある程度の勉強を終わらせてからのやり直し、試験だって受験だって経験済みーーそしてなにより、ここでサボったら将来苦労する! ってことを知ってる。 ーーでもザームは違う。 ある程度の年齢まで、必要最低限の勉強しかしてこなかったのに、将来は子爵家の当主様だ……もちろんみんな助けてくれるんだろうけどーーその助けにだって限界があるから、今必死に知識を身につけさせている……ーーそうしなきゃ辛い思いをするのはザームだとみんな知ってるから……ーーそれに四苦八苦しながらも必死に答えようとしてる私の弟は、めちゃくちゃスゴいんだ!)
「本当頑張ったよねぇ……?」
しみじみと呟いたリアーヌに、ザームは唇を尖らせながらガリガリと菓子を噛み砕いた。
「……姉ちゃんはもっとすげぇじゃん」
「いや、私はほら……小さい頃から本はたくさん見てたし!」
リアーヌはここ数年で幾度となく使ってきた、それらしい答えを弟相手に披露する。
「あー……だよなぁ? 写本が欲しいなんて、バカ高ぇ学術書とかになるもんなぁ?」
姉弟の会話を聞いていた店主が大きく頷きながら相槌を打った。
その言葉に頷きながらリアーヌは説明を続ける。
「今は見ただけで1ページごとパッパコピーしていけるけど、初めの頃は一文字づつとか、一行ずつだったの。 だから結構読んでたんだよね」
(ーーこれはちょっとだけ本当。 ……一文字づつとか一行ずつコピーしてはいたんだけど……読書してるような感覚では無かったよ……むしろあの時は文字を模様かなにかのように見えてた……)
「ーーそっか。 それで姉ちゃんは元から頭いいのか……」
「全然読んで無い子よりは、ちょっとだけね?」
「……俺も一緒に読んどけば良かった」
「――高い本には触っちゃいけません」
「……さすがにもう大丈夫だろ?」
「えー? 絶対デザート抜きにされるよ?」
「ーーそれはダメだ」
「でしょ?」
「……いや、流石に本の一冊ぐらい払えるだろ……?」
神妙な顔つきで頷き合う姉弟に、肩をすくめながら店主が言う。
「ーー普通に通うだけじゃダメだ。 ……ヴァルムさんがいねぇと」
「……そりゃ出来も良くなりそうだ」
「すげー良くなる……ーー本当良くなる……」
遠い目をしながら答えたザームに、少しだけ同情的な表情を浮かべた店主は「頑張ったんだな……?」としみじみ答えた。
その言葉に大きく頷くリアーヌ。
(……正直ザームは私より、ずっとたくさん頑張ってると思う。 だって私はある程度の勉強を終わらせてからのやり直し、試験だって受験だって経験済みーーそしてなにより、ここでサボったら将来苦労する! ってことを知ってる。 ーーでもザームは違う。 ある程度の年齢まで、必要最低限の勉強しかしてこなかったのに、将来は子爵家の当主様だ……もちろんみんな助けてくれるんだろうけどーーその助けにだって限界があるから、今必死に知識を身につけさせている……ーーそうしなきゃ辛い思いをするのはザームだとみんな知ってるから……ーーそれに四苦八苦しながらも必死に答えようとしてる私の弟は、めちゃくちゃスゴいんだ!)
「本当頑張ったよねぇ……?」
しみじみと呟いたリアーヌに、ザームは唇を尖らせながらガリガリと菓子を噛み砕いた。
「……姉ちゃんはもっとすげぇじゃん」
「いや、私はほら……小さい頃から本はたくさん見てたし!」
リアーヌはここ数年で幾度となく使ってきた、それらしい答えを弟相手に披露する。
「あー……だよなぁ? 写本が欲しいなんて、バカ高ぇ学術書とかになるもんなぁ?」
姉弟の会話を聞いていた店主が大きく頷きながら相槌を打った。
その言葉に頷きながらリアーヌは説明を続ける。
「今は見ただけで1ページごとパッパコピーしていけるけど、初めの頃は一文字づつとか、一行ずつだったの。 だから結構読んでたんだよね」
(ーーこれはちょっとだけ本当。 ……一文字づつとか一行ずつコピーしてはいたんだけど……読書してるような感覚では無かったよ……むしろあの時は文字を模様かなにかのように見えてた……)
「ーーそっか。 それで姉ちゃんは元から頭いいのか……」
「全然読んで無い子よりは、ちょっとだけね?」
「……俺も一緒に読んどけば良かった」
「――高い本には触っちゃいけません」
「……さすがにもう大丈夫だろ?」
「えー? 絶対デザート抜きにされるよ?」
「ーーそれはダメだ」
「でしょ?」
「……いや、流石に本の一冊ぐらい払えるだろ……?」
神妙な顔つきで頷き合う姉弟に、肩をすくめながら店主が言う。
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