【完】専属料理人なのに、料理しかしないと追い出されました。

【記念日お礼・Thanks to everyone】

蒲焼きの日。one more time②

ガバリ！不味すぎます！寝まくってしまいました。今何時なのでしょう？キョロキョロと周囲を見渡すと、呆れた顔のルイスさん……。

気まずくて、思わず顔をそらしてしまいます。まだなにかを怒っているのでしょうか？

「大丈夫ですよ。もう怒りませんから。気持ち悪いのも、情緒不安定なのも、眠いのも初期症状とのことです」

初期症状？いったいなにの？全く意味がわかりません。

「私も悪かったのです。ここ数日、妙だとは感じていたのです。昨晩も大事な所で魔力の流れを遮るので、まさかとは思っていたのです。しかしアリーが可愛すぎて止められず……さらには邪魔までするので、ついつい対抗してしまいまして……中々気の強そうな子です」

はぁ…………えーー？？

「子供？」

 あ……たしか冒険者ギルドの依頼で、近隣国への物資運搬に行った時にも……兆候があるみたいって言われたことが……あの時はまだ結婚式からたいして経っていないし、体調も変化ないし気にせずそのままに……

「はい。時期的にハネムーンベィビーでしょう。生意気にも、私の魔力を押し返して来ましたよ」

それってもう魔力はいらないから、止めろといってるのでは？でも時期的にハネムーンベビーと思える成長速度なら安心かも。早すぎると心配していたにです。

「赤ちゃんの成長に魔力はかかせません。アリーはベッドの中から出ないで下さい。良いですね？」

「うん？わかったよ。なんていうわけないでしょ！ハネムーンベィビーなら、もう悪阻は収まる頃じゃない！なのになぜ今さら吐き気なの？ルイスがしつこいからよ！また魔力過多なんでしょ！赤ちゃんは私の味方をしたのよ！悪阻のつの字もなかったのに！」

「そ……それは………………」

「しばらくベッドは別です！」

「…………しかしですね？ 」

「しかしもそれはもありません！」

「ーーわかりました。その代わりアリーはベッドから一歩も出しません。特使の方は心配しないで下さい。私一人で大丈夫ですから」

 ふぅ…………

冗談じゃないわよ。妊婦ならなおのこと、適度な運動が必要なのよ！いざとなったら、リターンホームでも帰れるんだから！

よし……こうなったら…………

ルイス置いて帰ろうかしら？往復二日プラス中一日は、一人でゆっくり出来そうね。

「アリー？ろくでもないことを考えないで下さいね。安静第一です。確かに過多は不味いですが、胎児の成長に魔力が必要なのはわかりますよね？なんなら臨月まで私の魔力づけにしますか？三角ウサギの母体の保護もあります。夢心地のまま、ベッドで臨月までいけますよ。優しく愛しましょう。既に六ヶ月程に育っているそうです」

「六ヶ月？」

ハネムーンベィビーなら、まだ四ヶ月すぎくらいよね？はぁ？やはり成長が早いの？でもお腹もまだ大きくないじゃない。あ……。

このムニムニは……！？

やはりつまめます。なにがって……。もちろんわき腹です。気のせいか二の腕もぷにぷにと……。

お腹はポッコリと出ています。これは確かに間違いないですね。良かったです。勘違いをしてしまいました。最近帝国のお料理にはまっているのです。女将さんのお店や支店にお届けものをする度に、美味しい海の幸を食べまくっていたのです。蒲焼き提供のためにもと、様々な食材で蒲焼きを試して食して試して食しと……。

さらには帝国領での新発見ダンジョンで、とても珍しい実を採取したのです！ それから出来上がったカレー類！本当に美味しくて……

つまり食べまくっていたのです。

なので……。

「現実を直視出来ましたか？」

「……うん。でもこれは太ったからでは無かったのね。良かったー。赤ちゃんの分なら仕方ないよね。ダイエットしなくちゃと、心配していたの」

 「……………………」

なによその沈黙は？ルイスってば！

「アリーは細いくらいですから、今くらいなら平気ですよ。ぷにぷにモチモチとして、さわりごごちが最高なくらいです。出産してから頑張りましょう。私が責任を持って、沢山全身運動をさせて差し上げます」

…………

やはり太ったのね。確かに赤ちゃんに二の腕は関係ないわよね。でも出産後の全身運動はご遠慮致します。またすぐに妊婦はイヤだよ！絶対にそういう意味だよね！

「出産後は暫くは、部屋も別にしようね。赤ちゃんへの授乳もあるからね」

「はっ半年はいくらなんでも……」

「知りません！でももう六ヶ月なの？下手したら早まる恐れもあるの？」

やっぱり……。そういう大事なことを先に話して欲しいです。私もルイスも魔力がかなり多いのです。なので赤ちゃんの成長が早まっています。つまりこのままでゆくと、後四ヶ月ほどで出産になるとのことなのです。

「アリーは心配する必要はありませんよ。三角ウサギの加護があるので大丈夫です。魔力交換による胎児の成長促進に母体の保護がありますからね」

ルイスが微笑みながら、私のお腹を撫でています。ルイスもお父さんになるんだね。うーん。でもお父さんって似合わないね。やはりパパかな？ってやだ！なんで上掛けをはぐの？変なところ触るな！

「やはりこちらもかなり張ってますね。ミルクをたす必要は無さそうです。あまりにも痛い場合には、私がお手伝いします。医師に習って来ました。おや？動きましたね。そろそろお腹が空いたのでしょう。では私がお先に……」

るっルイス！やだ！まだ昼だし、赤ちゃんいるなら余計よ。やはりそういう意味のお先によね？

「ルイス？妊娠中は控えめに……」

「三角ウサギが、妊娠中もラブラブしてねといっています。大丈夫です。優しく愛してね？はぁと。ですよね。任せて下さい。伴侶の魔力は不足しても困るんですよ。特に悪阻は魔力過多だけでなく、母体に足りなくてもおこります。胎児に取られ悪阻にならぬ様にと、子のお腹はつねに満足させる必要があるのです」

…………

どちらにしろ逃げられないのよ。それにもう六ヶ月ほどなら、安定期なのよね。しかし本来は控えるべきの安定期に入るまでの三ヶ月……。新婚中はこれが普通だと、ルイスってば凄かったんですけど？新婚旅行中はほとんど部屋から出なかったじゃない。それって三角ウサギの加護なの？赤ちゃんを守ってくれてありがとうと、三角ウサギにお礼をいうべきなのかしら？

はぁ。もう仕方ないなぁ……

「でも赤ちゃんに抵抗されたら止めてね？お願い……」

「アリーは抵抗しないんですね。愛してます。もちろんあなたの全てを……」

「ルイス……私も……愛してる……」

…………

赤ちゃんのケリケリ攻撃で、しつこくなくすみました！私も悪阻も収まりスッキリです。お陰さまで、夕食もしっかりと食べられました。下手したら朝までかと、ヒヤヒヤしていたのです。日付変更の零時を跨ぐと、いらぬ三角ウサギのラブラブリセットが働いてしまいますからね！本当に良かったですーー。

ルイスだけはなんだか不満顔ですが、しつこすぎるのがいけないのです！赤ちゃんの魔力の流れは、私もよくわかる様になりました。おかげで魔力満たんもわかるし、過多もわかる様になりましたよ。過多な魔力を拒否してくれてありがとう！

赤ちゃん様々です！

ルイスは不満そうですが！繰り返しいっちゃいます。だって妊婦に無理強いはダメなんですよー。赤ちゃんも、魔力過多は嫌だって！これはよい免罪符になりそうです。ニヤリ。

深夜には河川に入り、明日の朝には小舟に乗り換えます。そこからクルーエルクロコダイルの子供の、大量発生地点まではすぐだそうです。子供は大人しいそうなので、私も同行が許可されました。小舟から降りるな！の制約つきですけど。

さあ。お風呂にも入りました。ベッドも別に出しました。今日はもう赤ちゃんもお腹いっぱいです。ではではおやすみなさい。

さすがのルイスも大人しく寝ましたね。久し振りの安眠タイムです。

…………

なんだろうフワフワ浮いてる？

「るっルイス？夜中にどうしたの？」

…………。

「アリーの寝ているベッドでは狭いので、こちらに運んだのです。先ほど零時をまわりました。通常ならお腹のすく時間ですよね？」

…………

ひゃー。ルイスのバカ！寝なさいよ！さすがに怖いよ。

とーめーてー！赤ちゃんヘルプ！

無言ですか？お腹すいたの？ケリケリ攻撃はなしですか？

…………

満面の笑顔のルイスに、今晩もお手上げです。ねーむーいーのーよー！

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ちゅんちゅん。

朝のひざしが目にしみます。眠れずぶっ通しの半日より、半分に別れ眠れた方がマシなのでしょうか？

そうですよね？眠れただけマシだと思わなくては、正直やっていられません！お肌つやつやで、ニコニコ笑顔のルイスが恨めしいです。

あなたは眠くはないのですか？

いったいいつ寝ているのでしょう……。

船乗りたちのかけ声が聞こえてきます。どうやらそろそろ、現場に到着の様です。あれ？進行方向に、なにか銀色の光が跳ねています。お魚かしら？

…………。

「……あれがワニなの？」

「……どう見ても小さいワニでしょう」

「ワニって飛ぶの？」

「よく見て下さい。飛んではいませんよ。跳んでいるのです」

銀色に輝く川面。川への入り口は、銀色の小さなワニでおおいつくされていました。

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