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【記念日お礼・Thanks to everyone】
蒲焼きの日。one more time③
しおりを挟む大きな船から、小さな船にのりかえます。この小さな船にも、キッチンからダイニング。寝室まで整備されています。もちろんこれらの機能は、ダンジョンでは使用されていません。昔お貴族様が道楽で作り。使えないからと寄付されたものとのことです。
隣国には川が多く、河川を使用し、物資の運搬にも使用されています。しかし魔物の被害も多く、船での運搬には頑丈な船が必要なのです。しかしこの船を作ったお貴族様は、なにも考えず自分が楽しむために作ってしまったのです。そして試運転で、たまたま魔物の被害にあわなかったのです。これはいけるぞ!と思ったお貴族様は、船を増産しました。
早速知り合いと奥様ををのせクルージングへ。しかしすぐにその一隻が、魔物に体当たりされて大破してしまいました。これでは使えないからと、国に寄付したそうです。しかし国も、いざ貰っても使えません。そのため間に合わせとばかりに、外装を強化しました。ダンジョン内の短い距離ならばと、なんとか使い始めたのです。このダンジョン内で使用しているのが四隻。残りがまだ六隻もあるそうです。
「まったく我が国のお貴族様も、なにを考えているのでしょうね。河川で宿泊しながら、クルージングを楽しむ旅を売り出すつもりだったそうです。船上でナイトカクテルを嗜みながら、星を眺めてラブラブらしいです」
はあ?
【籠りっきりのクルージング】
第一号にと自分たちでためし、出航すぐに魔物の体当たり。知り合いと奥様もろとも川面に投げ出され、九死に一生をえたそうです。
…………
しかし良く助かりましたね。普通ならすぐにパックンチョかガブリですよ?出航したばかりでお見送りが沢山いたので、救助が早かったのですね。しかし魔物を目前で見た恐怖で、引きこもりになってしまったの?大の大人のお貴族様が、まったくなにをしているのかしら?くだらないわね……
隣国の調査団のリーダーの方が、私たちに色々と説明をしてくれているのです。その中で、ついつい愚痴ってしまったようです。私も思わず同じことを考えてしまいましたよ。しかしそれって、どこかで聞いた様なフレーズですよね。
「アリー!帝国の椿姫の国の新婚さん向けツアーですよ!帝国は川ではなく海ですが、王太子様の考えたツアーの広告と、すこし似ていませんか?ただしあちらには魔物がいません。だから通用するのです。その違いですね!」
【隠りっきりの蜜月旅行】
確かに……。この船を帝国に持って行けば、湖でもクルージングとかに使えそう。ボート遊びはしてたし……。そういえばあのボート乗り場の看板に、異性と乗ると離ればなれになると書かれてたのよ。新婚さんツアーに盛り込むのに、離ればなれって……。
誰も乗ってなかったじゃない!
でもそれこそ、ナイトクルージングも可能よね。ルイスはよくツアー名を覚えていたわね。
「帝国では湖で水遊びもします。二人だけでのるボートも有りました。多分このタイプもいけますよ。あのときは残念ながら、二人でボートにはのれませんでしたが……なぜアリーは看板を見てにげたのでしょうね?」
ルイスがチラリと、意味ありげに私を見ます。やはり気付いてたのね。なら聞かないで欲しいです……。
この話を調査団のリーダーの方に話すと、早速国に話してみることとなりました。隣国でもやはり瞬間移動やリターンホームは貴重です。私が運搬するとなれば、かなりオマケもしてくれるでしょう。
「ならば私たちも一隻買いましょうか?海上コテージと一緒に楽しめそうです。椿姫の国に、操縦の講習に行きましょう!確かコテージ脇に、船舶の運転講習の貼り紙を見ました!」
「操縦って普通は、専用の人に頼むんじゃないの?」
「確かに……それもそうなのですが……他人を一緒に乗せたら楽しめませんよ?ラブラブなのでしょう?」
もぉー。このいつでもラブラブ人間が!周囲の皆さまが固まってるわよ!
「もちろんアリーも一緒に受けるんですよ?水着はどうしますか?前回のと同じで構いませんか?いや……お腹を冷やすと不味いので、ワンピースタイプを新調しましょう。上にはおるものも必要ですね。しかしもう安定期ですし、三角ウサギの保護もあ……いっ痛いですよ?どうかしましたか?アリー?」
全くもう……。恥ずかし過ぎるんです!しかし隣国の人々は、帝国についての話に興味津々の様です。魔物がダンジョン内部にしかいない国。森林浴をしたり、海で海水浴をしたり出来る。私だって初めての時は驚きました。みなさんも同様なのでしょう。将軍も皆さんから、色々と質問攻めになっています。ルイスのお気楽な頭のおかげですが、帝国のアピールにもなったので一石二鳥ですね。私は恥ずかしいですけど……。
さて。脱線してしまいましたが、そろそろ調査に参りましょう。ルイスは調査団の人々と、更に水面近くまで近寄っていきます。さすがに私は、デッキにてお留守番です。
しかしあれは凄いです。まるで鳥の群れが、川面に飛び込んでいるみたいに見えます。ん?逆にいえば、下から捕まえて食べてる?なんてことはないでしょう、しかし生きが良いね。ビチビチ跳ねまくり。お魚だったら美味しそうです。
あー!クロコダイルってワニなのよね?なら蒲焼きに出来るんじゃない?前にワニの魔物の丸焼き食べたけど、鶏肉と白身のお魚を混ぜた様な味だったよ。トカゲやヤモリも照り焼き風だったけど、蒲焼きのタレでもいけたわ!ならワニもいける!子供なら身も柔らかいから絶対にいける!
私は船べりに手をつき、川面を覗き込みます。うーん。遠くて見えにくい。でも確かにあれは……
立派なワニです。わたしの掌二枚分くらいの白いワニが、わらわらと密集して皆でピチピチ。いえ……ビッチビチと、飛び上がっています。
「おぉぅ。凄いなぁ。ビッチビチと飛んでゆく。おぉー!おーい……」
独り言はむなしい……
とにかく跳ねる。まるで飛んでいる様に吹っ飛んでゆきます。
ベチッ!
……い……痛いよ……。
頬っぺたに直撃です。周囲を見渡しますが、誰も見ていなかったようです。良かったです。ルイスにでも見られたら、またグチグチ煩いのです。さてルイスたちはどこに?あっいました!
私は落ちたワニを川面に投げ入れます。ん?今下になにかいましたか?目玉らしきものが光りましたよ?まさかクルーエルクロコダイルの親でしょうか?なら危険です。船縁から避難しましょう。
調査団は小舟からデッキを下ろして、川面の中やワニを捕獲し調べています。ここは小さな川と大きな河川をつなぐ場所です。小さなワニは、規模の小さい川の入り口間際を占拠して塞いでいます。しかしなぜでしょう?大きい河川の方へ、流れ出してゆけば良いのではないのでしょうか?海はまだまだかなり先です。なにか細い川に、こだわりがあるのでしょうか?
それとも、大きい河川にはないの?
あれ?私が先ほどポイっとした子ワニがいません。はて?ビッチビチと密集している所まではかなりの距離があります。そんなに早くたどり着く訳がありません。ってあれ?
大きな河川側に停泊している私の乗った船。時折ビッチビチしている方から、子ワニがとびだしてきます。その子ワニは川面に落下後、一向に浮いてきません。大丈夫なのでしょうか?あっ!また飛んできた!
私は慌てて近くの人から、水中を覗く箱の様な物をかりました。水中を覗いてビックリ!落ちた子ワニを、クルーエルクロコダイルの大人が、下からねらい大きな口にパックンチョです。まさか共食いしているの?
私は大きなワニに鑑定をかけます。狂暴なクルーエルクロコダイルに間違いありません。ならなぜ共食いしているの?鑑定にも、共食いをする様な記述はありません。今も弾き出されてくる子ワニたちを、水中で嬉々として捕獲し食べる大きなワニたちの姿。しかし共食いより気になるのは、なぜ食べるなら群れに突っ込まないのでしょうか?なのです。よく見るとクルーエルクロコダイルの大人は大きな河川側から、飛び出してくる子ワニを狙っているのです。
…………
あ!また甲板に子ワニが……。あ!ルイスいた!
「ルイスー!ちょっと見ててくれる?飛んできた子ワニをこう投げるとね、餌付けみたいになるの。でもなぜ直接群れに突っ込んで食べないの?これだけあふれてるのよ?共食いでも、すっきりして助かるじゃない」
なっなによ!その三白眼の様な糸目は!イヤー。ルイスが怖いー。
「アリー?いくら子ワニとはいえ、クルーエルクロコダイルを素手で掴みますか?ガブリと噛みつかれますよ?」
「わかってます!だから口側をもってます。それにまだ色も白いし、皮膚も柔らかいよ。歯もはえ揃ってない。だから子ワニは大丈夫。でも河川側には大きいのがいるから気を付けて」
(歯が生え揃ってない?クルーエルクロコダイルも幼生時は余程の危害を加えなければ大人しいそうです。しかし歯は既に生え揃っているはずですし、噛まれたら指がなくなります。それを手掴みで掴むとは……たまたまでしょいうか?)
なにかブツブツ言ってますね?うるさいお小言は知らんぷりです。
「河川側ですか?」
ルイスが私から覗き箱を受け取り、河川側の川面を覗き込みます。かなり長いこと調べてますね。なにかわかりそうなのでしょうか?
「アリー。子ワニに鑑定をかけてみて下さい。どうやら我々は、根本的なことを間違えていた様です。共食いではありません。心配はいりませんよ」
共食いではないの?でもパックンチョしていたよ?あっまた飛んできた!
鑑定オン!
*****
【カームアリゲーター(幼生)】
塩分を嫌い海水が少しでもまじる河川では、幼生は長く生息できない。見た目は凶悪だが、己に危害がなければ大人しい。
繁殖期には真水の川の上流で一部の水を塞き止め、幼生を育てるプールの様な池をつくる。幼生の内に海に近い河か川に流されてしまうと、塩分濃度により成長が阻害され、さらには死に至ってしまう。真水の上流で育ち、皮膚が固くなり色付くと、徐々に河川へと旅立つ。ほぼ河川で一生を終えるが、猛者はやがて海へと住みかを移す。
(特記)多少の海水をも好むクルーエルクロコダイルは、カームアリゲーターの幼生にとっては天敵である。しかしカームアリゲーターは、大人になると、クルーエルクロコダイルの嫌がる粘液を出すことが出来る様になる。その為大人になるまでは、川と河川で住みわけをしている。
*****
確かに共食いではないです。
というかですね!存在そのものが違うではありませんか!しかも天敵と間違えてるし!よくみたら川の向こうには、カームアリゲーターの親みたいのがいます。時おり川面から顔をだして、幼生たちになにかをかけています。それとも水を飛ばしてるのでしょうか?あー!あれが多分苦手な粘液なのでしょう。幼生に飛ばし保護しているのですね。クルーエルクロコダイルが、突っ込んで行けない訳です。
ルイスいわく、根本的に種類が違ったわけですね。それなら策はあるのでしょいうか?カームアリゲーターは危害をくわえなければ大丈夫とはいえ、まさか育つまで放置は出来ませんよね?天敵のクルーエルクロコダイルも寄ってきていますし、カームアリゲーターの親も中々の強面ぞろいですから。
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