【完】専属料理人なのに、料理しかしないと追い出されました。

桜 鴬

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【記念日お礼・Thanks to everyone】

蒲焼きの日。one more time④

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 ルイスが隣国の調査団の所へ行き、状況を伝え確認してきてくれました。やはり私たちの考えで正解のようです。ふむふむ。つまりですね?
『現在大量発生している幼生は、海水を嫌うカームアリゲーターである』
 海水が混ざる河川から、真水の川へ進行したのではなかったのです。私たちが考えていたことと、まったくの逆でした。
 本来命を育むべき真水の川から流れ出してしまい、塩水を含む河川へ流出しないようにと、踏ん張っていたのでしょう。親が端の方で水のようなものを幼生にかけていたのは、やはりクローエルクロコダイルの嫌がるという粘液を飛ばしていたようです。
 
 カームアリゲーターは、真水の川の上流に産卵します。幼生の頃は肌が弱く、塩分を含む水に長時間触れると育ちません。そのために上流の一部を塞き止め淡水のプールを作り、その中で集団で子育てをします。成長して皮膚が丈夫になると、徐々に川を下ります。やがてクローエルクロコダイルの嫌がる粘膜を出せるようになると、独立して河川へ流れ出してゆくのです。大人になり大河をこえ、海にまでたどり着く猛者もいるそうです。
 今回は徐々に川を下るさいに、このプールが決壊してしまったのでしょう。そして一気に川下に流されてしまいました。
 「この川の上流は間違いなく真水です。しかし河川に出たら無理でしょう。ここの川側でも、舐めれば塩分を感じる濃度ですからね」
 「ならどうするのかしら?」
 ルイスが隣国の調査団に話にいきます。将軍と数人が、小型ボートで上流に向かったようです。あ!ルイスが戻って来ましたね。
 「カームアリゲーターならば、大型船を突っこみ蹴散らすそうです。散り散りになれば、クローエルクロコダイルの餌になるとのことです」
 「危なくないの?」
「クローエルクロコダイルは幼生でも危険です。そのための調査団だったそうですが、カームアリゲーターなら危険は無いそうです」
「元には……上流には戻せないんだよね?」
「多分無理でしょう。上流で天然の岩場を利用し、プールを作れる場所など限られてしまいます。空けば次の群れが産卵しています。弱者は淘汰される。弱肉強食はダンジョン内であろうとも、自然の摂理なのですよ」
「………………」
将軍たちが戻って来ました。やはり上流は既に、新しい幼生で埋まっていたそうです。よって蹴散らすことに決定しました。
 『皆さん!大型船へ戻って下さい』と、決定事項が伝言ゲームのように伝わってきます。どうしましょう?
 「アリー?行きますよ。なにをモゾモゾしているのですか?おトイレなら大型船まで我慢して下さい」
 ルイスのバカ!違うわよ!
「あのね?ルイス?お願いがあります……」
「……何だか……怖いですね……」
「ドカンと魔法使って良いかな?欲しいの……」
  「………………」
 必殺上目使いよ!斜め下から首を傾げて、両手は重ねて握り胸元へ。ウルウルは中々難しいけどじっと見る。見る……見る……(確かここで目蓋を閉じないように我慢よね?すると目が乾いて涙が……やったー滲んできた!)
 あれ?そらされた!失敗したの?ならダメ押ししちゃうんだから!
   「欲しいなぁーー。ダ……メ?」
 腕を絡ませ上半身を押し付けくっつきながら、首を傾げ見上げてお願いしてみる。ウルウルが駄目ならスマイルでいきましょう。えーと……えーーこれでも。ダメ?ダメなの??ライラから手解きされた必殺技だったのにーー。やはり女子力はまだ身に付いていないようですね。ならばこれは実力で行くしかありませんね。殺っておしまい棒を出しましょうか?
  「アリー。少し我慢して下さい」
  ひょいと私を抱えたルイスが 走り出しました。『ルイスってば!船の上を走ってはいけません!』うひゃあっ………………』 いやーん。変なところ触るな!揉むな!気絶した私が気付いたのは、小型船の中のベットルームでした。

*****

 ここはどこ?あ……小型船のベットルームだね。案内された時見たよね。
 目を開くと……
  「なぜ上にルイスのお顔が?」
  「先に魔力を補給しましょう。欲しいのですよね?」
  お腹を撫でる手のひらから、温かい魔力が流れ込んできます。それに答えるかのように、赤ちゃんが振動します。
  「………………確かにルイスの魔力に反応しているみたいだけど…………」
  「もちろん子だけではありませんよ。滅多にないアリーの可愛らしいおねだりです。男としてしっかりと答えなくてはなりません。いくらでも差し上げます。欲しかったのですよね?」
  あれ?ちがーう!勘違いしてる!欲しいのは魔力じゃないの!カームアリゲーターが欲しいの!蹴散らされたら食べられちゃう!やだー!ルイスってばチュッチュするな!服を脱がすなー!って、いつのまにヒラヒラ寝間着になってるのー!
  「はぁ……はぁ……んぅー!!ちょっと待って!食べられちゃうのはやだー!はっ……話を聞いて……」
  「ダメです。食べるのも食べさせるのも決定事項です。ほら。催促していますよ。聞き分けない子はお仕置き……あ……もしかして時間を気にしてます?」
 「はぁはぁ……当たり前じゃない!蹴散らして終わるんでしょ?のんきに魔力補給なんてしてて良いの?それに私は欲しいのは魔力ではなく、カームアリゲーターです!」
 すっかりはだけた寝間着のあわせを閉じます。私の洋服はどこだろう。
  「ああなるほど!そちらの心配でしたか。アリー大丈夫です。幼生を捕獲する時間もタップリあります。すべて隣国の調査団と打ち合わせ済みです」
  説明しながら弄らないで!まったく意味がわかりません。
  「やだー!説明して!というか!やっぱりちゃんと、私が欲しいものを理解してるんじゃない!ならよけいに心配で嫌です。あまりしつこいと、スキルで逃げますよ!」
  「転移スキルはしばし、私と一緒の時以外は禁止です。転移先で何かあったら大変です。アリーは妊婦なのです。その辺をキチンと理解して下さい!」
  「その妊婦にしつこく、抱き潰すまで無体を働いてるのは誰ですか?」
  「無体ではありません。愛情と魔力補給です」
  …………言い方が違うだけじゃない。
  
  私が寝ている間に、ルイスは隣国の調査団と打ち合わせをしてきたそう。カームアリゲーターもクローエルクロコダイルも夜行性ではない。なので今から昼食をとり、寝る前の夕方、日が落ちる頃に捕獲することになりました。夜はどちらも寝てしまうので、大人は寝床に潜りかなり大人しくなるそうです。
 「今回は私とアリーで、球状結界を幼生の群れに突っ込みます。アリーの球状結界は便利です。私もかなり練習しましたから、上手くなりましたよ。そのまま真空に圧縮すれば良いでしょう。元々蹴散らすつもりでしたから、全て貰って良いそうです」
  それはラッキー。
  「これからの予定は?」
  「夕方まで待機です。現在川に出ている小型船は、私たちの船のみです。将軍や他の方々は、大型船でお昼を食べています。後程我々が大型船へ戻ります」
 安全な岩場に停泊させてまで、なぜわざわざ小型船に乗り込んでるのかしら?正直聞きたくないわね……
  「椿姫の国へ船舶の買い取りを打診したところ、使用した意見を聞きたいと言われたそうです。王太子様はかなり乗り気で、早速新しい新婚さんセットを届けてくれたそうです」
  それがこれです!と、ベッドサイドを指さすルイス。怪しげな布や小ビンが……この布ってかレース……手のひらに握れちゃうんですけど?なのにパンツでもないの?ナイティ?王太子様!お国の発展のために働くのは素晴らしいことです。しかし対応が早すぎです!グレイ?グレイが飛び回って連絡してるの?えーーグレイのバカーー!
  「それがこのピラピラスケスケなのね?お腹が冷えるし、妊婦はこんなの着ません!それに私たちはもう新婚さんではないでしょ?そろそろ頭を冷やしなさい!」
  「お気に召しませんでしたか?なら他にも有りますよ」
  「いりません!」
  「それは残念です……まあどうせすぐにね?」
  すぐにってなによーー。お昼は?私たちのごはんは?
 「お昼は中々豪華なランチボックスが届いています。すべて保温庫と保冷庫にわけてしまわれています。魔力補給がすみましたら、お風呂を堪能してから食べましょう。赤ちゃんのご飯が優先です。アリーが万全な状態で魔法を使用するためでもあるのです!」
  「先にお風呂じゃダメ?」
  「着替えをする前に、クリーンで隅々まで綺麗に洗浄しています。髪も体も艶々ですよ。私もアリーに感化され、かなり魔法の応用範囲を広めました。このクリーンですが、普通は表面を綺麗にするだけの魔法です。しかし癒しの魔法を組み合わせイメージすると、掃除洗濯は隅々まで。更には自身も全身が綺麗になります。解体の際の血抜きにも使用できますよ。旅をしている時に知りたかったですね。私は向上心が足りなかったようです。気づかせてくれたアリーには、本当に感謝しているのですよ」
  ルイスの清々しい笑顔が胡散臭い……なんて素直に話を聞けない自分が嫌になるけど……。やはりなにか含まれてそうで、ビクビクしちゃうのよ。これはやはりルイスの日々の行いが悪いのです!
  よくわからないけど癒しとクリーン?癒しの修復するイメージが関係するのかしら?試してみよう。
  すべてを綺麗に癒して……というか、元に戻して~って感じかしら?ん?あれー?爪が揃ってる!深爪して痛かったのに!髪の毛も!最近枝毛が増えてたのになくなってるーー
  「しかしそうですね。あまり時間もありません。お風呂に入りながら進めましょう。さあレッツゴーです」
  考え事をしていたらひょいと抱えられ、いつの間にかすっぽんぽんでお風呂です。船内なのに広くて片面鏡張り。なんだか色んな機能付き。お貴族様の道楽によるものらしい。もちろん浸かるだけてはすみませんよね……
 ベッドはフカフカ。どんなに動いても揺れません。これは元からの機能なのでしょうか?外面を補強したからなのでしょうか?しかしですね?ベッドではゆっくりと寝ましょうよ……
  時間は大丈夫なのでしょうか……
 
*****

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