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しおりを挟むすっかり秋も過ぎ、景色は冬へと移り変わってゆきます。私は少し早いのですがいつ出産になるかもしれないといわれ、お義父様のいらっしゃる本宅に滞在しております。こちらの本宅は王都にも馬車で一時間もかかりません。また街には簡易ではない転移門もあり、医療関係の搬送設備もあるのです。
実は私のお腹がかなり大きいので、双子の可能性が出てきました。言われてみるとたしかに、妙にデコボコしますし、蹴りもかなり激しい感じもします。お医者様に見て貰った所、先日ようやく異なる魔力の質と流れが、私の胎内に二つあると確認されました。これはやはり双子の赤ちゃんです。しかし一卵性の良く似た双子ちゃんではないそう。一卵性の場合は当たり前なのですが、魔力の質がそっくりになるそうです。しかし今回はまったく異なるとのこと。もしかしたら性別も違うのかもしれませんね。とても気になりドキドキしますが、こればかりは産まれるまでの我慢です。さすがに胎児に鑑定はかけられません。
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広々としたお部屋の中で、若い女性たちがワイワイとお喋りしながら手先を器用に動かしています。モールスパイダーのハギレで作った髪飾りは、孤児院の子供たちのおかげで大変な評判を得ました。なにしろ発色がよいので、どんな色にも染まります。急なハギレの需要に工場もビックリ。しかし小さなハギレまでもをパッチワークし、可愛らしいヘアアクセにしてしまう。孤児院の技術力に完敗です。工場でも廃棄するゴミが減り、経費節減にと大助かりですね。
孤児院では大きいお姉さんたちが小さな子供たちに手仕事を教えて行く。やがてその子供たちは立派な働き手となる。昔は孤児院を出てから働く場がなく大変だったそう。この領地はある意味改革的なのでしょう。
そして製品はランクを三段階にわけたそうです。孤児院では一般庶民用の物を作り、今まで通りにバザーで販売。お洒落着用は街の雑貨やさんや洋服やさんで。高級品はオーダーで。ハギレのランクもわけ、孤児院へはアイデア料として、無料で配布されるようになりました。つまり仕入れゼロで、作って売れれば売れるだけ、孤児院への収入となるのです。
今お部屋にいる若い女性たちは、赤ちゃんや子供用のデザインを試作しているのです。ロイヤルベビーに着せるためのものだそう。どうやらフレッド様のお相手が妊娠されたそうです。時間的には私の少し後くらいに産まれるのでしょうか?無事に出産された後、大々的に結婚式をされるそうです。
しかしフレッド様?ヤンデレは不味いですよ?未来の王妃様をまったくお部屋から出さないなんて!マジに監禁からの妊娠ですよ!既成事実で結婚です!女性は周囲からの囲い込みで逃げられなかった模様。しかしどなたかわからないのよね?なぜ正式発表をしないのかしら?産まれてかしら?
「どうやら女性の方が、王妃になるのを渋っているようだな。それゆえの囲いこみに監禁だろう。まあもう逃げられないだろう」
うわー。レッドってば悪どいニヤリね。まあ本人同士がよければオーケーよ。仲良きことは美しきかな?よね。
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そろそろ朝よね。カーテンが引かれたままの室内では、時間の移り変わりがよくわからない。脱力した体が、まだ言うことをきかない。
「赤ちゃんたちは…………」
大きな産声が室内にこだまする。二人分の元気な産声に、ホッとひと安心した。
ようやく産まれたのね。私とレッドの可愛い赤ちゃんたち…………
「元気な男の子と女の子ですよ。今綺麗になって来ますから、少しお待ち下さいね。初乳の準備を致しましょう」
案ずるより産むが易しね。昨日の朝方から始まった陣痛は、思いのほか順調に進行しました。どうやらレッドは間に合わなかったみたい。一週間前からフレッド様の結婚式の警備の打ち合わせに、王都まで駆り出されてるの。本人は立ち会いたいからと嫌がっていたんだけど、こちらにはお義父様たちもいるから大丈夫。仕事はキチンとしなさいと行かせたの。産気づいたことは連絡したから、たぶん直ぐに戻ってくるでしょう。
小さな赤ちゃんが二人、綺麗にされおくるみに巻かれてやってきた。
「お一人づつお渡ししますね。別々のお乳を含ませてあげて下さいませ。不足分は乳母が飲ませます」
乳母?そんなの聞いてないけど?
突如部屋の扉が大きな音を立てて開かれた。
「エル! 間に合わなかったな! ごめん! 本当にお疲れ様!可愛い家族をありがとう! 」
やはりレッドね……
「レッド?打ち合わせ中だったのではなくて?隊長が途中でトンズラしたら駄目じゃない。でも嬉しいから許す。でも乳母ってなによ? 」
「まあまあそれより双子ちゃんに会わせろよ。男女なんだろ?どちらの名前も考えておいて良かったな! 」
なんて早口で言いくるめられ宥められ、赤ちゃんたちに初乳を与えろとせつかれる。ふみゅふみゅと泣く赤ちゃん。さあ私がママですよー。
*****
えっ…………どうして?おくるみを外され、手渡された息子を見て絶句する。こんなはずが無いじゃない。でもなぜ誰も言わないの?不思議に感じないの?どうして!?
「レッド……どうして……」
「どうしたんだ?ほら早く飲ませてあげないと、お腹が空きすぎて泣いちゃうよ。本当に可愛いなぁ……男の子だけど、顔の造作はアリー似だね。女の子が俺似だなー。色素はどちらも俺似か……是非アリー似の子も欲しいな。また頑張ろうな! 」
丁度お義父様がお見舞いに来てくれた。レッドと共に、可愛いとニコニコしている。私にお疲れ様といってくれる。後片づけや新生児の用意で入れ替わり立ち替わりする部屋。行き来する侍女たちもこぞって、レッドにそっくりだと誉めて行く。
みんなの嘘つき!全然レッドに似てない!でも本当にどうしてなの?なぜ誰もなにも言わないの?お義父様まで! でも絶対に変!私は浮気なんてしていない。まさか先祖がえり?確かに私には王家の血が混じっている。でも!こんなことがあり得るはずがない!
レッドの色彩とまったく違うわ!しかもこの色は…………
この混じりけのない真っ青なロイヤルブルーの瞳。金髪だけど赤みがかる朱金色。この色彩の組み合わせは、両親のどちらかがこの色彩を持たねば誕生しない。我が国の王族直系にのみ与えられる色彩。私の母は現王の妹だけど、髪に朱金色は受け継いでいないの。この色彩は男子に遺伝しやすい。なのに双子の妹にまで……
私の困惑をよそに、息子はグングンとお乳を飲んでいる。初乳は含ませるくらいだと聞いたけど良いのかしら?
「はい!そろそろ交代な。妹がお腹を空かせてるぞ。お前には俺がミルクをやろう。ほら来い」
レッドが息子をひょいと抱き上げ、肩に凭れさせてゲップをさせる。ゲフーと満足そうに肩に凭れかかる息子。侍女がミルクを差し出し、レッドがそれを受けとる。侍女が続けて私には、双子の娘を渡してきた。反対側のお乳を含ませると、待ってましたとばかりに飲み始める。待たせたからね。お腹空いたのね。ごめんね。
そうよ!この子たちは私がお腹を痛めて産んだ子供たち。色彩なんて関係ないわ。なぜかレッドも皆も
私に問いたださないけど、私は胸を張って言えるわ。
この子たちは私の子供よ。誰がなんと言おうと守るわ。それに私はレッドを信じてる。レッドは私を疑ったりはしない。だって私を愛してくれてる。私もレッドを愛してる。だから信じたい。レッドの愛を。そして私の気持ちも。
私から娘を受け取りゲップをさせ、息子同様にミルクを飲ませているレッド。眠った娘を侍女に預け、室内には私とレッドだけになった。
「レッド……私は貴方を信じている。貴方を愛してるわ。貴方は私を信じてくれるの?これからも愛してくれるの? 」
私の言葉に驚きを隠せない顔をするレッド。そんなに驚くことかしら?
あら?レッドの輪郭がぼやけてる?よく見ようと目を擦った途端に、胸元に抱えこまれキツく抱き締められた。いったいどうしたの?
「エル!エルーー!私もあなたを愛しています。初めて本心を言葉にして『愛している』と言って下さいましたね!私の気持ちは幼いころから変わりません。私には貴女だけ。アリエルだけを愛してきました。貴女を騙していた私を、どうか許して下さい。アリエルこそ……私を嫌わないで下さい……」
えっ?なに?どうしたの?アリエルってなぜ知っているの?私を騙してたってなに?しかも一人称が私になっているし、話し方がまったく違うじゃない。そういえば私の呼び名も、時々アリーになっていたような?どういうことなの?キチンと説明してーー!
私を抱き込む腕から逃れると、頬をくすぐる金色の髪の毛。いえ、よく見ると朱金色だわ。驚き顔を上げるとそこには……王族由来の色彩を持つ青年がいた。私を見つめる瞳の色はロイヤルブルー。
「レッド……レッドなの?色彩が違うだけでまったく雰囲気が違うわ……でも確かにレッドよね?」
「そう。私がレッドだよ。エルいや、アリー。大好きなアリエルの伴侶で、可愛らしい双子の父だよ」
「でも……なぜ色彩が違うの?言葉遣いだって……しかもその色は王家の色だわ。まさか隠し子とかなの?エドウィン様のお兄様とか……でも我が国では側室は認められない。王様だって王妃様にベタ惚れなはずよ……」
いったいどうして?貴方はいったい誰なの?
「色彩が真逆に近いから気付かなかったけど、フレッド様に良く似ているわ。フレッド様はまだ幼いけど、成長したらそっくりかも……」
「アリエルはこんなレッドでは嫌いになるかい?成長したフレッドなら、もう愛してはくれないの?君の真の愛の言葉で、私は本来の姿に戻れたんだよ……私はもう黒ちゃんにはならない……いや、なれないんだ……」
「……………………」
「アリエル?アリー?」
「くっ黒ちゃんがいなくなっちゃったのーー! 黒ちゃんカムバックー」
もうなにがなんだかまったく理解できません。レッドが成長したらフレッド様?ただ似ているだけ?もしかして隠し子?うーん……。私の脳はヒートしてしまい……気絶してしまいました。
キチンと順序だてて説明しなさいよ!産後で疲労感でいっぱいなのに!頭を使いまくりで余計に疲れる……
わっ私の黒ちゃん……
黒ちゃんがもういないの?
癒しのモフモフが…………
まさか……だよな?
私は黒ちゃんに負けるのか?
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