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【本編】5さい
3話 森を抜けよう
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母ちゃんの作ってくれた宝物のスカーフを首に巻き、俺はガッツポーズで気合いを入れた。
因みに俺の首に巻いたスカーフは、巻いた時に背中にくる三角部分に刺繍がされていて、小さなリスの俺が巻いてたらかなり可愛い……と思う……。
まあ……そんな事は置いといて、俺は木から降り枯葉が溜まる地面へと降りる。
「ピピッ……」
(うーん、どっちにいこう……)
前世では確か、山や森に遭難した時は川を見つけて流れに辿っていくのが良いと聞いた気がする。
そもそも、こんな枯れ果てた森に川なんてあるのか分からないが、考えていても仕方ないと思い、とりあえず川を探すため、耳をすませながら太陽の方向に歩いて行った。
暫く歩いた時、俺の小さな丸い耳がぴくぴくと動き、音を拾う。
「ピ!ピピッ!」
(あ!このおとは!)
俺はまだ痛む体に喝を入れて走り出す。
音を頼りに走るとその音は次第に大きな音となり近付いていることが分かった。
木々の間を抜け開けた場所に出ると、俺の求めていたものを見つけたーーーーが……。
(きったねぇ……!!!)
求めていた川は俺の想像していたキラキラと光り輝く純粋な水……ではなく、紫色にドロドロと流れる、水とは言い難いものだった。
俺は力なくその場に座り込む。
昨日の夜から何も飲んでいない。既に俺の喉はカラカラに干からびている。
川に着いたら先ず喉を潤そうと思って期待していた分、裏切られた反動が大きく力が無くなり、暫くぼーっと汚い川を見つめていた。
(くそ、でもこんなところでしにたくない!)
俺は思い身体を起こし、川の流れに沿って進んで行った。
太陽が登るーー。
空が赤く染まり、次第に暗くなる。
夜は危険だから、近場の木の上で休んで、朝になると木の皮を食べてまた進む。
そして、おれは4回目の朝を迎えていた。
幸か不幸か2日目の夜に雨が降り、何とか喉を潤したが、それから水も一切口にしていない。
硬い木の皮を食べるのすらキツくなってきた。
1日目はさほど気にならなかった、体の痛みも日が進むに連れて酷くなり、全身が痛くてたまらない。
頭痛も酷く、俺は死を覚悟しながら、それでも最後まで諦めずにただただ前に進んだ。
1つ進展があったとすれば、3日目の昼頃で魔女の森のような気味の悪い場所は抜け、そこからは空気の良い自然豊かな森になった事だ。
川は途切れてしまったが、空気が綺麗なお陰で幾分歩きやすい。
虫や小さな動物も見かける事が多くなり、それが俺の唯一の救いだった。
「ピ……ピッ」
(はぁ、おなかすいた……)
俺の耳は力なく垂れ下がり、休憩する頻度も多くなっていく。
「ピ、ピュ……」
(からだいたい、かあちゃん……)
これからどうしたらいいのか、まだ5歳の俺……獣人化出来ない獣の俺を保護してくれるやつなんているのだろうか。
(いや、あきめてたまるか!かあちゃんとやくそくしたんだ、ぜったいにおおきくなってしあわせになるって!)
そう気持ちを切り替えた瞬間、俺の目の前には森の出口が見えた。
まだ距離は少し遠いが、森の出口で間違いない。
出口の先には何があるのだろう。
何も無く同じような森が続いていたら、きっともう俺は希望を失ってしまうだろう。
でも、そんな事考えたのなんて一瞬で、希望に満ちた俺は痛いのも忘れ、小さな体で全力で走る。
「ピッ!ピピッ!!」
(もうすこし!あとすこしで!)
光が照らす、森の外へ勢いよく飛び出す。
「ヒヒィーーンッ!!!」
「うわぁ!!!」
俺が外へ出た瞬間、馬の鳴き声と男性の声が辺りに響き渡り、声の方向へと瞬時に振り向く。
目の前には、大きな馬車を引く馬が興奮している様子で前足を蹴りあげる光景と、馬車を運転していたおじさんが驚いた表情を浮かべながら興奮した馬を宥めている様子が写る。
「ピ!ピ……ピッ……」
(で、でかい……も…むり、だ……)
馬に踏み潰されて死ぬ未来が見える。
その恐怖と疲労に俺は耐えられず、そのまま短い草の生える地面へと倒れ込んだ。
(おれ、しんじゃうのかな……)
死ぬのは……怖くない……。
だってかあちゃんに会えるから。
(でも、かあちゃんとのやくそく……まもりたかったな)
視界がぼやけ、瞼が閉じる寸前、誰かが馬車から降りてきた気がした。
……多分人間の子供だ。
その子供は俺の方へ一直線に走ってきて、俺に何かを言っているような気がした。
でも、何を言っているのかはひとつも分からず、俺は痛みで麻痺した身体を守るように丸まって意識を手放した。
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