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10さい
40話 微かな声
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素早い動きで距離をとり、また接近し剣を交える。
余裕顔のガロウィさんは流石の剣の使い手で、ラディを圧倒している。
だが、ラディも負けじとガロウィさんに食いつき、互いの勢いは少しずつ加速していく。
それは12歳とは思えない動きで、俺は今日1日だけでラディの新しいカッコイイ一面を知ったのだ。
「おらおら!そんなんじゃ俺に追い込まれるだけだぞ!!さっさと魔力を使えや馬鹿たれ!!!!!!」
「ーーーっっ!くっ!!」
余裕に笑うガロウィさんを睨むと、ラディが詠唱を呟き唱える。
瞬間、ラディの剣が氷に包まれ、先程よりも大きく鋭い剣へと変わった。
……これは、付与魔法だ。
でも、物体に魔法を付与するのは難しく、大人でも出来ない人は多いとハビー先生から教えてもらった。
俺はラディのその姿に目を輝かせ、尊敬の眼差しを向ける。
……すごい、すごいよラディ。
俺の知らない所でこんなにも頑張っていたなんて。
俺が遊んたりまったりしている時にだってラディは幾度もの難関を乗り越え頑張っていたんだ。
そう思うと、獣人化すら出来ない自分が恥ずかしくなるが、今はただ諦めず剣を振るうラディの姿に夢中になった。
「ピュキュ!ピピーーー!!!」
(ラディ!!頑張れ!!負けんなぁぁぁ!!)
俺はジャンプして小さな拳をブンブンと空振りする。
「はぁぁ!!!」
「おぉ!いい剣筋だ!じゃあーーこれはどうだぁ!!」
カキンカキンと高い音が響く。
もう何十分も交戦しているのに一向にガロウィさんから終了の言葉が出ない。
ラディはもうあんなにも息があがっているのに……。
でも騎士となって魔獣と戦う事になったら命懸けだ。
疲れても傷付いても立ち止まってはならない。
……だからいくら倒れても、息があがってもガロウィさんは止めないんだ。
……師匠であるガロウィさんは、ラディの精神力も鍛えているんだ。
それは俺にだって分かった。
だから俺はラディを応援した。声が枯れるほどに。
……今の俺にはそれしか出来ないから。
「ビュ!!ビィー!!!」
(頑張れ!!頑張れラディ!!!)
【…………ケ……テ……】
「……ピ?」
(っ……?なんだ……?)
応援を続けていると、どこからか弱々しい声が俺の耳を掠め、反射的にその声の方向へ振り向いた。
……森の奥から何か聞こえる。
感の鋭いラディとガロウィさんを見ても2人には聞こえていないみたいだ。
……俺だけに聞こえる声。
もう一度耳を澄ましてみる。
【……タス……ケテ】
(……助けてって言ったのか?)
その弱々しい声に俺は焦る。
誰かが魔獣に襲われて動けないのかもしれない。
もしかしたら怪我をしているのかも。
心臓が脈打ち、そんな事を考えている時でさえ声は続き、助けを求めている。
(……でも、ここを離れたらラディが心配する)
それに、行ったとしても俺に出来ることなんてあるのか……?
俺は未だに交戦を続けている2人に向き直る。
2人にこの事を伝えればーーーとも思ったが、この激しい攻防の中に俺が入れるわけもないし、話が通じない以上直ぐに理解して貰うのは難しい。
(くそっ……でも早く行かないと……)
俺は俯き、拳を握る。
(……ラディだって自分の力で頑張っているんだ……俺だって!!!!)
俺は覚悟を決め、前を向く。
(……ごめんラディ、直ぐに戻るから)
そう思いラディを一瞥すると切り株から降り、声のする方へ全速力で走ったーーーーー。
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