【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん

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第21話 毒草の噂と、疑念の種

その噂は、いつの間にか広がっていた。

 ――“薬師局の薬で、体調を崩した患者が出た”――

 王都の下町から始まったささやきは、いつしか貴族街にも届き、民衆の耳にもじわじわと染み渡る。

「……これ、意図的に流されてますね」

 ティノ・クロードが、机上の報告書を睨みながら言った。
 数件の“軽い中毒症状”があったとされる事例。だがその内容はあまりにも曖昧で、調査記録すら残されていない。

「使った薬の種類、症状、服用の時間……どれも記録が抜けてる。これじゃ検証もできない」

「つまり、薬のせいじゃない?」

 シエラが不安そうに訊ねると、ミリアがぽつりと呟いた。

「……“草”のせいにしているだけ。たぶん、他に原因がある」

 レイナは黙って一枚の報告書を手に取る。そこにはこう記されていた。

 《患者A:王都北部の織物職人。症状:頭痛、倦怠感。処方:鎮静香薬。経過不明》

「この“香薬”……私たちが調合したものじゃない」

 「えっ?」

「少し違う香り。配合も違う。たぶん、局の名前を使って“偽薬”が流通してる」

 部屋の空気が一気に緊張する。

「偽薬……って、誰がそんなことを……」

「誰が、というより……“なぜ今”か、の方が重要だと思う」

 ティノは静かに続けた。

「薬草流通を止められたのに、薬師局は草を自分たちで採りに行って治療を続けた。その“対応力”が逆に目をつけられたんだ。今度は“信用”を潰しに来てる」

「……どこまで、やるつもりなんだろう」

 レイナの声は、静かに震えていた。

   ◇ ◇ ◇

 その夜。王都の裏通りにある小さな薬店。

 その一室で、仮面をつけた男が細工した香草の束を数箱に分けて並べていた。

「この程度で十分だ。香りが似てさえいれば、民は疑いもしない」

 傍らで帳簿を記す女が言った。

「“レイナの局の薬だ”って言葉を添えて売れば、話は早いわ。庶民なんて、名前が好きなだけだから」

「……すべて、計画通りだ」

 彼らの狙いは単純だった。薬師局の“奇跡”を、“誤解と疑念”で塗りつぶすこと。

   ◇ ◇ ◇

 翌朝。
 レイナは裏庭で、静かにアカフルミに語りかけていた。

「……ごめんね。草の名前が、誰かの手で汚されるのは……つらい」

 だが、彼女の手の中で揺れた葉は、そっと音を立てるように震えた。

 レイナは目を閉じて、頷いた。

「……大丈夫。ちゃんと、確かめるから」

 “草は嘘をつかない”。
 ならば、自分もまた、信じ続けるしかない。
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