27 / 261
第21話 毒草の噂と、疑念の種
その噂は、いつの間にか広がっていた。
――“薬師局の薬で、体調を崩した患者が出た”――
王都の下町から始まったささやきは、いつしか貴族街にも届き、民衆の耳にもじわじわと染み渡る。
「……これ、意図的に流されてますね」
ティノ・クロードが、机上の報告書を睨みながら言った。
数件の“軽い中毒症状”があったとされる事例。だがその内容はあまりにも曖昧で、調査記録すら残されていない。
「使った薬の種類、症状、服用の時間……どれも記録が抜けてる。これじゃ検証もできない」
「つまり、薬のせいじゃない?」
シエラが不安そうに訊ねると、ミリアがぽつりと呟いた。
「……“草”のせいにしているだけ。たぶん、他に原因がある」
レイナは黙って一枚の報告書を手に取る。そこにはこう記されていた。
《患者A:王都北部の織物職人。症状:頭痛、倦怠感。処方:鎮静香薬。経過不明》
「この“香薬”……私たちが調合したものじゃない」
「えっ?」
「少し違う香り。配合も違う。たぶん、局の名前を使って“偽薬”が流通してる」
部屋の空気が一気に緊張する。
「偽薬……って、誰がそんなことを……」
「誰が、というより……“なぜ今”か、の方が重要だと思う」
ティノは静かに続けた。
「薬草流通を止められたのに、薬師局は草を自分たちで採りに行って治療を続けた。その“対応力”が逆に目をつけられたんだ。今度は“信用”を潰しに来てる」
「……どこまで、やるつもりなんだろう」
レイナの声は、静かに震えていた。
◇ ◇ ◇
その夜。王都の裏通りにある小さな薬店。
その一室で、仮面をつけた男が細工した香草の束を数箱に分けて並べていた。
「この程度で十分だ。香りが似てさえいれば、民は疑いもしない」
傍らで帳簿を記す女が言った。
「“レイナの局の薬だ”って言葉を添えて売れば、話は早いわ。庶民なんて、名前が好きなだけだから」
「……すべて、計画通りだ」
彼らの狙いは単純だった。薬師局の“奇跡”を、“誤解と疑念”で塗りつぶすこと。
◇ ◇ ◇
翌朝。
レイナは裏庭で、静かにアカフルミに語りかけていた。
「……ごめんね。草の名前が、誰かの手で汚されるのは……つらい」
だが、彼女の手の中で揺れた葉は、そっと音を立てるように震えた。
レイナは目を閉じて、頷いた。
「……大丈夫。ちゃんと、確かめるから」
“草は嘘をつかない”。
ならば、自分もまた、信じ続けるしかない。
――“薬師局の薬で、体調を崩した患者が出た”――
王都の下町から始まったささやきは、いつしか貴族街にも届き、民衆の耳にもじわじわと染み渡る。
「……これ、意図的に流されてますね」
ティノ・クロードが、机上の報告書を睨みながら言った。
数件の“軽い中毒症状”があったとされる事例。だがその内容はあまりにも曖昧で、調査記録すら残されていない。
「使った薬の種類、症状、服用の時間……どれも記録が抜けてる。これじゃ検証もできない」
「つまり、薬のせいじゃない?」
シエラが不安そうに訊ねると、ミリアがぽつりと呟いた。
「……“草”のせいにしているだけ。たぶん、他に原因がある」
レイナは黙って一枚の報告書を手に取る。そこにはこう記されていた。
《患者A:王都北部の織物職人。症状:頭痛、倦怠感。処方:鎮静香薬。経過不明》
「この“香薬”……私たちが調合したものじゃない」
「えっ?」
「少し違う香り。配合も違う。たぶん、局の名前を使って“偽薬”が流通してる」
部屋の空気が一気に緊張する。
「偽薬……って、誰がそんなことを……」
「誰が、というより……“なぜ今”か、の方が重要だと思う」
ティノは静かに続けた。
「薬草流通を止められたのに、薬師局は草を自分たちで採りに行って治療を続けた。その“対応力”が逆に目をつけられたんだ。今度は“信用”を潰しに来てる」
「……どこまで、やるつもりなんだろう」
レイナの声は、静かに震えていた。
◇ ◇ ◇
その夜。王都の裏通りにある小さな薬店。
その一室で、仮面をつけた男が細工した香草の束を数箱に分けて並べていた。
「この程度で十分だ。香りが似てさえいれば、民は疑いもしない」
傍らで帳簿を記す女が言った。
「“レイナの局の薬だ”って言葉を添えて売れば、話は早いわ。庶民なんて、名前が好きなだけだから」
「……すべて、計画通りだ」
彼らの狙いは単純だった。薬師局の“奇跡”を、“誤解と疑念”で塗りつぶすこと。
◇ ◇ ◇
翌朝。
レイナは裏庭で、静かにアカフルミに語りかけていた。
「……ごめんね。草の名前が、誰かの手で汚されるのは……つらい」
だが、彼女の手の中で揺れた葉は、そっと音を立てるように震えた。
レイナは目を閉じて、頷いた。
「……大丈夫。ちゃんと、確かめるから」
“草は嘘をつかない”。
ならば、自分もまた、信じ続けるしかない。
あなたにおすすめの小説
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!
山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。
「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」
周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。
アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。
ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。
その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。
そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!