続きは第一図書室で

蒼キるり

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32.恋なんかじゃない

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 俺を睨んで、食べ終わった食器を荒く音を立てながら重ねている。
 耳につく不協和音が俺に何かを気づかせるようで、それを打ち消すようにコーヒーを飲み干した。

「……そういえば昨日、全然話して来なかったし。いつも借りてる本も見せて来なかったから、おかしいとは思ってたけど。お兄ちゃん、何かしたの?」

「だから何の……」

「浩也さんの事だよ!」

 ……なんで今、浩也の話が出て来るんだよ。
 もう第一図書室には行くつもりもないのだから、忘れたいのに。
 なんで、忘れさせてくれないんだろう。

「気付いてないわけないじゃん!お兄ちゃんは気付いてないの?浩也さんと話すようになってから、お兄ちゃん昨日以外ずっとずっと浩也さんの話ばっかりじゃん!」

「それは……」

 あいつが、見かけによらず面白い奴だから……ただ、それだけなんだよ。

「私、お兄ちゃんがあんなに笑って人の事を話すの初めて見たよ。だから、どんな人でもお兄ちゃんを応援しようって。……浩也さんは良い人だったし。なのに……なんでお兄ちゃんは認めないの?」

「…………」

「なんで誤魔化すの!なんで認めないの!いつまで普通にしがみつくの!私は……私はもうお兄ちゃんに守ってもらわなくても平気なのに!」

 そこまで言って肩で息をする美奈にようやく目をやると、美奈の目に涙が溜まっているのに気づいて驚いた。
 俺と目が合うと目を逸らして、立ち上がった。

「……好きなんでしょ?」

 そのまま足を引きずりながら、美奈はリビングから出て行ってしまった。

「……守ってもらわなくても、平気か」
 分かってる……つもりだったんだけどな。
 昔、美奈が「どうしてうちにはおとうさんはいないし、おかあさんもおしごとでいえにいてくれないの?」ってよく泣いていた。
 俺は、母さんに言われた事を鵜呑みにして、父さんが普通じゃないから、美奈はこんなに泣いてるんだろうな、と思った。
 ……だから俺が普通に、母さんが言うように普通にしていれば美奈は泣かないんだろうなって子供らしい単純さで考えた。
 母さんにも美奈にも普通でなくて良いと言われて、俺はどうしたら良いんだろう。
 俺は……恋なんかしてない。
 ただ、ただ……あいつの事を、浩也の事を思い出すとどうしてか泣きそうになって、なんで練習やめようなんて言ったんだろうと馬鹿な事まで考えてしまう。
 それだけ。それだけなんだ。
 浩也が美奈が見せて来た本に書かれていた恋は嬉しくもなるけど哀しくもなる、それでも幸せにもなれるものだった。
 ただただ辛いだけのこれは恋なんかじゃない。
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