前世で私を見殺しにした夫を選ばず、今度こそ愛してくれる人と幸せになります

ria_alphapolis

文字の大きさ
3 / 6

第3話 目覚め

しおりを挟む

 目を開ける。

 見慣れた天井。

 ここは、どこだろう。

 体を起こす。柔らかい寝具の感触。部屋中に朝の光が差し込んでいる。

 この部屋は。

 実家の、私の部屋だ。

 なぜ。

 私は処刑されたはずだ。断頭台で、刃が落ちて、それで。

 それで。

 手を見る。震える指先。確かに動く。生きている。

 窓辺に駆け寄り、外を見る。見慣れた庭。父の屋敷の庭園。花々が咲き誇っている。

 春の景色。

 心臓が激しく打つ。

 これは、夢なのだろうか。

 頬を抓る。痛い。夢ではない。

 では、なぜ。なぜ私はここにいる。

 机の上にカレンダーが置いてある。そこに記された日付を見て、息を呑む。

 三年前。

 王子との婚約が決まる、一ヶ月前。

 膝から力が抜ける。床に座り込む。

 戻った。

 時が、戻った。

 なぜ。どうして。

 だが、これは現実だ。前世の記憶も鮮明に残っている。冷たい夫。孤独な日々。捏造された罪。そして、処刑。

 全て、本当にあったこと。

 そして今、私は婚約前に戻っている。

 もう一度、人生をやり直せると。

 立ち上がる。鏡を見る。若い自分の顔。まだ何も知らない、無邪気だった頃の私。

 だが、今の私は違う。

 未来を知っている。

 どうなるか、分かっている。

 王子と結婚すれば、不幸になる。愛されず、裏切られ、最後は処刑される。

 ならば。

 答えは明白だ。

 婚約を、断る。

 王子とは結婚しない。別の道を選ぶ。自分の人生を、自分で決める。

 窓の外を見る。青い空。穏やかな風。

 前世では、この景色をどれだけ恋しく思ったことか。王宮の冷たい石造りの部屋で、何度この庭を思い出したことか。

 もう、あんな思いはしたくない。

 今度こそ、自分のために生きる。

 誰かのためではなく。国のためでもなく。

 ただ、自分が幸せになるために。

 深く息を吸う。

 やり直せる。

 この奇跡を、無駄にはしない。

 部屋を出ようとした時、ふと窓の外に人影が見えた。

 屋敷の門の近く。誰かが立っている。

 目を凝らす。

 騎士の制服。

 そして、その顔。

 騎士団長。

 なぜ、彼がここに。

 前世では、この時期に彼と会った記憶はない。初めて言葉を交わしたのは、王宮に入ってからだったはず。

 だが、確かにそこにいる。

 彼は門の外から、じっとこちらを見ている。

 その目。

 処刑台で見た、あの目。

 悲痛と、後悔と。

 そして、何かを知っているような。

 胸騒ぎがする。

 まさか。

 いや、そんなはずは。

 だが。

 彼の目は、明らかに。

 私を、知っている。

 前世の私を、知っている。

 そんな目で、見ている。

 手が震える。

 死に戻ったのは、私だけではない。

 もしかして。

 彼も?

 騎士団長は、私と目が合うと、深く一礼した。

 そして、静かに立ち去っていった。

 後には、ただ風に揺れる木々だけが残された。

 なぜ、あの人がここに。

 なぜ、あんな目で私を見たのか。

 胸の奥で、何かが騒いでいる。

 これから何が起こるのか。

 それは、まだ分からない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢は結婚前日に親友を捨てた男を許せない

有川カナデ
恋愛
シェーラ国公爵令嬢であるエルヴィーラは、隣国の親友であるフェリシアナの結婚式にやってきた。だけれどエルヴィーラが見たのは、恋人に捨てられ酷く傷ついた友の姿で。彼女を捨てたという恋人の話を聞き、エルヴィーラの脳裏にある出来事の思い出が浮かぶ。 魅了魔法は、かけた側だけでなくかけられた側にも責任があった。 「お兄様がお義姉様との婚約を破棄しようとしたのでぶっ飛ばそうとしたらそもそもお兄様はお義姉様にべた惚れでした。」に出てくるエルヴィーラのお話。

酷いことをしたのはあなたの方です

風見ゆうみ
恋愛
※「謝られたって、私は高みの見物しかしませんよ?」の続編です。 あれから約1年後、私、エアリス・ノラベルはエドワード・カイジス公爵の婚約者となり、結婚も控え、幸せな生活を送っていた。 ある日、親友のビアラから、ロンバートが出所したこと、オルザベート達が軟禁していた家から引っ越す事になったという話を聞く。 聞いた時には深く考えていなかった私だったけれど、オルザベートが私を諦めていないことを思い知らされる事になる。 ※細かい設定が気になられる方は前作をお読みいただいた方が良いかと思われます。 ※恋愛ものですので甘い展開もありますが、サスペンス色も多いのでご注意下さい。ざまぁも必要以上に過激ではありません。 ※史実とは関係ない、独特の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法が存在する世界です。

その瞳は囚われて

豆狸
恋愛
やめて。 あの子を見ないで、私を見て! そう叫びたいけれど、言えなかった。気づかなかった振りをすれば、ローレン様はこのまま私と結婚してくださるのだもの。

誰も残らなかった物語

悠十
恋愛
 アリシアはこの国の王太子の婚約者である。  しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。  そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。  アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。 「嗚呼、可哀そうに……」  彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。  その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。

『仕方がない』が口癖の婚約者

本見りん
恋愛
───『だって仕方がないだろう。僕は真実の愛を知ってしまったのだから』 突然両親を亡くしたユリアナを、そう言って8年間婚約者だったルードヴィヒは無慈悲に切り捨てた。

婚約者の私より彼女のことが好きなのですね? なら、別れて差し上げますよ

四季
恋愛
それなりに資産のある家に生まれた一人娘リーネリア・フリューゲルには婚約者がいる。 その婚約者というのが、母親の友人の息子であるダイス・カイン。 容姿端麗な彼だが、認識が少々甘いところがあって、問題が多く……。

「婚約破棄してくれてありがとう」って言ったら、元婚約者が泣きながら復縁を迫ってきました

ほーみ
恋愛
 アラン王太子の訪問から三日後。私の屋敷には、まるで王都中が興味津々とでも言わんばかりに、招かれざる客がひっきりなしに現れていた。 「ごきげんよう、レティシア様。少しだけお時間を――」 「申し訳ありません、ただいまお嬢様は“療養中”ですので」  メルの冷ややかな切り返しに、来客の顔が強ばるのを窓越しに見て、私はくすりと笑った。 (ふふ、いい気味)  婚約破棄された女に、ここまで関心を寄せるなんて皮肉な話だけど――貴族社会なんてそんなもの。誰かが落ちれば、その跡地を漁ろうと群がる。

幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに

hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。 二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。

処理中です...