前世で私を見殺しにした夫を選ばず、今度こそ愛してくれる人と幸せになります

ria_alphapolis

文字の大きさ
5 / 6

第5話 影守り

しおりを挟む

 屋敷の外壁に背を預け、夜空を見上げる。

 星が多い夜だ。

 前世でも、こんな夜があった。

 彼女が処刑される三日前。私は同じように星を見上げながら、何もできない自分を呪っていた。

 だが今は違う。

 今度は間に合った。

 時が戻った瞬間、私はすぐに理解した。これは奇跡だと。そして、この奇跡を無駄にするまいと誓った。

 前世で果たせなかったことを、今度こそ果たす。

 彼女を守る。

 それだけが、私が時を戻ってきた理由だ。

 屋敷の灯りが一つ消える。また一つ消える。

 彼女の部屋の明かりは、まだついている。

 何を考えているのだろう。

 今日の庭での彼女の目を思い出す。あの目は、まるで前世の彼女の目と同じだった。何かを探るような、何かに気づきかけているような。

 死に戻ったのは、私だけではないのかもしれない。

 そう思いたい。

 だが、確かめる方法がない。

 軽率に動けば、全てが崩れる。

 前世では、動けなかったことを後悔した。だが今世では、動きすぎることを恐れている。彼女が混乱してはいけない。怖がらせてはいけない。

 ただ、そばにいる。

 影からでも、守れる。

 今はそれで十分だ。

 風が吹く。木々が揺れる。

 前世のことを思い出す。

 告白できなかったのは、身分のためだけではなかった。彼女が王子と婚約する前、私には幾度か機会があった。言葉をかけることくらい、できたはずだった。

 それでも、できなかった。

 彼女には相応しい人がいると思っていた。王族か、高位の貴族か。少なくとも、平民出身の騎士などではない人が。

 だから、黙っていた。

 遠くから見守ることが、私にできる精一杯だと信じていた。

 馬鹿だった。

 結局、彼女は幸せになれなかった。私が身を引いたことが、正しい選択だったとは言えない。誰かと幸せになれたわけでも、守られたわけでもない。

 ただ、傷ついて、孤独で、最後は命を奪われた。

 あの処刑台での彼女の顔が、今も胸に刺さっている。

 諦めた顔。

 誰にも助けてもらえないと、分かりきった顔。

 二度と、あんな顔をさせない。

 今度は黙っていない。身分など、関係ない。もし迷惑だと言われても、嫌だと言われても、それでも傍にいる。

 それくらいの覚悟は、できている。

 ただ、今はまだ早い。

 彼女には時間が必要だ。前世の記憶があるとすれば、混乱しているはずだ。そこに私が踏み込めば、かえって傷つけてしまう。

 だから今は、影から守る。

 彼女が気づくまで待つ。

 もし気づかなくても、ずっと傍にいる。

 屋敷の灯りが全て消えた。

 彼女も、眠りについたのだろう。

 今夜は何事もなかった。

 良かった。

 立ち上がり、引き上げようとした時、遠くから馬蹄の音が聞こえてきた。

 夜分に、誰だろう。

 目を凝らす。

 紋章が見えた。

 王家の紋章。

 王子の馬車だ。

 なぜ、こんな夜中に。

 前世では、この時期に王子がここを訪れたことなどなかった。

 胸に冷たいものが走る。

 何かが、前世とは違う動きをしている。

 馬車が屋敷の門前に止まる。

 王子が降りてくる。

 前世でも王子を何度も見た。端正な顔立ち。堂々とした立ち振る舞い。多くの人が彼を慕っている理由は分かる。

 だが、私は知っている。

 この男が、彼女を不幸にしたことを。

 握り拳に力が入る。

 今世では、そうはさせない。

 王子が屋敷の扉を叩く音が、静かな夜に響いた。

 あの男から、彼女を守る。

 それが今世の、私の誓いだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢は結婚前日に親友を捨てた男を許せない

有川カナデ
恋愛
シェーラ国公爵令嬢であるエルヴィーラは、隣国の親友であるフェリシアナの結婚式にやってきた。だけれどエルヴィーラが見たのは、恋人に捨てられ酷く傷ついた友の姿で。彼女を捨てたという恋人の話を聞き、エルヴィーラの脳裏にある出来事の思い出が浮かぶ。 魅了魔法は、かけた側だけでなくかけられた側にも責任があった。 「お兄様がお義姉様との婚約を破棄しようとしたのでぶっ飛ばそうとしたらそもそもお兄様はお義姉様にべた惚れでした。」に出てくるエルヴィーラのお話。

酷いことをしたのはあなたの方です

風見ゆうみ
恋愛
※「謝られたって、私は高みの見物しかしませんよ?」の続編です。 あれから約1年後、私、エアリス・ノラベルはエドワード・カイジス公爵の婚約者となり、結婚も控え、幸せな生活を送っていた。 ある日、親友のビアラから、ロンバートが出所したこと、オルザベート達が軟禁していた家から引っ越す事になったという話を聞く。 聞いた時には深く考えていなかった私だったけれど、オルザベートが私を諦めていないことを思い知らされる事になる。 ※細かい設定が気になられる方は前作をお読みいただいた方が良いかと思われます。 ※恋愛ものですので甘い展開もありますが、サスペンス色も多いのでご注意下さい。ざまぁも必要以上に過激ではありません。 ※史実とは関係ない、独特の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法が存在する世界です。

その瞳は囚われて

豆狸
恋愛
やめて。 あの子を見ないで、私を見て! そう叫びたいけれど、言えなかった。気づかなかった振りをすれば、ローレン様はこのまま私と結婚してくださるのだもの。

誰も残らなかった物語

悠十
恋愛
 アリシアはこの国の王太子の婚約者である。  しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。  そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。  アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。 「嗚呼、可哀そうに……」  彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。  その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。

『仕方がない』が口癖の婚約者

本見りん
恋愛
───『だって仕方がないだろう。僕は真実の愛を知ってしまったのだから』 突然両親を亡くしたユリアナを、そう言って8年間婚約者だったルードヴィヒは無慈悲に切り捨てた。

婚約者の私より彼女のことが好きなのですね? なら、別れて差し上げますよ

四季
恋愛
それなりに資産のある家に生まれた一人娘リーネリア・フリューゲルには婚約者がいる。 その婚約者というのが、母親の友人の息子であるダイス・カイン。 容姿端麗な彼だが、認識が少々甘いところがあって、問題が多く……。

「婚約破棄してくれてありがとう」って言ったら、元婚約者が泣きながら復縁を迫ってきました

ほーみ
恋愛
 アラン王太子の訪問から三日後。私の屋敷には、まるで王都中が興味津々とでも言わんばかりに、招かれざる客がひっきりなしに現れていた。 「ごきげんよう、レティシア様。少しだけお時間を――」 「申し訳ありません、ただいまお嬢様は“療養中”ですので」  メルの冷ややかな切り返しに、来客の顔が強ばるのを窓越しに見て、私はくすりと笑った。 (ふふ、いい気味)  婚約破棄された女に、ここまで関心を寄せるなんて皮肉な話だけど――貴族社会なんてそんなもの。誰かが落ちれば、その跡地を漁ろうと群がる。

幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに

hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。 二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。

処理中です...