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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【事件篇】

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「彼の言う通り、事件は全て神座かんざ線の沿線に沿った形で起きています。そして、殺害現場はいずれも最寄りの駅から徒歩で移動できる範囲内。このことから、犯人の主たる移動手段は電車ではないかと思われます」

 縁の言葉に、近辺の地図をざっと頭の中で再現する倉科。事件の発生地点をまとめた資料を捜査本部で見たことがあり、実にあっさりと頭の中で地図が再現された。そこに赤ペンで丸をつけていく。事件の起点となった駅から、事件が続いた順に赤ペンをなぞると、神座線が綺麗に線一本で繋がった。逆を言ってしまえば、神座線から離れた場所では一切事件が発生していない。

「犯人が免許を持っていない可能性も、最初はこのことから弾き出したものです。もし犯人の移動手段に車が加わっているのであれば、もっと犯行の範囲も広がっているはずですから」

 坂田に持って行かれた分を取り戻そうとするかのように、間髪入れずに続ける縁。そんな縁を見て「同心円地域理論どうしんえんちいきりろんだな……」とだけ漏らす坂田。置いてきぼりなのは相変わらず倉科と尾崎だけだ。

「それに、全ての犯行において、この事件は犯行時間が早いという特徴があります。これも犯人が電車を主な移動手段に使っていると定義すると納得ができる」

 このまま蚊帳かやの外のままでは面白くなかったのであろう。尾崎が手の平をぽんと叩き、ここぞと言わんばかりに口を開いた。

「――終電っすね! 電車は丸一日走ってるわけじゃ無ぇっすから、電車を移動手段としている犯人は、終電までに電車に乗らなければならない。だからこそ、犯行時刻が比較的早いってことっす!」

 尾崎のカットインと、無駄に大きな声に、縁はやや苦笑いを浮かべながら頷いた。

「えぇ。五人目の犠牲者の死亡推定時刻は午後十時まで幅を取ってありますが、実際はもっと早い時間に殺害されていたと考えられます。そして、このことから犯人の生活パターンもある程度見えてきます。犯人はどんな生活を送っているのだと思いますか?」

 縁は倉科と尾崎に問いかけたつもりだったのであろう。しかし、真っ先に坂田が答えを口にしてしまう。

「朝には家を出て、少なくとも終電で家に帰らなきゃいけないような生活だな――。その日のうちに帰宅しなければならないのは、怪しまれるからだ。では、誰が怪しむのか。それは、同居している家族にほかならない。よって、普段の犯人は家族と同居しており、比較的規則正しい生活を送っている可能性が高い。キャリアの女がプロファイリングした通りだな」

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