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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【解決篇】

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 まぁ、やってしまったものは仕方がないであろう。型破りであるし、組織としてはやってはならないことであるが、殺人蜂の正体に迫ることができるのであれば、目をつむるべきであろう。融通ゆうづうが利かず、古臭いやり方にこだわっていても、必ず事件が解決するとは限らないのだから。

「実は――」

 尾崎は捜査で得たであろう情報を、坂田に対して淡々と上げていった。捜査会議で議題になった進学塾へと赴き、話を聞いてきたこと。そこで、犠牲者の情報を知り得る人物の存在を掴んだこと――。話をまとめるのが下手なのか、余計な話まで絡んでいたせいで、かなりの時間を要してしまった。最終的に事件現場に赴いて、その疑わしき人物を縁が見つけたところで、ようやく話は終わった。いちからじゅうまで尾崎が余すことなく話したせいなのか、話を聞き終えた坂田が「まとめかた下手か」と呟いた。

「どこに重要な手掛かりが含まれているか分からねぇっすから」

 そう呟いたのは、自分の話のまとめかたが下手であることに対する言い訳か。尾崎は銃口を坂田から離そうとはしない。一方、尾崎からの情報を得て、ぶつぶつと独り言を漏らしていた坂田が、なぜだか笑い出した。

「くくくくっ――ひゃっはっはっは! 確かにチョンマゲの言う通り、何が事件の解決に繋がるか分からねぇもんだなぁ。なるほど、どうやら犯人の目星がついたみてぇだな。お前達、そのやり方も面白れぇけど、今回ばかりはそれに強運もおまけで付いてきたみてぇだな」

 尾崎の話だけで、坂田は何かを掴んだようだった。もっとも、話の内容を考えれば、犯人は明白なのかもしれないが――。ただ、倉科がたどり着いた答えが真相ならば、尾崎が話をしっかりとまとめていたところで、誰でもたどり着けるものであると思うのだが。

「坂田、それで犯人は――」

 倉科が真に迫るために口を開こうとした瞬間のことだった。本来ならばアンダープリズンで絶対にあってはならないことが起こった。なんと、前触れもなしに独房の扉がゆっくりとスライドし、ひとつの影が飛び込んできたのである。それこそ認可を受けた者でなければ入室できないほどの、厳重なセキュリティーが施されているにも関わらず。

「倉科さん! 緊急事態です! 山本さんから電話がありました!」

 飛び込んできたのは中嶋だった。どうやら、尾崎が送ったメールを見て、縁がアンダープリズンへと連絡をしてきたらしい。ただ、それだけならば緊急事態というのはどうだろうか。曲がりなりにも、ここは認可を受けた者しか入れない場所なのだから。
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