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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【エピローグ】

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 ヘソを曲げているというよりかは、子どもがいじけているように見える。ばたばたとしてしまったせいで坂田を置いてきぼりにし、勝手に事件が解決してしまったことが面白くないのだ。

 倉科が縁に目配せをしてくる。上手いことを言って坂田の機嫌をとれ――倉科の目がそう言っているように思えた。自分だって根拠があって殺人蜂に接触したのだが、このままでは坂田の機嫌が直らない。心機一転、これから0.5係として二人三脚でやっていかねばならないのに、これでは先が思いやられる。

「あ、えーっと。私の場合は何というか――女の勘と言いますか、たまたま接触した相手が殺人蜂だっただけで――。だからこそ、何の準備もしていなくて、殺人蜂に捕まったわけだし」

 自分でも下手くそな演技であると思う。女の勘だけで事件が解決するのは、二時間ものの推理ドラマくらいだ。それなりの根拠がなければ普通は動けない。もっとも、殺人蜂に拉致されてしまったことは事実であるし、軽率な行動であったことは認めるが。

「勘? 女の勘とか――。お前、馬鹿だなぁ」

 しかしながら、縁の下手くそな演技が、逆に坂田の心を動かしたらしい。ベッドから起き上がるとニヤリと笑みを浮かべ、わざわざ鉄格子のそばまでやってくる。

「そんな調子で0.5係なんて務まるのかぁ? 勘だけで動くとか、どっかのチョンマゲじゃあるまいし」

 坂田はそう言うと、尾崎のほうを一瞥いちべつする。カチンと来たのか「自分だって年に一回くらいは根拠を持って動くっす!」と反論するが、年に一回とはいかがなものか。すなわち、それ以外は全て勘で動いていることになってしまうではないか。

「坂田、山本が今言った通りだ。俺達には根拠というものがさっぱり分からん。お前はどうやって殺人蜂の正体に気付いたんだ? 馬鹿な俺達に教えて欲しいなぁ」

 坂田の調子が戻ってきたからなのか、わざとらしく坂田を持ち上げる倉科。坂田のご機嫌取りまで仕事だなんて、思っていたよりも0.5係は過酷な仕事なのかもしれない。

「くくくくくっ――。仕方がねぇなぁ。こんなことにも気付けないお馬鹿さん達のためによ、俺がわざわざ教えてやるかぁ。全く、先が思いやられるぜ」

 それはこっちの台詞だ――。思わず口をついて出そうになってしまった言葉を飲み込む。ようやく機嫌が戻りつつあるのに、ここで変にこじれると面倒だ。

「チョンマゲから話を聞いた時に、一人だけ明らかにおかしな発言をした人物がいたんだよ。で、蓋を開けてみたら案の定、そいつが犯人だったってわけだ」
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