上 下
373 / 581
事例3 正面突破の解放軍【事件篇】

107

しおりを挟む
 まだ話が見えていないであろう尾崎に教えてやると、尾崎は合点がいったかのように手の平を叩く。正直、これは由々しき事態だった。現時点でさえ、システム面に細工をされ、メインとなる出入り口が封鎖されているというのに、さらに電気まで落とされてしまうと目も当てられなくなる。もし電気室が解放軍の支配下におかれてしまったら、ここから脱出することが完全に不可能となってしまうのだ。電気制御がメインのアンダープリズンだからこその弱点である。

「なるほど――。でも、ここの電気の制御くらいなら、わざわざエンジニアを連れてくる必要もないんじゃないっすか? 大きなブレーカーを落とすだけみたいな感覚だろうし、誰にでもできそうっす」

 まだ桜とゴリラは部屋から出てこない。縁達は息を殺したまま、じっと無人の廊下を見つめる。

「確かに、電気室だけに用事があるのならば、桜さんを同行させる必要はありませんね。基本的にそのような部分は、誰にでも扱えるように作られているでしょうから」

 尾崎の言うように、大きなブレーカーを落とすというのは、やや極端な表現になってしまうが、恐らく電気そのものの制御については、専門的な知識がなくとも、誰にでも操作できるように作られているはずだ。この地下において電気は必要不可欠のライフライン。いざとなった時にエンジニアしか扱えないようでは困る。

「まず他にも用事があると考えたほうがいいだろうなぁ。エンジニアを引き連れてんだ。もっとシステムの根幹的な部分に奴らの目的はあるはずだ――」

 坂田がぽつりと呟いた瞬間だった。かすかなノイズが入ったかと思ったら、辺り一帯にチャイムが鳴り響く。終業のチャイムであり、今は楠木達との集合の合図でもある。探索の終盤で桜達を見つけてしまったせいもあるのだろうが、そもそも設定された時間が短いのかもしれない。こんな中途半端なタイミングで離れるわけにはいかないし、どうやら集合には遅れてしまいそうだ。

「……えっ?」

 チャイムが鳴り終わり、桜達が電気室から出てくるのをいまだに待ち続けていた縁は、ある事柄に気付いて思わず声を上げた。

「どうしたっすか?」

 尾崎が問うてくるが、それに被せるようにして、坂田が意味深な言葉を吐く。

「女……お前も気付いたみたいだなぁ。だが、実はおかしくなり始めたのは、もっと前の段階だったりすんだよなぁ。妙だとは思っていたが、何かしらの意味がありそうだ」

 またしても置いてきぼりは尾崎である。その様子から察するに、彼は全く気付いていないようだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:84

伯爵令嬢は執事に狙われている

恋愛 / 完結 24h.ポイント:626pt お気に入り:449

初恋♡リベンジャーズ

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:15

【完結】見えるのは私だけ?〜真実の愛が見えたなら〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:461pt お気に入り:106

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,160pt お気に入り:139

処理中です...