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事例3 正面突破の解放軍【事件篇】

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 階段を上り、第三階層に到着すると、辺りを調べて回った。無力化した解放軍――ゴリラのマスクを被っていた男を放置した階層ということもあり、かなり警戒していたと思うし、神経も過敏になっていたと思う。しかしながら、どこにも解放軍の姿はなかった。拘束したわけではなかったし、目を覚まして仲間達と合流したのかもしれない。周囲に潜んでいるような気配も感じられなかった。

 警戒は解かずに、むしろ万が一のことを念頭に置きつつ辺りを一通り調べ終える。本命は第一階層と第二階層であり、この第三階層はざっと調べて回る程度のつもりだ。楠木達や、それを探しに向かった尾崎が、第三階層に寄る理由はないだろうからだ。彼らがいるのであれば、第一階層か第二階層かのいずれかであろう。

 ――みんな無事だろうか。尾崎達のことを考えると同時に、頭の中に犠牲となった刑務官達の姿がフラッシュバックした時のことだった。先を照らす光の輪の中に人影が見えたような気がした。おかしいなと思った次の瞬間、勢い良く髪の毛を背後から鷲掴みにされた。

「くくくくっ――。これが俺じゃなかったら、お前殺されてたなぁ」

 とりあえず髪の毛を掴んだ手を振り払い、間合いを取ってから振り返る。縁が向けた明かりの中で、坂田がにたりと笑みを浮かべた。影の正体が解放軍ではなかったことに胸をなでおろしつつ、縁は坂田を問い質した。いちいち坂田の悪戯に反応していてはキリがないし、情報収集を優先させたい。すなわち、今知りたいのは、姿を消してから坂田はどこで何をやっていたかだ。どうやら、敵情視察をしていたらしい。

 坂田の話によると、やはり現状は解放軍のほうが有利であり、こちらは明らかに不利とのこと。それを解消するために、解放軍を何人か殺しても構わないか――なんてことを聞かれたが、断固として拒否してやった。

 坂田は仕方がないといった具合に、事態を収束させる現実的な手段を口にする。それは、解放軍を束ねているであろうレジスタンスリーダーを叩くことだ。

 解放軍と対峙した時に抱いた印象。そして、縁より長く解放軍に関わった尾崎の話を統合すると、どうやら解放軍はレジスタンスリーダーを核とする烏合うごうの衆のようだ。レジスタンスリーダーありきの集合体であり、レジスタンスリーダーが抜けてしまったら、途端に何もできなくなる。にわかには信じられないことだが、レジスタンスリーダーを叩くことは、事態を沈静化する鍵になり得るのである。
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