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事例3 正面突破の解放軍【事件篇】

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 しばらく坂田と議論を交わすと、お決まりのスマートにやります宣言が出た。まだ断定ではないのだろうが、彼の中ではある程度の答えが出ているようだ。決定的な証拠はないし、正直なところ想像の域を出てはいないが、縁もおぼろげながら犯人の正体が見えていたのだから。

 とにもかくにもレジスタンスリーダーを叩く。――方針も決まり、さてこれからどうやって動いてやろうと考えていた矢先のことだった。坂田が急に動きを止めて暗闇の向こう側に視線をやった。懐中電灯を坂田の視線のほうに向けてみると他の階層に続く階段が浮かび上がり、ペンライトが照らす明かりの中を一筋の光が横切った。

 横切った光は、きっと他の照明機器のものだろう。角度的に考えると、どうやら光の筋は階上から差し込んだものらしい。反射的に拳銃を構えなおした。片手では心許ないから、ペンライトを持つ手を添える。当然、階段を照らす明かりがブレ、その拍子に何者かの姿が光の中に浮かび上がった。しかもそれは一人だけではない。光がブレた一瞬のことだったが、複数の影が確認できた。

「――誰だっ!」

 その声と共に、こちらに光の筋が一直線に伸びてきた。多分、懐中電灯か何かの光を、こちらに向けたのであろう。眩しくて、思わず目を閉じる。

「くっくっくっくっくっ――。お前ら、お互いにビビりすぎじゃねぇ? 銃口を向けんのは解放軍であって、馬鹿どもで向け合うもんじゃねぇだろう?」

 恐る恐ると目を開け、そして光の向こう側へと目を凝らしてみる。あちらはあちらで、坂田の声を聞いて察してくれたのであろう。銃口を降ろすのが見えた。

「山本、無事だったか――」

 本来ならば、ここにいないはずの声が聞こえた。しかし、それは実に日常的に聞き慣れた声であり、この非現実的な空間にはありがたく思えた。

「――倉科警部、助けに来てくれたんですね」

 縁が真っ先に光の向こうで捉えたのは、倉科の姿だった。安堵の溜め息が漏れた。

「あぁ、無事そうでなによりだ。これでお前達に何かあったら、どうせ俺に責任が押し付けられるんだからな」

 こんな状況なのに――いや、こんな状況だからこそか、やや冗談めいたことを口にする倉科。縁がほっとしたのも束の間、わざわざ縁の照らすペンライトの前に出て来たのは尾崎である。

「縁、勝手に動いちゃ駄目っすよ。詰め所で待っていてくれって言ったじゃないっすか」
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