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事例3 正面突破の解放軍【解決篇】

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 事件という名の迷宮――実は最初から出口が設定されていなかったのだ。いや、正確には出口らしきものは確認できたし、実際に出口から外に出ることもできた。ただし、迷宮の外は真っ暗であり、そこがまだ迷宮の中なのか、それとも外なのかは分からないのだ。外に出た確信はあるが、しかし迷宮から脱することができたとも断定できない。これこそが、この事件の最大の仕掛けだったのだ。

「今さら言い訳なんて男らしくねぇっす。さっき、坂田と対決したかったとか、国に不満がある人間を導いてやったとか言ったじゃねぇっすか――」

 尾崎が会話に割り込むが、しかし中嶋は怯む様子もなく、また悪びれる様子もなく、笑顔を貼り付けた顔で口を動かす。表情があるのに、表情がないように思えて気味が悪かった。

「そんなこと言いましたっけ? 誰か録音でもしていました? あ、ちなみにこちらに断りもなく勝手に録音した場合の音声は、物凄く証拠能力が低いですがね。言った言わないの押し問答なら、好きなだけ付き合ってあげてもいいですけど」

 一時は罪を認めたはずの中嶋ではあるが、しかしどれもこれもが全て状況証拠であり、犯人を断定できる材料は皆無に等しい。つい今しがたの発言を自白であると捉えるにしても、その発言をしたという証拠はない。無許可の録音に証拠能力がないことは、縁だって知っている。結局のところ、中嶋の手の平の上で踊らされているだけなのだ。

「くくくくくくくくくっ――。やっぱり、最初からこっちに勝ち目のねぇ喧嘩を吹っかけてきていやがったのか。揃っているのが状況証拠ばかりなのに、容疑者はこいつを含めて馬鹿みたいにいやがる。しかも、今となってはほとんど全滅。死人に口なしってやつで、死んだ奴から証言を取ることはできない。証言からの立証もできなければ、いよいよ事件は迷宮入りだ。疑わしきは罰せず――そいつを逮捕したところで、結局のところ今の日本の司法制度じゃ立件はできねぇだろうよ。全部、そいつの計算通りなんだろうがな」

 坂田が事件に積極的ではなかった真の理由が、ようやく明らかになった。坂田にはこの結末が見えていたのだ。中嶋は自分が絶対に勝てるゲームに坂田を誘い込もうとした。どの段階だったのかは分からないが、それに勘付いた坂田は一歩下がった地点から事件を眺めるだけにして、口を出すのも最低限に留めていた。負けることが分かっていたから――。どう足掻いても負けることが決まっていたからこそ、坂田は勝負に乗ろうとしなかったのである。その代役こそが縁だったわけだが。
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