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幕間【第三節】

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 あぁ……こんなことなら、もっと早くやっておくべきだった。こんなに――こんなに楽しかったなんて。びゅんびゅんと風を切る音が気持ちいい。それはある種の快楽を伴って、彼女の全身を駆け巡った。頭のてっぺんからつま先まで、余すところなくゾクゾクとする。

 ナースステーションに飛び込み、すぐ近くにいたのっぺらぼうに向かって、アーミーナイフを振り下ろす。心地の良い感触が手から脳へと伝わり、それだけでもエクスタシーに達しそうになる。もう一度、そしてもう一度。夢中になってナイフを振るい、のっぺらぼうの体を切り裂いてやった。その度に、のっぺらぼうの看護師は潰されたカエルのように汚い鳴き声を絞り出す。あまりにも汚い鳴き声だったから、心臓にナイフを突き立ててやった。

「あぁっ! 私が欲しかったの――これっ!」

 ずっと抑え込んでいた感情。それが解き放たれてしまった今、彼女を支配するのは解放感と快楽だけ。ここまで気持ちが良いなんて思ってもみなかった。

 ナイフを引き抜くと、のっぺらぼうは床に倒れて動かなくなった。あの汚い鳴き声も出さなくなった。

 ふと視線を移すと、その一部始終を傍観ぼうかんすることになってしまったほうの看護師が――いや、のっぺらぼうが、固定電話の受話器を上げるところだった。きっと助けを呼ぶつもりだ。快楽に浸っていたい気持ちが強かったのであるが、その中に残っていた冷静な部分のほうが勝った。助けを呼ばれるのはまずい。

 固定電話にかじりつくような格好になっていたのっぺらぼうに向かって、彼女は床を蹴った。周囲の時間がゆっくりと進み、受話器を放り出して逃げ出そうとするターゲットの姿が、まるでストロボを連射したかのごとくコマ送りに見える。もちろん、すぐに追いつくと、のっぺらぼうの髪の毛を後ろから掴んで床に体ごと叩きつけてやった。何かを叫びながら体をよじらせて抵抗されるが、まな板の上で悪足掻きする魚みたいで面白かった。

 のっぺらぼうへと馬乗りになると、ゆっくりアーミーナイフを振り上げ、わざと致命傷にならないであろう部分を狙って振り下ろす。腕や肩――ナイフを突き立てる度に、まるで下から突き上げられているような快感が駆け巡った。のっぺらぼうの汚い鳴き声と一緒に、彼女の口からはみだらで淡い声が漏れる。

「もう駄目……本当に、もう駄目っ!」

 恐らくはとどめを刺したと同時に、とうとう彼女は達してしまった。体中がビリビリと痺れ、体がびくんびくんと震える。あまりの快楽に口の端からよだれが垂れるが、そんなことはどうでも良かった。
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