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事例4 人殺しの人殺し【プロローグ】

事例4 人殺しの人殺し【プロローグ】1

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 それは通り魔的な犯行だったのか。それとも物盗り目的のものだったのか。はたまた、ただの気まぐれなのか。

 どうして良いのか分からずにクローゼットに逃げ込んだ彼女は、ただただ息を潜めて助けを待つ。

 一体、何が起きているのか分からない。パニックを引き起こしてしまった彼女の頭では、現状を理解することができなかった。

 ただ、脳裏に焼き付いてしまった映像が頭から離れない。血にまみれた父、血にまみれた母――何がどうなってそうなってしまったのかは分からないが、うつろな両親の眼差しだけが頭の中にこびりついてしまっている。それだけ彼女にとってショッキングな光景だったのだ。いいや、自分の親が無残に死んでいる姿を見て、平気でいられる人間のほうが珍しいだろう。

 リビングからはテレビの音が聞こえる。そう――だから、ほんの少し前まで、この家はいつも通りの家だったに違いない。ごくごく当たり前の、ごくごくいつも通りの暖かい家庭だったはずだ。それなのに、どうしてこんなことになってしまったのか。

 彼女は自らを守るようにして両腕を抱えた。できる限り小さくなって、脅威が過ぎ行くのを待つ。ズキン――と下腹部が鈍く痛んだ。こんな状況におかれてしまっているから、精神的なところから来る痛みなのかもしれない。

 テレビではニュースが流れているようだ。その内容は、世の中を恐怖のどん底に突き落としている殺人鬼のニュースだった。同じ手口で多くの人間が殺されているのに、その実態が全く掴めていないという、実に恐ろしい殺人鬼。マスコミなどがはやし立てたり、憶測や推測が飛び交ったりはしているが、犠牲者が増えるばかりで解決の気配はない。

 またしてもフラッシュバック。ついさっき見たばかりのものなのに、フラッシュバックという表現はおかしいのかもしれない。でも、はっきりと見えたのだ。両親の腕に刻まれた数字を――。

 ナンバリングキラー。今、ちまたを騒がせている殺人鬼は、必ず遺体のどこかに数字を刻む。その数字は犠牲者が出る度に増える。つまりは、何人目に殺害したのか分かるようにつけている目印――というのが、テレビなどに出演している専門家の意見だ。

 いつもと同じようにベッドに入ったはずなのに、目が覚めたらまだ朝ではなくて、しかし日常が非日常へと姿を変えていた。明かりの灯ったリビングで、両親が生き絶えているのを見た時は、何かの冗談ではないかと思った。
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