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事例4 人殺しの人殺し【事件篇①】

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 警備員の配置と監視カメラ――。セキュリティがしっかりとしている警察病院で四人もの人間が殺害された。現場が警察病院で、しかも殺人蜂の殺害を目的にしていたなど、まるで警察に喧嘩を売っているようにしか思えない。

「殺人蜂の事件に絞って、現状で分かっていることを教えてくれ」

 犯人の目的がいまいち分からない。なにゆえに警察病院にまで乗り込み、警備員と看護師の命を奪ってまで、犯人は殺人蜂を殺害しなければならなかったのか。それを紐解くには、とにかく情報だ。ささいなことでも構わないから情報が欲しい。

「えぇ、それでは殺人蜂の死因から。殺人蜂も警備員や看護師と同じように、ショック性の失血死だと思われます。ただ、他の被害者の遺体と明らかに異なる点があるんです」

 部下が手帳を片手に言うが、どうやら現場となった病室はすぐそこのようだ。ナースステーションの慌ただしさを通り過ぎると、今度は廊下の向こう側から慌ただしさの気配がする。部下は「実際に遺体を見て貰ったほうが早いかもしれません」とだけ呟き落とした。やはり、遺体の運び出しは間に合っていないらしい。

 部下に案内されずとも、現場となった病室はすぐに分かった。捜査員が慌ただしく出入りしていたし、立ち入り禁止を意味するテープも貼ってある。そして何よりも、現場となった病室からは、邪悪なものが流れ出していた。これが、犯人の残り香のようなものだったとしたら、犯人はどんな邪気を抱きながら犯行にいたったのであろうか。

 倉科達と入れ替わりに、捜査にあたっていたであろう捜査員が出払う。恐らく他の現場へと向かったのだろう。捜査本部は立ち上がっているだろうが、しかし初動捜査の段階で、上手く指揮系統が働いていないのだと思われる。ゆえに、どの現場をどの管轄が担当するかの振り分けが上手くできておらず、現場の刑事はとりあえず全ての現場を回るしかないのだ。もう少しすれば、それぞれの住み分けがしっかりするはずである。

 病室にはベッドがひとつ。実に殺風景だった。ただし、ベッドには青いビニールシートが被せられ、そのビニールシートの下に人の形がくっきりと浮き上がっている。何よりも、ベッドを中心に天井にまで飛び散った血痕が、その凄まじさを物語っていた。

 他の捜査員が出払ってくれたから、現場には倉科と部下だけである。しばらくすれば、また他の捜査員が出入りをくり返すのであろうが、とりあえず、ゆっくりと殺人蜂との再会を果たせそうだ。
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