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事例4 人殺しの人殺し【事件篇②】

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 神座の街に到着すると、いつものパーキングのお決まりの場所に車を停める。倉科自身はいたって冷静なつもりであったが、しかし内心では動揺していたのであろうし、ストレスも感じていたのであろう。煙草の本数がいつもより明らかに多くなっていた。

 季節も季節であるし、日も随分と長くはなった。それでも、ゆるやかに朝から昼、昼から夜へと移ろい変わる。そう言えば、腹が減ったな――なんて思い出しつつ神座の街へ。

 まだ日が落ちていないこともあって、神座の町も静かである。そのせいか、街頭に備え付けられているテレビの音が、やけに辺りに響いていたような気がした。

 倉科は立ち止まって、ふとテレビのほうに視線を移す。昼から夕方までぶっ通しで放送している情報番組が放送されていた。いつもならば【元警視庁捜査一課警部】なんて偉そうな肩書きのゲストが招かれ、警察病院で起きてしまったセンセーショナルな事件を報じているのであろう。しかし、今回は全く別の事件のことが報じられていた。もしかすると、遥かお上さんから圧力がかかったのかもしれない。アンダープリズンでの不祥事が片付いたばかりなのに、今度は警察病院での不祥事だ。箝口令かんこうれいが出されても不思議ではない。

 倉科は小さく鼻で笑うと、街頭テレビから離れてアンダープリズンへと向かった。いつも通りの場所から地下へともぐり、いつも通りの手順を経てエレベーターから鉄扉の中へと入った。

「今日は坂田と面会したいんだが、お願いできるか?」

 いつもの場所に立っている楠木へと声をかける。

「人手が足りないから、俺が途中まで同行することになる。それで構わないか?」

 楠木の返答を聞いて、なんだか少しだけやるせない思いになった。坂田のところまで同行するのは――いつも中嶋の仕事だった。しかし、その中嶋はもうこの世にいない。レジスタンスリーダーとして、とんでもない事件を巻き起こしてしまった凶悪犯ではあるが、しかし死んだことを喜べるほど、倉科も薄情ではなかった。

「嫌だと言っても、若い女の子が出てくることはないんだろう?」

 何とも言えぬ気持ちを払拭すべく冗談を言うと、楠木は苦笑いを浮かべる。

「あぁ、嫌と言ったところで、同行するのは俺だ。そういうサービスをお求めなら、この施設を出てすぐ近くのお店へどうぞ」

 冗談を冗談で返され、やや場が和んだところで「あそこは店長が食わせもんだからな」とぼやく倉科。
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