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最終章 お悔やみ様と僕らの絆
第十七話
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現実感を伴わぬ目眩と共に病院へと向かった。否応に頭の中へと、娘との記憶が蘇った。赤ん坊の頃は誰にでも愛想よく笑う子で、本当に優しい子に育ってくれたと思う。両親の離婚という悲劇はあったものの、これからだったというのに、どうして娘が――よりによって娘が死なねばならなかったのだろう。
病院の霊安室で、冷たくなった娘との再会を果たした。白い布を顔に被せられた娘の姿は、どこか現実とは違う場所に安置されているように思えた。嘘であって欲しいと思いながらも顔を確認するが、しかしそこにあったのは間違いなく娘の顔だった。声も出さずに梢は泣き崩れた。
警察から無神経な事情聴取を受けた。あちらだって仕事でやっていることは分かっていたつもりだが、根掘り葉掘りと様々なことを聞かれ、それを調書のようなものに書き写されるのは苦痛だった。娘の人生を、そんな紙切れひとつで済ませて欲しくなかった。
遺書はなかったものの、現場の状況から自殺だろうと警察が判断を下したのは、その翌日のことだった。食事をしたのか、少しでも眠ったのか――そんなことさえ自分でも分からないほど憔悴していた梢は、ようやく娘が自分の元へと帰ってくるという事実だけを覚えている。
お寺さんにお願いして、通夜を行った。学校の先生方も駆けつけてくれた。初七日までしっかりとお休みを頂けることになり、梢は申し訳ないと思いながも感謝した記憶がある。
通夜が終わり、葬儀の段取りをお寺さんと立てた。離婚が成立して別姓になっていようが、喪主を務めることができるのは梢しかいなかった。今にも倒れてしまいそうな精神状態でありながらも、なんとか気力を振り絞って、娘を送り出す準備を進めた。
当日は娘のクラスメイト達――すなわち、自分が受け持っているクラスの生徒達が参列してくれた。せめて、生徒達がいる間だけでも教師の顔を保とうと思ったが駄目だった。特に娘の幼馴染である三人の顔を見たら、これまでのことが一気に込み上げてしまい、不覚ながらにも泣いてしまった。
霊柩車がクラックションを鳴らして火葬場へと向かう。それを見送るクラスメイト達は何を思ったのであろうか。
娘のスマートフォンは棺の中にでも入れてやろうと考えていた。しかし、寸前になって思いとどまった。警察から返ってきたということは、大した情報は残されていないのだろうが、娘が自ら命を絶った理由などが見つかるかもしれない。どこか冷静な自分がそうささやいたのだった。
病院の霊安室で、冷たくなった娘との再会を果たした。白い布を顔に被せられた娘の姿は、どこか現実とは違う場所に安置されているように思えた。嘘であって欲しいと思いながらも顔を確認するが、しかしそこにあったのは間違いなく娘の顔だった。声も出さずに梢は泣き崩れた。
警察から無神経な事情聴取を受けた。あちらだって仕事でやっていることは分かっていたつもりだが、根掘り葉掘りと様々なことを聞かれ、それを調書のようなものに書き写されるのは苦痛だった。娘の人生を、そんな紙切れひとつで済ませて欲しくなかった。
遺書はなかったものの、現場の状況から自殺だろうと警察が判断を下したのは、その翌日のことだった。食事をしたのか、少しでも眠ったのか――そんなことさえ自分でも分からないほど憔悴していた梢は、ようやく娘が自分の元へと帰ってくるという事実だけを覚えている。
お寺さんにお願いして、通夜を行った。学校の先生方も駆けつけてくれた。初七日までしっかりとお休みを頂けることになり、梢は申し訳ないと思いながも感謝した記憶がある。
通夜が終わり、葬儀の段取りをお寺さんと立てた。離婚が成立して別姓になっていようが、喪主を務めることができるのは梢しかいなかった。今にも倒れてしまいそうな精神状態でありながらも、なんとか気力を振り絞って、娘を送り出す準備を進めた。
当日は娘のクラスメイト達――すなわち、自分が受け持っているクラスの生徒達が参列してくれた。せめて、生徒達がいる間だけでも教師の顔を保とうと思ったが駄目だった。特に娘の幼馴染である三人の顔を見たら、これまでのことが一気に込み上げてしまい、不覚ながらにも泣いてしまった。
霊柩車がクラックションを鳴らして火葬場へと向かう。それを見送るクラスメイト達は何を思ったのであろうか。
娘のスマートフォンは棺の中にでも入れてやろうと考えていた。しかし、寸前になって思いとどまった。警察から返ってきたということは、大した情報は残されていないのだろうが、娘が自ら命を絶った理由などが見つかるかもしれない。どこか冷静な自分がそうささやいたのだった。
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