猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定1 家族記念日と歪んだ愛憎【解答編】

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「被害者が日記を書き始めた時に16歳の誕生日を迎えた最愛の娘は、現在44歳になっているはずです。そして、3人の娘の中で44歳なのはたった1人だけ――」

 全ての整合性を保ちつつ導き出される答えはひとつだけ。小柄な女子高生の言葉ひとつひとつが妙な説得力に満ちていた。

「最愛の娘でありながら被害者を殺害したのは……長女である柊子さんです」

 これが家族記念日に関する日記の答え。彼女が査定した、いわくの答えなのだ。最初から答えはしっかりと目の前にあって、日記が4年周期で書かれていたことを見抜くことができれば、簡単に解決した問題だった。

「これは私の勝手な想像ですが、きっと被害者は柊子さんに前妻の面影を見て、愛してしまったのだ思われます。それは実に歪んだ愛情であり、被害者が気づかないうちに最愛の娘の憎しみを増幅させたのではないでしょうか? 娘の縁談を駄目にしたのも、きっと被害者が最愛の娘に対して、本来ならば抱いてはならない愛情を抱いてしまったからなのだと思います」

 長女の柊子は縁談を破談に持ち込まれており、それが動機として挙げられていた。けれども、どうやらその根底には闇がもっと根深く張り巡らされていたようだ。

「歪んだ愛情は時として憎悪を生む。その憎悪に被害者は殺されてしまった――ということですか」

 こちらから品物を持ち込んでおいといて申しわけないが、彼女の仕事はここまでだ。後は警察の仕事になるだろう。また彼女の鑑識眼のおかげで、ひとつの難事件が解決に向かおうとしていた。

「親の歪んだ愛情に反発した憎悪。娘による親殺し。全てが異母姉妹となる3姉妹と、それを独善的に支配しようとした身勝手な男の哀れな末路。愛情を取り違えてしまったいびつな家族にまつわるいわく――実に貴重なものだと思われます」

 千早はそこで言葉を区切ると、カウンターの下から伝票をつづったものを取り出した。伝票を切り取り、そこに万年筆を走らせると、おそらく複写になっているであろう伝票の1枚目を班目に差し出してきた。

「このお値段で買い取ります。いかがいたしますか?」

 千早の差し出した伝票には、実に達筆で【金捨萬じゅうまん円也】と書かれていた。どうやら班目の持ち込んだ日記帳は、そのいわくと一緒に10万円で買い取ってくれるらしい。ただ――これはある種の建前のようなもの。班目は勝手に持ち出した証拠品である日記帳を売るつもりはないし、千早もそれを分かった上で査定をしたのだ。ここからはちょっとばかりビジネスライクな話になる。
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