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金木犀前線
お酒の耐性
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――スマホの着信音が鳴った。僕は香水斗の手を振り払い、スマホの画面を見る。画面を見れば、パッケージデザイン担当の峰岡さんだった。僕はスマホの画面をタップして電話に出る。
「もしもし、志野くん?」
「はい、そうですけど」
「香水斗くんと作っていた金木犀前線あったでしょ。あれがね、商品化することになったの……!」
峰岡さんは食い入るように早口で喋った。僕は一瞬理解できなくて、固まってしまった。
「だからね、金木犀前線の商品化が決まったのよ…!」
峰岡さんは僕が理解するまで繰り返し言葉を紡いだ。
「え! ほんとですか?!」
「本当よ~!! 私ね、志野くんのこと心配してたのよ。アロマティック部門の人たちに何か言われてないかって……その藤さんのこともあったしね。でも、これで志野くんも立派なアロマティック部門ね!」
未だに心の中がふわふわとしている。実感がまるで湧かない。香水斗の力も借りたけど、自分で作った香水が商品化するなんて夢のようだった。
「あ、ありがとうございます……」
「本当におめでとう! 香水斗くんにもよろしく伝えといてね」
「あ、はい……」
僕は通和を切る。スマホを持っている手は少し震えていた。顔を上げると香水斗と目が合う。
「どうしたんだ?」
「き、金木犀前線の商品化が決まったって……」
僕の声も峰岡さんと同じように上擦っている。語尾はかなり声が震えていた。
「やったな」
香水斗は僕の頭を優しく撫でた。
「うん、嬉しいや……」
「頑張ったもんな」
「うん……」
人生でこんなにも嬉しいことなんてない。毎日寝る間も惜しんで頑張ったからこそ得られる感情。僕にとって金木犀の香りはさらに思い出深いものになった。もう、一生忘れられない香水だ。
「お祝いにワインでも飲むか?」
香水斗は僕をまだ引き留めようとしてくる。このまま自宅に帰っても、一人で空しくお祝いをするだけになりそうだった。だから、今日だけは自分勝手な香水斗の言う通りにしてやる。
「一番高いやつにしろよ」
僕は香水斗の前を歩く。どこにワインが貯蔵されているか知らないが、目に映るもの全てが新鮮だった。見たことがない最新の家電や家具は見ていて飽きない。
「志野に味の違いがわかるか? 豚に真珠で終わらなければいいが」
香水斗は僕の肩を持ち、ソファーへと誘導される。おとなしく座っていろ、ということか。
「は? 高い味ぐらいわかるし」
僕はソファーに座り、香水斗を見上げる。ソファーの沈み込みは気持ちがよかった。
「そうか、それは楽しみだな」
「あんま、アルコール高いのはなしな」
酔って迷惑はかけられない。最近は紅茶にハマっていたからか、お酒の耐性は弱くなっているはずだ。
「もしもし、志野くん?」
「はい、そうですけど」
「香水斗くんと作っていた金木犀前線あったでしょ。あれがね、商品化することになったの……!」
峰岡さんは食い入るように早口で喋った。僕は一瞬理解できなくて、固まってしまった。
「だからね、金木犀前線の商品化が決まったのよ…!」
峰岡さんは僕が理解するまで繰り返し言葉を紡いだ。
「え! ほんとですか?!」
「本当よ~!! 私ね、志野くんのこと心配してたのよ。アロマティック部門の人たちに何か言われてないかって……その藤さんのこともあったしね。でも、これで志野くんも立派なアロマティック部門ね!」
未だに心の中がふわふわとしている。実感がまるで湧かない。香水斗の力も借りたけど、自分で作った香水が商品化するなんて夢のようだった。
「あ、ありがとうございます……」
「本当におめでとう! 香水斗くんにもよろしく伝えといてね」
「あ、はい……」
僕は通和を切る。スマホを持っている手は少し震えていた。顔を上げると香水斗と目が合う。
「どうしたんだ?」
「き、金木犀前線の商品化が決まったって……」
僕の声も峰岡さんと同じように上擦っている。語尾はかなり声が震えていた。
「やったな」
香水斗は僕の頭を優しく撫でた。
「うん、嬉しいや……」
「頑張ったもんな」
「うん……」
人生でこんなにも嬉しいことなんてない。毎日寝る間も惜しんで頑張ったからこそ得られる感情。僕にとって金木犀の香りはさらに思い出深いものになった。もう、一生忘れられない香水だ。
「お祝いにワインでも飲むか?」
香水斗は僕をまだ引き留めようとしてくる。このまま自宅に帰っても、一人で空しくお祝いをするだけになりそうだった。だから、今日だけは自分勝手な香水斗の言う通りにしてやる。
「一番高いやつにしろよ」
僕は香水斗の前を歩く。どこにワインが貯蔵されているか知らないが、目に映るもの全てが新鮮だった。見たことがない最新の家電や家具は見ていて飽きない。
「志野に味の違いがわかるか? 豚に真珠で終わらなければいいが」
香水斗は僕の肩を持ち、ソファーへと誘導される。おとなしく座っていろ、ということか。
「は? 高い味ぐらいわかるし」
僕はソファーに座り、香水斗を見上げる。ソファーの沈み込みは気持ちがよかった。
「そうか、それは楽しみだな」
「あんま、アルコール高いのはなしな」
酔って迷惑はかけられない。最近は紅茶にハマっていたからか、お酒の耐性は弱くなっているはずだ。
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