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第3章
第6話(特発性血小板減少性紫斑病)
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それから3日後、桜空は流産手術を受けた。静脈麻酔をしてもらったので手術のときのことは覚えていない。手術後、病室に戻ったときに気がついた。看護師が点滴をした反対側の腕で血圧を測っている。生理痛よりも強い痛みがときどきある。痛みのためだけでない大きな喪失感で、桜空の目から涙が溢れていた。遠夢は黙って桜空の手を固く握り締めていた。
2週間後に二人はセンターを訪れた。流産後の出血が長引いている。絨毛染色体検査の結果は、『数的異常や構造異常 もなく、受精卵の染色体は正常』と言うことであった。このため桜空は、自分に流産原因があると思い不育症検査を受けることにした。
桜空の抗リン脂質抗体検査の結果は陽性だった。
抗リン脂質抗体陽性症候群は、絨毛で血栓をきたし流産原因になることもあり、妊娠初期や妊娠前から血栓防止をはかるアスピリン療法やヘパリン療法が行うことがある。
さらに桜空は血小板が減少しており、特発性血小板減少性紫斑病ITPもみつかった。
特発性血小板減少性紫斑病は、血小板が減少する病気で、原因は不明だが免疫系の乱れで抗血小板抗体が増加して起こると考えられている。紫斑や出血傾向がでる病気で、流産後の出血が長引いていることも関係があった。
いまの桜空は比較的落ち着いており、普段の生活に制限があるわけではない。でも、血小板が極端に減った場合には、出血傾向が問題になり血小板輸血が必要になることもある。妊娠した場合に増悪する傾向があり、とくに分娩の際に問題となる。
特発性血小板減少性紫斑病は、母体だけでなく胎児にとっても大きなリスクがある。母体で造られた抗血小板抗体は胎盤を経て胎児にも移行する可能性があるからだ。分娩時に児頭は強い圧迫を受ける。胎児の血小板が減少しているとしたら頭蓋内出血などのリスクが大きい。これを避けようと帝王切開分娩を考えると、こんどは母体の出血リスクが問題になる。
桜空は『自分はどうなっても良いので帝王切開してもらう』と考えていた。遠夢は『桜空の安全が一番』としか考えられなかった。
【脚注】
構造異常:相互転座やロバートソン転座や逆位など染色体の構造の異常。こうした構造異常は偶発的にも起こるが、カップルのいずれかに染色体構造異常があると配偶子が造られるときに構造異常が発生する頻度が高くなる
不育症:2回連続して自然流産すること。全妊娠の4% 程度で発生する。3回以上繰り返す場合は習慣流産と言うが、全妊娠の1%程度で発生すると考えられる。連続した流産では、偶発的な染色体異常の確率は低くなっているので、染色体異常のほかに流産原因がないか調べることが推奨される
抗リン脂質抗体検査:抗カルジオリピンIgG抗体やβ2GP1などを採血して調べる
抗リン脂質抗体陽性症候群:絨毛内で血栓を生じ、これが流産の原因になっていることがある
特発性血小板減少性紫斑病ITP:原因不明であるが血小板が減少して出血傾向や紫斑などの症状がでる病態
血小板:出血を止めるために必要な血液成分
抗血小板抗体:血小板の破壊などを引き起こし血小板を減少させる
血小板輸血:血液成分から血小板のみを抽出して輸血する治療
2週間後に二人はセンターを訪れた。流産後の出血が長引いている。絨毛染色体検査の結果は、『数的異常や構造異常 もなく、受精卵の染色体は正常』と言うことであった。このため桜空は、自分に流産原因があると思い不育症検査を受けることにした。
桜空の抗リン脂質抗体検査の結果は陽性だった。
抗リン脂質抗体陽性症候群は、絨毛で血栓をきたし流産原因になることもあり、妊娠初期や妊娠前から血栓防止をはかるアスピリン療法やヘパリン療法が行うことがある。
さらに桜空は血小板が減少しており、特発性血小板減少性紫斑病ITPもみつかった。
特発性血小板減少性紫斑病は、血小板が減少する病気で、原因は不明だが免疫系の乱れで抗血小板抗体が増加して起こると考えられている。紫斑や出血傾向がでる病気で、流産後の出血が長引いていることも関係があった。
いまの桜空は比較的落ち着いており、普段の生活に制限があるわけではない。でも、血小板が極端に減った場合には、出血傾向が問題になり血小板輸血が必要になることもある。妊娠した場合に増悪する傾向があり、とくに分娩の際に問題となる。
特発性血小板減少性紫斑病は、母体だけでなく胎児にとっても大きなリスクがある。母体で造られた抗血小板抗体は胎盤を経て胎児にも移行する可能性があるからだ。分娩時に児頭は強い圧迫を受ける。胎児の血小板が減少しているとしたら頭蓋内出血などのリスクが大きい。これを避けようと帝王切開分娩を考えると、こんどは母体の出血リスクが問題になる。
桜空は『自分はどうなっても良いので帝王切開してもらう』と考えていた。遠夢は『桜空の安全が一番』としか考えられなかった。
【脚注】
構造異常:相互転座やロバートソン転座や逆位など染色体の構造の異常。こうした構造異常は偶発的にも起こるが、カップルのいずれかに染色体構造異常があると配偶子が造られるときに構造異常が発生する頻度が高くなる
不育症:2回連続して自然流産すること。全妊娠の4% 程度で発生する。3回以上繰り返す場合は習慣流産と言うが、全妊娠の1%程度で発生すると考えられる。連続した流産では、偶発的な染色体異常の確率は低くなっているので、染色体異常のほかに流産原因がないか調べることが推奨される
抗リン脂質抗体検査:抗カルジオリピンIgG抗体やβ2GP1などを採血して調べる
抗リン脂質抗体陽性症候群:絨毛内で血栓を生じ、これが流産の原因になっていることがある
特発性血小板減少性紫斑病ITP:原因不明であるが血小板が減少して出血傾向や紫斑などの症状がでる病態
血小板:出血を止めるために必要な血液成分
抗血小板抗体:血小板の破壊などを引き起こし血小板を減少させる
血小板輸血:血液成分から血小板のみを抽出して輸血する治療
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