【完結】悪役令嬢ライザと悪役令息の婚約者

マロン株式

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第3章学園入学

悪役令嬢になった理由 

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 悪役令嬢ライザとなった時、ぼんやりと考えていたことがある。私は前世の咎を裁かれる為に、この世界にライザとして生まれてきたのかも知れないと。

 心のどこかで、裁かれることを望んでいたのかも知れない。だから、自らの意思でライザとして生まれたのだろうかと。

 
 私は前世、放火で母を亡くしてからと言うものたまに、あの日の夢を見たーー…。


 ずっと、忘れられない。


 炎の中で、ドア1枚を挟んだ先には母が生きていた。

 駆けつけた消防士は、私の救出を優先させて、私を抱えて外に出た────・。

 その後崩れた建物を見て、誰もがー…子供であった私でも、あの瞬間、母の死を悟った。


 何年もそのことを忘れられなかった。
 
 だけど、誰もが何かを抱えて生きているものだと思って、いつも片隅に罪悪感を抱きながらも、日常の中に楽しいことや喜びも見つけて、今手にしている自分の小さな幸せを守る為に、日々を過ごしていた。

 ある時、伯母が仮釈放されたことを知った。加害者が釈放されるか否かは、遺族の気持ちも反映されると言うが、被害者である母の為に反発してくれる親族はいなかった。

 莫大な借金を残して死んだ、迷惑な親族のことなど、胸を痛めるのはその娘である私くらいだ。

 だけど、私は伯母のことを苦しめたいとも思っておらず、人生をやり直すなら勝手にして欲しいと言う気持ちだけが浮かんだ。

 もう2度と関わらないだろう人に、これ以上心を乱されるのも嫌だったから。忘れたかったのだ。

 母を差し置いて生き残ってしまった罪悪感も含めて、忘れようとしていた。


 ─────・だから、あれは偶然だった。
 

 


 伯母を見かけたのは、本当に偶然で。

 新しい支店に赴任して暫くしたとき、営業先の社長宅で伯母を見かけた。

 彼女は人生をやり直して、その家の義母として幼い子供に囲まれ、幸せそうに笑っていた。

 その腕には、本当の自分の子供を抱えていた。  
 放火殺人と言うとんでも無い罪を犯したこの人。物語ではきっと幸せになれるはずもない人。


ーーだけど現実は、生きてさえいれば、こうして幸せになれるのだと


 …ーー私は、初めて知った。



 伯母は社長宅ですれ違っても、成長した私に、ちっとも気付かない様子だった。

 社長宅に向かうときは憂鬱で、気分転換に公園で休憩をしてから向かうことにしていた。

 その時、高校生の制服を着た男の子が私に話しかけてくるようになっていた。


「どうして、お姉さんは恋愛しないの?」
「興味がないのよ」


 嘘だった。 
 恋愛には興味があって、勧められた恋愛シミュレーションゲームだってやりこんでいる。

 だけど私は現実で大切な人を作ることが怖かった。私が大切にしていた人は皆、私の前から居なくなるから。


「お姉さんをこの間知り合いの家の前で見かけたよ。
あの家って、電光物産の社長の自宅でしょ?
いつもこの公園に来るのは、あの社長宅に行くの嫌だったから?」
「…そうね」


 別に隠すことも無いと思っていたから、私は素直に頷いた。
 それから、好奇心旺盛に質問してくる男子高校生に、素直に答えていたのは、関係の無い誰かにこの胸の内にあるモヤモヤを打ち明けたらスッキりするんじゃ無いだろうかと思えたから。


 でも、やはりと言うか。


 モヤモヤは、消えてはくれなかった。

 
 

♢♢♢




 ーーある時、私はいつも通りにその社長宅を訪れた。けれども、約束した時間なのに、チャイムを押しても誰も出てこない。

「待ってたよ」

 その時、普段は公園でしか会わない高校生の男の子が、私に話しかけてきた。


「お姉さん、今日が誕生日だって言ってたでしょ?だから、頑張ってプレゼントを用意していたんだ」


 そう彼が言った時ー…家の中で何かが破裂する音がして、同時に赤子の鳴き声が聞こえてきた。

 私は、開いたドアを開けて中へと入った。

 赤子の泣き声がしている方向にかけてゆくと、そこには絨毯が燃えて火の手が広がってゆく最中で、部屋の中心では家族5人が横たわっている。

 そこには、社長と、伯母と子供達…そして、唯一目を覚ました伯母に抱えられていた赤子がいた。   

 ーーなんで。

ーーなんで、誰もこの状況で目を覚まさないの?
  
 どうして、目の前の火に、私の足は縫い付けられたように動かないの?

 助けてと泣き叫ぶ赤子の声は耳の中に届いて、手を伸ばそうとしたその瞬間ー…、頭に浮かんだのは。

 炎の中に消えて行くお母さんの、笑顔だった。


 静止して、立ちすくんでいた私の目の前で

 火は、家族達の足元から徐々に勢いをつけて、その身を包んでいこうとしていた。



「……ーー」
 

 
 手を伸ばせば、赤子だけでも。助けられる。水を持って来れば、まだ火を消すことができるかも知れない。


 周りの家の人達に協力を仰げば、この家族達は火傷で済むかもしれない。


 ─────・なのに。身体が震えて動かなかった。

 強い吐き気がして、膝をついた。そんな私の後ろで、彼は心配そうに声をかけてくる。

「お姉さん。
此処でそうやっていたら死んじゃうよ。いいの?お母さんを犠牲にして生きてきたのに。
お母さんを殺した人を、本当に助けたいの?
本当に、それで良いの?」


 それからの記憶は、ハッキリしていない。
 
 完全に炎に包まれたその人達をただ見ていた私は、目前まで勢いを増した炎から弾き出された燃え滓が、頬についた刹那ー…意識を取り戻した。そして。

 ー・気付けば、その場から逃げていた。




 後日。
 社長宅はタバコの火の不始末で一家全員が死んでしまったと知らされた。
 5人の焼死体に不自然な点は無いと報道されていた。

 偶然、昼間から家族が揃って昼寝をしていたと言うのだが、そんなことがあるのだろうか。そこに疑問を持つ人は、誰もいなかった。

 怖くなった私は、公園に張り込んで、あの高校生に詰め寄った。
 
「なんで、あんなことをしたの?あれは、事故じゃない。貴方がやったことなんでしょ?私が貴方にお母さんの話をしてしまったから?
ーーねぇ、もしそうだったとしたら、今からでも良い。警察に自首をして」
「そんなこと言ってさ、お姉さんは彼らが燃えていくのを見ていたじゃ無いか。〝ざまぁみろ〟って」
「そんなこと「本当に全く思わなかった?」


 そう言って小首を傾げて上目遣いで私を覗き込もうとしてくる目から、視線を逸らした。

「…っ私は、火に近寄れないの。だからっっ」 


「でも、助けも呼ばなかった。助けられた命をさ。助けようとはしなかった。それって、人を殺してるのも同じだよね?

ほら、あるでしょ?そう言う言葉。

人はそれを、〝見殺しにした〟って言うじゃん」


「見殺し…?」

 違うの、本当に。私は近寄れなくて。

「あれってさぁ。

人殺しの一種だよね?

あの家族は死ねば良いと、お姉さんに明確な殺意があったからそうしたんでしょ?
ねぇ、理性で殺意それを堪えていた可哀想なお姉さんの為に、俺がやってあげたんだけど感謝してくれないの?」

 

 ーー彼は、私が心の奥底で抱えていたモヤモヤを解消したのだと言う。


 怒りたかったのに、それは見当違いな言葉ではないと分かったから。余計に私の心は動揺した。


 私は確かに、彼らの不幸を願っていたから。ーー人を殺すと言う罪を犯した人を、愛する人も、愛している人も、私にとっては同罪で赦せないと思っていた。

 

「俺を動かしたのは、お姉さんだよ。だって、あまりにも生き辛そうにしてるからさぁ。
ほら、俺って気が利いて親切だって人から言われるって話たでしょ?
俺って気に入った人の為なら、なんでも叶えてあげたくなるんだ。お姉さんが嬉しいなら、俺も嬉しい」
 

 彼の声に、咄嗟に耳を塞いでも遅かった。

 明確にそこにあった事実は

 ───・殺意を持って、罪の無い赤子すらも見殺しにしたと言う、紛れもない

 私の罪だった。







 
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