【完結】年下王子のお嫁様 

マロン株式

文字の大きさ
25 / 56

そしてヒロインはフラグを回収してしまう1

しおりを挟む

 小説のヒロインであるユリシアは、貸し切られた店舗の裏口から飛び出してゆく。

 その出口には引き止める者が誰もいない事を知っていたからだ。

 動きやすい衣服である為、ただ夢中になり延々と全力で走った。

 マーガレットの言葉が、自分のやった事の愚かさを説明しているみたいでショックで恥ずかしくて、自分に失望した。

 まさか自分の行動が、辺境伯とマーガレットの出会いを後押ししていると思わなかった。

 

(小説の筋書きに逆らおうとすればする程ドツボにハマる…。)

(しかも、ヴォーレンは自分からマーガレット様に声をかける。これじゃあ私がマーガレット様に、〝ヴォーレンに話しかけないで、近づかないで〟と言っても無駄だ。

話しかけて近づいてるのはヴォーレンなんだから。)


「ぅっ。ぅう…」
   

(何で、何で私じゃダメなの。ヴォーレン…)


  途中からトボトボ道を歩きながら涙の溢れ出る目を擦る。擦っても擦っても、それは次々溢れ出した。



 そんなユリシアの前に、人影が出来て足を止めた。


「お嬢ちゃん、泣いているのかい?大丈夫?」


  顔を上げると、ひょろ長の感じ良さそうな男の人がニコニコしながら話しかけてきた。
 見たところ多分この辺りに住う平民だ。私が子供に見える事や、身なりがマーガレット様の気楽にしたいとの希望からドレスでは無く、動きやすい衣服だ。

 お育ちの良い子共と認識されているのはわかる。


「こう見えても、私、成人しているのよ。だからお嬢ちゃんじゃないわ。」


 生意気だと分かりながらも、子供扱いは今1番して欲しくなかったこともありフンっと鼻を鳴らして応えた。


「それは失礼したね。連れの人は?
まさかお嬢さん1人かい?」

「つ、連れとは逸れたのよ。直ぐに戻れば…」


 周りを見回すと、ユリシアの知らない景色が広がっている。

(あれ…途中角とか曲がったかな?)

「帰り道わからないのかい?」

「……。」

「俺の仕事場が近くだから地図をやるよ。どうする?」

「ほんと!?」
 
(よかったぁ!ラッキー!)

  前世日本人であり、今世、世間知らずの令嬢。現在子共よりに見える容姿である自覚の薄いユリシアは、そのまま男について行った。
  
 実際電子機器の発達していないこの世界で迷子は難儀をする。地図さえあれば帰れると思ったのだ。

ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 

 男の雰囲気は優しげだったし、弱々しそうだったので安心しながらただ後をついて来たユリシアだったが、人気のない路地裏を進むにつれて少し不安になってきた。

 不安気に辺りを見渡しているユリシアに、ひょろ男は声をかけた。

「すまないね、工場この先だから。」

 そう謝られると、少し安堵する。

「いえ…。」

 (こんな狭いところ、入った事ないなぁ。埃っぽくてなんかやだぁ…)

「着いたよ。どうぞ入って。」

 戸を開けてそう促された。

 流石に中に入るのは気が引けてしまう。

 それなりに大きな建物だけど、工場とは思えない。仕事場をそう呼んでるだけかも知れないけれど。

「あの、こ…此処で待ってたらだめですか?」

 そう尋ねると、男のニコニコと細められていた目が開いて言った。

「俺に地図とってこいって?」

 ドン。と背中を押されて戸の内側に倒れこむ。

 急な事の恐怖で、声を上げずにひょろ男から距離を取る為、直ぐ立ち上がり走った。

(ま、窓から…っ)

   ユリシアが出口を探そうとしていると、次は違う男が3人出てくる。


「おお?何か可愛らしいの連れてきたじゃん。」

「良いとこのお嬢ちゃんじゃないのぉー?ちっ、でもまだ子供かぁ。あと数年後がよかったなぁ。」


 みるみるうちに顔が青ざめていく。
 ユリシアの逃げ道を閉ざすように囲われて、壁際に追い詰められると、掴みかかられた。

 「いやぁぁぁぁぁ…モガッ」


  大きい声で助けを呼ぼうとするも、手で口を塞がれて、布を口に押し込められ、首元にはナイフを突きつけられる。

(怖い、怖い、怖い、何されるの?怖いよ。何でこの人達こんな事するの?)


 経験した事のない恐怖に襲われる最中、思い出したのは先日、暴漢に襲われる筋書きのマーガレットを考えた事。

『今のマーガレットなんか特にそのくらい痛い目見たら良いのよ。』

 どうせ助かるのだしと、あの時思ってた。

(罰が、当たったんだ。あんな事思ったから。だから…)

 ジタバタ動かした足が、押さえつけていた男の顎にヒットしたので、ダッシュするも、直ぐにまた上から押さえ付けられる。

 「じっとしてなきゃ肌傷つけるぞ?」

  背中に刃物が当たる感触がして、動きを止めた。何本かの刃物を自分に向けられている事を理解すると、次は恐怖で涙が滲む。
 埃の臭いに咳き込み、掃除もろくにされていない地面にある小石が痛い。


(誰か、助けて。怖いよ…)




誰か






絶望しかけたその時、〝ブツン〟と縄を切る音と、女性らしい柔らかさを感じさせる声が響いた。





「やめなさい。」





 ユリシアを押さえつけていた男目掛けて、紐で固定されていた筈の荷物が、床に這いつくばっていたユリシアの上を通過して雪崩れ込み、土埃がたった。


 



 ユリシアは押さえ付けられていた身体が解放された事で、咳き込みながら口に入れられてた布を取り出す。



「走れますか?」



  差し出された白くて綺麗な手に、視線をあげると、横に結えられた髪は乱れており、額からは汗を滴らせ、肩で息をしている


 マーガレットの姿があった。






 
しおりを挟む
感想 190

あなたにおすすめの小説

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

辺境伯と幼妻の秘め事

睡眠不足
恋愛
 父に虐げられていた23歳下のジュリアを守るため、形だけ娶った辺境伯のニコラス。それから5年近くが経過し、ジュリアは美しい女性に成長した。そんなある日、ニコラスはジュリアから本当の妻にしてほしいと迫られる。  途中まで書いていた話のストックが無くなったので、本来書きたかったヒロインが成長した後の話であるこちらを上げさせてもらいます。 *元の話を読まなくても全く問題ありません。 *15歳で成人となる世界です。 *異世界な上にヒーローは人外の血を引いています。 *なかなか本番にいきません

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。 彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。 そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。 幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。 そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...