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そしてヒロインはフラグを回収してしまう1

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 小説のヒロインであるユリシアは、貸し切られた店舗の裏口から飛び出してゆく。

 その出口には引き止める者が誰もいない事を知っていたからだ。

 動きやすい衣服である為、ただ夢中になり延々と全力で走った。

 マーガレットの言葉が、自分のやった事の愚かさを説明しているみたいでショックで恥ずかしくて、自分に失望した。

 まさか自分の行動が、辺境伯とマーガレットの出会いを後押ししていると思わなかった。

 

(小説の筋書きに逆らおうとすればする程ドツボにハマる…。)

(しかも、ヴォーレンは自分からマーガレット様に声をかける。これじゃあ私がマーガレット様に、〝ヴォーレンに話しかけないで、近づかないで〟と言っても無駄だ。

話しかけて近づいてるのはヴォーレンなんだから。)


「ぅっ。ぅう…」
   

(何で、何で私じゃダメなの。ヴォーレン…)


  途中からトボトボ道を歩きながら涙の溢れ出る目を擦る。擦っても擦っても、それは次々溢れ出した。



 そんなユリシアの前に、人影が出来て足を止めた。


「お嬢ちゃん、泣いているのかい?大丈夫?」


  顔を上げると、ひょろ長の感じ良さそうな男の人がニコニコしながら話しかけてきた。
 見たところ多分この辺りに住う平民だ。私が子供に見える事や、身なりがマーガレット様の気楽にしたいとの希望からドレスでは無く、動きやすい衣服だ。

 お育ちの良い子共と認識されているのはわかる。


「こう見えても、私、成人しているのよ。だからお嬢ちゃんじゃないわ。」


 生意気だと分かりながらも、子供扱いは今1番して欲しくなかったこともありフンっと鼻を鳴らして応えた。


「それは失礼したね。連れの人は?
まさかお嬢さん1人かい?」

「つ、連れとは逸れたのよ。直ぐに戻れば…」


 周りを見回すと、ユリシアの知らない景色が広がっている。

(あれ…途中角とか曲がったかな?)

「帰り道わからないのかい?」

「……。」

「俺の仕事場が近くだから地図をやるよ。どうする?」

「ほんと!?」
 
(よかったぁ!ラッキー!)

  前世日本人であり、今世、世間知らずの令嬢。現在子共よりに見える容姿である自覚の薄いユリシアは、そのまま男について行った。
  
 実際電子機器の発達していないこの世界で迷子は難儀をする。地図さえあれば帰れると思ったのだ。

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 男の雰囲気は優しげだったし、弱々しそうだったので安心しながらただ後をついて来たユリシアだったが、人気のない路地裏を進むにつれて少し不安になってきた。

 不安気に辺りを見渡しているユリシアに、ひょろ男は声をかけた。

「すまないね、工場この先だから。」

 そう謝られると、少し安堵する。

「いえ…。」

 (こんな狭いところ、入った事ないなぁ。埃っぽくてなんかやだぁ…)

「着いたよ。どうぞ入って。」

 戸を開けてそう促された。

 流石に中に入るのは気が引けてしまう。

 それなりに大きな建物だけど、工場とは思えない。仕事場をそう呼んでるだけかも知れないけれど。

「あの、こ…此処で待ってたらだめですか?」

 そう尋ねると、男のニコニコと細められていた目が開いて言った。

「俺に地図とってこいって?」

 ドン。と背中を押されて戸の内側に倒れこむ。

 急な事の恐怖で、声を上げずにひょろ男から距離を取る為、直ぐ立ち上がり走った。

(ま、窓から…っ)

   ユリシアが出口を探そうとしていると、次は違う男が3人出てくる。


「おお?何か可愛らしいの連れてきたじゃん。」

「良いとこのお嬢ちゃんじゃないのぉー?ちっ、でもまだ子供かぁ。あと数年後がよかったなぁ。」


 みるみるうちに顔が青ざめていく。
 ユリシアの逃げ道を閉ざすように囲われて、壁際に追い詰められると、掴みかかられた。

 「いやぁぁぁぁぁ…モガッ」


  大きい声で助けを呼ぼうとするも、手で口を塞がれて、布を口に押し込められ、首元にはナイフを突きつけられる。

(怖い、怖い、怖い、何されるの?怖いよ。何でこの人達こんな事するの?)


 経験した事のない恐怖に襲われる最中、思い出したのは先日、暴漢に襲われる筋書きのマーガレットを考えた事。

『今のマーガレットなんか特にそのくらい痛い目見たら良いのよ。』

 どうせ助かるのだしと、あの時思ってた。

(罰が、当たったんだ。あんな事思ったから。だから…)

 ジタバタ動かした足が、押さえつけていた男の顎にヒットしたので、ダッシュするも、直ぐにまた上から押さえ付けられる。

 「じっとしてなきゃ肌傷つけるぞ?」

  背中に刃物が当たる感触がして、動きを止めた。何本かの刃物を自分に向けられている事を理解すると、次は恐怖で涙が滲む。
 埃の臭いに咳き込み、掃除もろくにされていない地面にある小石が痛い。


(誰か、助けて。怖いよ…)




誰か






絶望しかけたその時、〝ブツン〟と縄を切る音と、女性らしい柔らかさを感じさせる声が響いた。





「やめなさい。」





 ユリシアを押さえつけていた男目掛けて、紐で固定されていた筈の荷物が、床に這いつくばっていたユリシアの上を通過して雪崩れ込み、土埃がたった。


 



 ユリシアは押さえ付けられていた身体が解放された事で、咳き込みながら口に入れられてた布を取り出す。



「走れますか?」



  差し出された白くて綺麗な手に、視線をあげると、横に結えられた髪は乱れており、額からは汗を滴らせ、肩で息をしている


 マーガレットの姿があった。






 
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