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お嫁様必死で暴漢から逃げる1
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マーガレットはひたすらに走っていたが、既に体力が限界を超えていた。
『大丈夫です。』とは、言ったものの。今にも足が縺れて転びそうだ。
王宮で走る事はなく、ゆったりした動作が大半だったので、ユリシアを追いかけるだけで限界来ていた体力が、とうとう力つき始めてきた。
はーっはーっと胸に手を当て、肩で大きく息をする。建物の狭い隙間に入って休憩をする事にした。
(こ、此処に隠れていたら…大丈夫かしら?)
膝がわらっている。もう走れない。もしかしたら、男達は探すのを諦めた頃かもしれないし。
そう思っていた考えは甘かった。
「見つけたぞ!」
そう聞こえてきて、さっと青ざめて声のした方を見ると、先程いた男のうち1人と目が合う。
この狭い隙間に入ってこようとするが、如何やら肩幅が邪魔して、正面から入るのではなく、横向になって壁により衣服が擦れる音をさせ、マーガレットの方に近寄ってくる。
「……っ。」
勿論反対の方向に走り出したマーガレットは、建物の隙間から出た。しかし、回り込もうとして来たのか30メートル程離れた先に、角を曲がって来た仲間の男達2人と目があった。
マーガレットは夢中で再び走り出した。
追ってくる男達の障害物にゴミ箱を倒したりしていたが、距離はどんどん縮まってきて、進んだ道の先でまた別の男に見つかって走る。
(ぁあ…ダメ。これは良くない流れだわ。)
それでも足を止めれば捕まってしまう。進んで行ったその先は案の定、行き止まりだった。
振り返って別の道に行こうとしても、既に男達が横並びになって退路を防いでいたが、横にある倉庫の入り口が空いてたので、脱出経路が有る僅かな可能性にかけて駆け込む。
けれども、やはりそれも男達の計算のうちだった。どの道此処へ連れ込む予定だったのだ。
「あれ?女のガキ1人いなくなってるな。」
「まぁ良いよ。見ろあの生っ白い透明感ある肌。髪艶といい、顔も上玉とはこの上なく俺達今日はついてるな!早く剥きてぇ~。」
息が未だに整わない。酸欠のせいかマーガレットの頭はぼぅとしているが、正気を保とうと首を振って袖に隠していた短剣を取り出す。
「この紋章を、見てください。」
「お?」
「何だ?」
「ありゃ、んー?よく見えないが、王家の紋章に似てるな。」
「ぁあん?こんな所にそんなもんあるかよ。」
口々に疑問を呈する。
マーガレットは息を深く吸って、吐く時にはなるべく芯の通る声色を作って話した。
「私は、セレナイト王国クリス・ウェルナンシア王太子殿下の第一妃、マーガレット・ウェルナンシア。これより先の行為は王族への反逆と見做します。」
短剣に刻まれている紋章をかざして、じっと男達を見据える。
男達はそれぞれ笑い声をあげた。
「あははははは!こんな所に、王太子妃様が1人でいらっしゃるかよ。」
「それこそオメェ、身分詐称で牢獄行きだぜ、なぁ?良くまぁそんなウソつけるもんだぜ。くははっ!」
「あーでも、確かに。美形揃いと名高い王侯貴族様の1人だもんなぁ。場所が違えば騙される奴は騙されるだろうよ。」
想像していた通りの反応に、マーガレットはそっと目を閉じた。
そして、短剣の鞘をぬいて両手で握る。
「お嬢さんよ、人に刃物むけた事ねぇんだろ?ぐははっ。持つ手が震えてんじゃねぇか、可愛らしいねぇ。」
全く怖がらずに近寄って来る男達にめがけて、ブンっと大きく短剣をふり、後ろに下がった。
「ーっと。危ねぇじゃねぇか、そんなもん振り回しちゃ。お嬢さんが大人しくしてくれたら、俺達痛くないよう、気持ち良くしてやるぜぇ?」
マーガレットは後ろに少しずつ下がって、距離を取っていく。
けれど、行き止まりがきて背中にトンッと壁がついた。
男達はニヤついた笑顔で近寄って来る。胸の心臓の音が、大きく鳴っているのが分かるほどに煩く振動していた。
マーガレットは刃の矛先をかえて、己の首元にかざす。
「ー…これ以上、近付いたら私は此処で自害します。」
そう言われて、やっと男達の足が止まり少し焦りが垣間見える。
「そんな大袈裟な。ちょっと愉しむだけじゃないか。」
「俺達人殺しにはなりたくねぇのよ。」
その言葉に、マーガレットは僅かに安堵をしながらも、小刻みに震える手には力を込めたままだ。
「私の身体は王子唯1人の物。汚される事があるのなら、その前にこの剣を持って自ら命を経ちます。」
額から汗はつたうも、その目に宿す本気の意思に、男達の間には戸惑いの色が見えはじめた。
しかしその時ー… ブチんと縄を切る音がした。
男の1人が荷物を支える縄を切ったのだ。
マーガレットが影の揺れに気付いて上を見上げた瞬間、壁際である頭上の斜め上に積み重なっていた荷物が雪崩れ落ちてきた。
早めに気付いた事で、避ける為の動作をしたが、避けきれずに一部が当たってしまいマーガレットは勢いつけて転んでしまう。
手に持っていた短剣が手を離れて地面をカラカラと回転してゆく。
辺りには長年放置されていたのと、幾つか荷物の中身にあった粉末の土が漏れ出して、男達にも予想外な程に土煙が立ち込めていた。
「ゲホゲホッなんだこりゃあ!」
「ウェッ、口に何か入った…っ」
マーガレットは視界開けぬままケホっと咳をして、短剣を探したけれど見つからない。
やっと土煙が収まってきたかと思うと、短剣が男達の後ろ、出入り口側に落ちているのが見えて一瞬青ざめるも、男達に隙が出来た事にも気付いた。
(…もしかしたら。)
埃と土煙に咳き込んでいる男達は油断していたのか、マーガレットは一瞬の隙をついて、走りだし、男達の間を擦り抜けた。
「あ!こら!ゲホッ」
マーガレットは短剣を拾うため手を伸ばそうとしたが、直ぐ後ろに男の手が伸びてきた事に気付いて拾わずに全力で走った。
ズキズキと左足首が痛み、表情が歪む。どうやら先程転んだ時に足を捻ったようだった。
しかし直ぐに追いつきそうな距離で追いかけてくる男達に、痛みに構う余裕もなくただ走った。
『大丈夫です。』とは、言ったものの。今にも足が縺れて転びそうだ。
王宮で走る事はなく、ゆったりした動作が大半だったので、ユリシアを追いかけるだけで限界来ていた体力が、とうとう力つき始めてきた。
はーっはーっと胸に手を当て、肩で大きく息をする。建物の狭い隙間に入って休憩をする事にした。
(こ、此処に隠れていたら…大丈夫かしら?)
膝がわらっている。もう走れない。もしかしたら、男達は探すのを諦めた頃かもしれないし。
そう思っていた考えは甘かった。
「見つけたぞ!」
そう聞こえてきて、さっと青ざめて声のした方を見ると、先程いた男のうち1人と目が合う。
この狭い隙間に入ってこようとするが、如何やら肩幅が邪魔して、正面から入るのではなく、横向になって壁により衣服が擦れる音をさせ、マーガレットの方に近寄ってくる。
「……っ。」
勿論反対の方向に走り出したマーガレットは、建物の隙間から出た。しかし、回り込もうとして来たのか30メートル程離れた先に、角を曲がって来た仲間の男達2人と目があった。
マーガレットは夢中で再び走り出した。
追ってくる男達の障害物にゴミ箱を倒したりしていたが、距離はどんどん縮まってきて、進んだ道の先でまた別の男に見つかって走る。
(ぁあ…ダメ。これは良くない流れだわ。)
それでも足を止めれば捕まってしまう。進んで行ったその先は案の定、行き止まりだった。
振り返って別の道に行こうとしても、既に男達が横並びになって退路を防いでいたが、横にある倉庫の入り口が空いてたので、脱出経路が有る僅かな可能性にかけて駆け込む。
けれども、やはりそれも男達の計算のうちだった。どの道此処へ連れ込む予定だったのだ。
「あれ?女のガキ1人いなくなってるな。」
「まぁ良いよ。見ろあの生っ白い透明感ある肌。髪艶といい、顔も上玉とはこの上なく俺達今日はついてるな!早く剥きてぇ~。」
息が未だに整わない。酸欠のせいかマーガレットの頭はぼぅとしているが、正気を保とうと首を振って袖に隠していた短剣を取り出す。
「この紋章を、見てください。」
「お?」
「何だ?」
「ありゃ、んー?よく見えないが、王家の紋章に似てるな。」
「ぁあん?こんな所にそんなもんあるかよ。」
口々に疑問を呈する。
マーガレットは息を深く吸って、吐く時にはなるべく芯の通る声色を作って話した。
「私は、セレナイト王国クリス・ウェルナンシア王太子殿下の第一妃、マーガレット・ウェルナンシア。これより先の行為は王族への反逆と見做します。」
短剣に刻まれている紋章をかざして、じっと男達を見据える。
男達はそれぞれ笑い声をあげた。
「あははははは!こんな所に、王太子妃様が1人でいらっしゃるかよ。」
「それこそオメェ、身分詐称で牢獄行きだぜ、なぁ?良くまぁそんなウソつけるもんだぜ。くははっ!」
「あーでも、確かに。美形揃いと名高い王侯貴族様の1人だもんなぁ。場所が違えば騙される奴は騙されるだろうよ。」
想像していた通りの反応に、マーガレットはそっと目を閉じた。
そして、短剣の鞘をぬいて両手で握る。
「お嬢さんよ、人に刃物むけた事ねぇんだろ?ぐははっ。持つ手が震えてんじゃねぇか、可愛らしいねぇ。」
全く怖がらずに近寄って来る男達にめがけて、ブンっと大きく短剣をふり、後ろに下がった。
「ーっと。危ねぇじゃねぇか、そんなもん振り回しちゃ。お嬢さんが大人しくしてくれたら、俺達痛くないよう、気持ち良くしてやるぜぇ?」
マーガレットは後ろに少しずつ下がって、距離を取っていく。
けれど、行き止まりがきて背中にトンッと壁がついた。
男達はニヤついた笑顔で近寄って来る。胸の心臓の音が、大きく鳴っているのが分かるほどに煩く振動していた。
マーガレットは刃の矛先をかえて、己の首元にかざす。
「ー…これ以上、近付いたら私は此処で自害します。」
そう言われて、やっと男達の足が止まり少し焦りが垣間見える。
「そんな大袈裟な。ちょっと愉しむだけじゃないか。」
「俺達人殺しにはなりたくねぇのよ。」
その言葉に、マーガレットは僅かに安堵をしながらも、小刻みに震える手には力を込めたままだ。
「私の身体は王子唯1人の物。汚される事があるのなら、その前にこの剣を持って自ら命を経ちます。」
額から汗はつたうも、その目に宿す本気の意思に、男達の間には戸惑いの色が見えはじめた。
しかしその時ー… ブチんと縄を切る音がした。
男の1人が荷物を支える縄を切ったのだ。
マーガレットが影の揺れに気付いて上を見上げた瞬間、壁際である頭上の斜め上に積み重なっていた荷物が雪崩れ落ちてきた。
早めに気付いた事で、避ける為の動作をしたが、避けきれずに一部が当たってしまいマーガレットは勢いつけて転んでしまう。
手に持っていた短剣が手を離れて地面をカラカラと回転してゆく。
辺りには長年放置されていたのと、幾つか荷物の中身にあった粉末の土が漏れ出して、男達にも予想外な程に土煙が立ち込めていた。
「ゲホゲホッなんだこりゃあ!」
「ウェッ、口に何か入った…っ」
マーガレットは視界開けぬままケホっと咳をして、短剣を探したけれど見つからない。
やっと土煙が収まってきたかと思うと、短剣が男達の後ろ、出入り口側に落ちているのが見えて一瞬青ざめるも、男達に隙が出来た事にも気付いた。
(…もしかしたら。)
埃と土煙に咳き込んでいる男達は油断していたのか、マーガレットは一瞬の隙をついて、走りだし、男達の間を擦り抜けた。
「あ!こら!ゲホッ」
マーガレットは短剣を拾うため手を伸ばそうとしたが、直ぐ後ろに男の手が伸びてきた事に気付いて拾わずに全力で走った。
ズキズキと左足首が痛み、表情が歪む。どうやら先程転んだ時に足を捻ったようだった。
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