【完結】年下王子のお嫁様 

マロン株式

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お嫁様が手折った花の色

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ー貴方が私を見つけた時、私よりも震えている貴方に気付かない訳がなかった。
この人は、私を心から愛しているとー

 
 マーガレットは華祭りの前夜祭の当日を迎えた。  

「そろそろお召し替えを。」と侍女に促されて華廻りの準備をした。

 銀糸で紡がれた儀礼服を身に纏い、髪を結られて白銀のネックレス、耳飾り。そして黄金色の腕輪をつける。

 そして白籠を腕にかけると、華園を廻りにいく為王宮の出入口に向かった。

 そこには王子が見送る為か、既にいて、私を見つけてパッと顔を上げると満面の笑みを浮かべて手を振ってくる。

(……貴方は今日ヒロインと……するのかしら…)

 余計な事を考えた自分に首を横に振る。

「マーガレット、やっぱり具合が悪いの?」

     心配している王子の声に、マーガレットは笑顔で「大丈夫」と答えた。

 こうして王子に見送られて、私は王宮を後にした。



(……集中しなくては。)



 洋燈に照らされている夜道を歩いて、順番に華園を廻り、華園に咲く花々のうち一つを手折り籠へいれる。

 
  王子との思い出がそれぞれの華園にはあって、それを手折って籠に入れているような、妙な感覚になってくる。

 小説の本編が始まってから初めての華祭りの儀式。

 どの華園も、多くの思い入れは有るけれど、その中でも特に思い入れがあるのは、今足を踏み入れた華園。



 宝物みたいに大事にしまっていた記憶。一等特別な華園。
 
 其処には闇世の中、洋燈に照らされて素朴で彩豊な〝マーガレットの花〟が、満開で咲き誇っていた。


(この中の一つを手折って、籠に入れ、川に流す…)


 どの色を選んでもいい。華園に咲く花一輪だけを。

 そう思い見渡すも、迷ってしまう。
 そしてふと、淡いピンクの花に視線をやった。

 王子は花の名前を知って。嬉しそうに、可愛らしいピンクのマーガレットの花を一輪、私の髪に飾ってくれた事がある。

『マーガレット、この花、やっぱり君に1番似合うね。僕のお嫁さんはこの世で1番綺麗だ。』


 そう言った王子の顔が今でも鮮明に浮かぶ。

 この花の意味も知らないであろう、子供の他愛もない戯れ。数あるじゃれあいの一つに過ぎない。

 だけど何気なく王子がくれたその花が、まるで愛を語ってくれているようで。私は後生大事な宝物みたいに、この思い出を大切にしている。



 そして同時にナーディアの言葉が浮かんだ。


『変えられたのは、他者の心では無く


自分の気持ちだけ。』



 ゆっくりと伸ばした手を止め


 暫くしてからマーガレットが選んだのは、1つの白い花。


「…。」


  白い花を手に持って、自分の気持ちを労わるように胸に抱いた後、そっと籠に入れ、次の華園に続く道を行く。


 そして幾つかの華園を廻と
 次にアネモネの華園が見えてきた。

 遠目に見える人影、後ろ手を組み佇んでいる人物は小説で私と再婚し大切にしてくれた人。

 ヴォーレン・バウセラム ミストロイア辺境伯爵が護衛騎士をしている華園に辿り着いた。

 暗がりの中、近くにある洋燈の灯りによって橙色の光が混ざるペリドットの瞳は穏やかに私を見据えていた。護衛騎士の格好をしているので、金縁の白いマントを身にまとっている。

 辺境伯とは前に2回程会話をしただけ。
 けれども彼はすんなりと私の中に存在感を抱かせた。それは、前世で私が小説を知っているからこその好奇心と、彼の醸し出す雰囲気のせいなのか…。

 
 小説では彼の事は再婚した後日談でしか出てこない。出会いや、いつマーガレットと話して居たのかもわからない。私は離縁した後に出会ったものと思って居たけれど。
 

 もしかしたら小説でスポットライトが当たらないだけで知らずに関わって居たのかも知れない。




 そして 最後に訪れたのは

 小説で王子とヒロインが来る事になる華園。

 小説では華祭りの時点で既に離縁の話がまとまっている。

 しかし離縁手続きが進まない状況に暗雲立ち込め、王宮の会場でヒロインと王子は軽い口論になり、ヒロインは涙ながらに王宮の外へと駆け出すのだ。

 そして王子がヒロインを追いかけてきた先が私が最後に回る今年の代表華。


 ペチュニアの華園。


 
 此処に幼い王子と来た時は、小説の王子に思いを馳せては素敵な男の子に成長する未来が嬉しくも感じていた。

 ペチュニアの持つ意味は
〝貴方と共に居ると心が和む〟小説通りに進めば、その言葉を王子がヒロインに伝えて、花を一輪手渡す。
 


 その後、2人は口付けを交わすことになる。

 
 マーガレットはペチュニアを手折りながら、今までの2人の姿。



 茶会を重ね、ヒロインを見ているうちに〝確信した事〟。




 そして ナーディアの言葉を思い出していた。
 

『強制力はあります。』
 
 


 


 単純に囁く愛の言葉より、ペチュニアの言葉は優しく心に染みる素敵な花言葉。一瞬の愛よりも、永遠に共に居ることを約束するような。

 けれど私は、長い人生の中で一瞬で終わるかも知れない愛の記憶を宝箱にしまっている。


 
 



ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー


 華園を一通り廻り終わると、セレーヌ川へと向かう。其処には抽選で当たった民達がマーガレットを待っていた。

 教会から来た神父が、マーガレットの姿を確認すると、仰々しい祝辞を述べる。 

 そして、マーガレットも1年が平和であるようにと祈りを述べると

 籠に入った花を両手ですくって、川に水面に浮かべた。浮かんだ花は水面を彩るかの如く綺麗に散らばり、流れてゆく。


 その中に、あの白い花もあった。


〝秘密の恋〟その意味を持つ。白いマーガレットの花にだけ、個人的な祈りをのせた。

 これが、最後になるかもしれない華廻りの手向の如く。


 流れてゆくその花をマーガレットは見送って、民が代表華を流しているのを見届けると、元来た華園へと、静かに引き返して行った。






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皆様のご意見のおかげで、考えが纏まりましたのでアンケート終了しました!ご協力、有り難うございました!



 


 
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