【完結】年下王子のお嫁様 

マロン株式

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お嫁様は辺境伯に前世を語る1

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『我人生において、この上なき誉となりましょう。アネモネの咲く華園にてお待ちしております。』
 
 先日 辺境伯様はそう言っていた。
 
 マーガレットは、儀式の順路を引き返している中、籠に入れて居た辺境伯のハンカチを片手に持って、アネモネの華園に足を踏み入れた。


 先程と立っていた所には居なくて、辺りを見渡して見る。

(あれ、もしかして帰り道に会いましょうって事じゃ無かったのかしら。
では。ハンカチはまた後日…)


「丁度良いタイミングでした。
此方へ来てください!」

  草叢の間から、頭にアネモネの花弁をつけて現れた辺境伯に驚くマーガレット。

「え?そこで何を…」

    夜の茂みに男女が隠れる理由としたら…昔、夜のダンスパーティーで涼むため王子を連れて外に出た時、茂みから喘ぎ声が聞こえて、私自身もあの後王子に…


(いや、辺境伯様はそんなお方ではないわ。でも一体他にどんな理由があって…) 


 オロオロしているマーガレットの側までかけてくると、辺境伯が不思議そうな顔をして訪ねてきた。

「如何いたしました?何か気になりましたか?」

(えぇ…はい。でも、この邪気の微塵もない表情を見ていたら、私の心が汚れているように感じてきたわ…)

「茂みの奥に、何かあるのですか?」

「あ、そうでした!急がないと見れなくなりますので、さぁ。御手を。」

   差し出された手は、早くと急かしていて何かを私に見せたい事がわかった。

 迷っているマーガレットのさまよう手を握ると、そのまま自分の出てきた茂みに進み出す。

 見かけに寄らず力強く無意識に引かれて行く。手の硬さが誠実さを感じさせた。


   茂みに入ると、辺境伯は振り返って、白い手袋ごしに洋燈を持ち、その手の人差し指を唇につけて〝静かに〟と言うジェスチャーをする。


 マーガレットはコクリと頷いた。


 身を屈めてついて行った先から、川のせせらぎが聞こえてくる。
 アネモネの近くに流れるセレーヌ川だ。

 川辺につくと、其処には鈴虫の音色が心地良く、多くの蛍が飛び交っている。

「わぁ…」


   (ここは、ホタルの住処になっているのかしら…これを私に?)



 思わず隣にいる辺境伯の顔をチラリと見上げてみる。

 辺境伯は洋燈を地面に置くと、徐に懐からオカリナを出した。

 そして、オカリナを唇に当て、澄み渡る音を奏でたときー…


「これは….ー。」


   前世でも今世でも、蛍の光はただ緑がかった金色しかないと思っていたけれど、辺境伯の奏でる音色に合わせるが如く、徐々に赤、紫、橙、青様々な色合いの光がフワフワ現れ始めて、先程よりもこの地を明るく照らした。

 そして、セリーヌ川から流れてくる先程マーガレットが流した花が、彩豊かな蛍の光を受けて、キラキラ輝きを放ち始める。


 その中に、あの特別に願いをかけた白い花の姿があり、マーガレットは思わず「あ…」と声をあげた。

 白の花に、赤い光を宿す蛍が止まると、元の白と蛍の赤光が交わり合い、淡いピンクの色になった。


 マーガレットは思わず両手で口を抑える。

 
 白い花が意味した〝秘密の恋〟から、淡いピンクのマーガレット。王子が髪に飾り付けてくれた、〝真実の愛〟を意味する色に変化した。

 その事に、マーガレットの瞳が潤む。


 

「すごいでしょう。実は、わたしの辺境伯家の家紋である花は、アネモネがモチーフなんです。
普通、国境沿いで隣国を牽制する辺境伯は鷹とか龍とか、強そうな動物なのに。

だけど、だからこそ亡き王妃様の目に留まり、この華園はミストロイア辺境伯家が専属護衛騎士と定めてくださいました。

そして王妃様しか知らないアネモネの華園での楽しみ方を我が辺境伯家に教えてくださったのです。」


   知らなかった。王妃の代行として儀式をしていた身でありながら。

 きっと他の華園にもそうした秘密があるはずだ。

「…こんな素敵な仕掛けがあるなんて、知りませんでした。」


 「良かった。どうしたら貴方が喜んでくれるかと考えたら、これを思い出して。気に入ってくださいましたか?」


「はい…。凄く。」


   紫の背景を背に、虹色のリボンのように幾多もの蛍の光が交わり合い広がって辺りを照らし、川に流れる花々がそれぞれの光を浴びて交わり合い更に違う色へ変色する。

 それは幻想的な光景だった。

 感動しているマーガレットを見つめていた辺境伯は、マーガレットの目尻に涙が滲んでいるのがわかった。

「涙が…。」


「え?」


 辺境伯は、 思わずでした事だった。振り返ったマーガレットの目下に、白い手袋を当てがい、涙を拭とる。


「……。」

「……。」


   訪れた静寂に、2人の距離が近い事に気がついて2人とも慌てて後ずさった。


「すみません!こう…よく面倒を見ている子供がいまして!癖でつい!!すみません!」

「い、いえ。私も辺境伯様の前でいつも情けない所ばかり見せてしまっているので、子供のように思えるのは致し方ありませ……っっ。」


「妃殿下!!」

   勢い余って、つまづいたマーガレットは、川の方面へ身体が傾く。
 それを助けようと辺境伯は手を伸ばしてマーガレットの肩を掴み、引き寄せた。




 
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