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第4章
58話(ローウェンSide 少々残酷な描写あり。読まなくても話は繋がります)
しおりを挟む…ジャラリ…
牢屋の壁から伸びた鎖は、ジャックの両手首と繋がっている。
首には魔力を封じる魔導具、牢屋全体には特殊なバリアが施されていた。
「ジャック・クロスだな。私はルミナスという。あなたと同じように、呪術を扱う者だ」
…ゆるりとこちらを振り向く…
その姿は、敵意を剥き出しにした…飢えた獣のようだった。
「…お前が…解呪したのか…」
「そうだ」
「…よく…生きてたな…」
私たちは、ジャックが収監されている牢屋に来ていた。
皇帝陛下と数人の騎士たち、義父上、ルミナス殿、そして私という…限られた者だけだ。
ルミナス殿は万が一に備え、義父上の護衛のために来てくださったという。
ジャックの牢屋の前まで行くのは、義父上とルミナス殿だけ。皇帝陛下や私は、シールドの内側から様子を見るだけとなっている。
そして、バイセル王国からの使者として…ジャックの兄…ヒューゴ・クロスも来ていた。
ヒューゴも魔力封じの魔導具を装着しており、私たちとは別の場所から面会の確認をしていた。
冷静で取り乱すことのないその姿は…犯人の実兄には見えなかった。
「…ドミニク・ガーラント…」
その言葉が呪文なのか…?…と、そう思えるほどに冷えきった感情のない声がした。
「どうだ?…子の命を奪われた気分は…?」
義父上は、今まで想像しかしていなかった自分への恨みというそれを…目で見て…体感されたのではないだろうか。
「愛する者を…全てを喪った気持ちは…どうだぁ?」
…ニタァ…と、ジャックがゆっくり笑ったように見えた。
狂気に満ちたその表情に、背筋が凍りつく。
ジャックという男は…彼自身が黒い呪いの塊なのではないだろうか?
「これからだ…これからずっとそうやって1人で生きていけ。ジュリーの苦しみ、悲しみ、辛さを…知ればいい…」
ジュリーと呼ぶその声は…わずかに震えていた。
「…申し訳なかった…あなたとジュリエットのことを知らずに…いや、違う…無関心で知ろうとすらしなかった。
私は…ジュリエットに酷い仕打ちをした…本当に愚かな行いだった」
過去の言動は、もうどうにもできない。
義父上は跪き…ジャックにただひたすら謝罪をされた。
「お前のせいで…お前の息子は、黒い飛龍に頭を喰われ絶命した。
お前のせいで…お前の娘は、赤い飛龍の業火に焼かれ真っ黒焦げになって苦しんだ。
私は呪いを通して全て見ていたんだ。何年もかかったが…胸がすく思いがしたぞ。アハッ…アハハハハッ!」
「…グッ…クゥッ…」
義父上の涙が…牢屋の石床に染み込んでいく…。
固く握りしめた拳がブルブルと震えた。手のひらに爪が食い込んで血が滲む。
愛するシルフィを私から奪ったお前を許さん!…そうジャックに叫んで殴りかかりたかった。
どこかで復讐を思い留まることはできなかったのか…。
復讐は新たな復讐を生む…負の連鎖の始まりだと…気付いて欲しかった…。
私はシルフィが守り続けてきた辺境の地を、これから先もずっと守って行くと決めた。
どこからか…シルフィが見ていてくれるかもしれないから、恥ずかしい姿は絶対に見せられない。
ジャックは法で裁かれる。…だから…そこで、復讐は終わりなんだ。
ルミナス殿は、床に力なく座り込む義父上を立たせながら…こちらを見て首を左右に軽く振った。
“これ以上は無理”という合図だ。そのまま引き上げて来られた。
「義父上!」
義父上の顔は真っ青で、やっと息をしているような状態だった。
「すぐに部屋で休ませたほうがいい。ジェンキンス殿も…確かこちらへ来られていたか?」
「はい」
「ならば、しばらくは回復の術を施すよう頼むことですね…。では、私はこれで」
「ルミナス殿、ありがとうございました」
「…いや…。陛下、失礼をいたします」
「うむ。忙しい中…ご苦労であったな」
ルミナス殿は顔色ひとつ変えず、牢屋から出て行った。
義父上は…自力で起き上がることができないほど憔悴し、3日間の療養が必要となった。
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