リズエッタのチート飯

10期

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善人ではなく

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「なんでそうなんだよ!」
「なんでって、ねぇ? コレを見たら縁切りたいのかなって思うじゃん?」

 驚いた顔をする三人に黒板を投げ返し、私は深く息を吐いた。
 黒板に書かれていたのはアマドロロやウキョウといった薬草の名前。私がもうニコラ以外とは取引はしないと決めている薬草ばかりの名前だったのだ。

「コレをなんに使いたいわけ? むしろお前達に薬草は不必要だよね? 誰かに金でも握らされた? まぁ、理由がなんであれ、薬草は用意する気もないしお前らにやる気もない。欲しかったら自分で探せ!」

 怒鳴り声に近い声を上げ、私は席を立つ。
 周りにいた子らは何事かとこちらを窺うも、声をかけてくることはない。
 一人テーブルを離れようとするとデリアが声を荒げ、私を必死に引き止めようと手を引いた。

「薬草が欲しいのはわけがあるの! それがないと助からない人がいて! それがあれば助かるって!」
「んなこと知るかっ! 私は薬師にストーカーされて嫌な思いしたの! ギルドにも面倒かけられたの! だから薬草はとらないって決めたの! 誰がなんと言おうとやらんものはやらん!」
「なんでそんなこと言うの? それがあれば助かるってひとがいるんだよ!」
「んなわけあるかっ! こんな探せば出てくる草、お前らにでも見つけられるだろう!」


 アマドロロにしろウキョウにしろ私じゃなくても見つかりやすい薬草で、それがなきゃ治らないなんて病気は知らない。
 もし仮にあったとしてもギルドには定期的にそれらを納めてる者もいるだろうし私が出る幕ではないのだ。

 私を掴んで離さないデリアに淡々とそれを説明し、依頼してきたのは薬師かとウィルに聞くと首を横にふる。じゃあ誰なんだと問えば数秒だんまりしたのち、ホアンさんが、とセシルが口にした。

「ホアンさんの子供が病気みたいで、リズエッタの薬草があれば治せるって薬師に言われたみたいなんだ。そりゃ俺たちだって最初は断ってたけどどうしてもって。死んじまうかもしれねぇからって言われて、それで」
「それでもクソもあるか! それはホアンさんが騙されてるに決まってんだろうが!」

 薬師にはここまで落ちた奴もいるのかと頭を抱え、しょうがなくもう一度腰を下ろす。
 ヤンをはじめ他の子らには気にしないでと、お祝いを続けてと声をかけ、テーブルの端に三人を呼び詳しく事情を聞く事にした。
 冷静に、なんて言ってられないほど腹わたが煮えくり返っているが、あのクソども薬師供が下らないことを言い出してくれた以上対策を練るしかあるまい。

「とりあえずホアンさんについて教えて。薬草はやらんが話くらいは聞いてあげる」

 ため息を吐き渋々三人の話を聞いてると、やはり騙されてるとしか考えられない内容であった。

 ホアンには私達より年上であろう娘が一人いるそうだ。妻は数年前に無くし、今は体の弱い娘と二人で暮らしているそうな。
 時折私が預けたお弁当やお菓子の大半は自分で食べることはなく、少しでも栄養になればと娘にやっていたらしい。
 セシル達に薬草が欲しいと言い出したのは割と最近で、最初は私が薬師を嫌っているのを知っていたためかセシル達も無理だと断っていたが先日あった時についに泣きつかれてしまったようである。

 なんでもそれがあれば娘の病は治る!
 だから薬師に薬草を卸してくれ! と。

 しかしながらもとより体が弱かった娘の病が、そこら辺で生えてる薬草で治るのか?
 はたまた、素材の質を変えただけで治るのか?

 そう考えれば藁にもすがりたいホアンに対して、一部の薬師が嘘をついたと考えた方が無難だろう。

「話は分かったけどさ、お前らその後のことまで考えてた? もし仮に薬師が薬草を手に入れられていたとしたら、次はどうなったと思う?」
「次って? ホアンさんに渡して終わりじゃねぇの?」
「終わりじゃない。むしろ始まりだよ。それに味をしめた奴らがお前達に人を差し向けてくるぞ。それも怪我や病気で困ってる人間を大量に」
「でも俺らだってしらねぇ奴の為になんかしないっ! 世話になってるホアンさんだからっ!」
「そだね。他人を助けることはしないね? でもそれが身内だったら? ここにいる子供らに何かされたら?」

 他人じゃダメだと理解したらまだ幼い子らに毒を盛るなんて簡単に出来るだろう。
 それも相手は薬師。薬も毒に変えられる人間だ。
 そんな事しないなんて言い切れるほど信じられないし、実際こうやって誰かを騙している以上やらないなんて保証はない。

「人って自分本位な生き物なんだよ。自分がよければ全て良し。他人は所詮他人。誰かが悲しもうが死のうが、自分の為なら非道なことができちゃう生き物だ」
「ーーそんなっ。じゃあどうすればいいのさっ!?」
「素直にごめんなさい、薬草は手に入りませんって言ってきなさい。勝手に請け負って無駄に夢を見せた三人には責任があるんだから」

 私は知らないよとそっぽ向けば、三人は拳をぐっと握りしめ足元を見る。
 どうせ薬草もらってハイ終わり!なんて考えていたのだろうが、世間はそんなに甘くない。それに今回は私の意見なんて聞かずに勝手にホアンの願いを叶えようとしたのだ、私は悪くない。
 謝るなら三人で、責められるなら三人で、だ。

 あまり希望を持たせるのは悪い、近々謝りに行ってきなと再度指示を出せばセシルとウィルは頷き、デリアだけが何かを考えを思いついたという顔で私を真っ直ぐに見つめる。
 どうしたと首を傾げてみると、デリアはジュース!と叫び出した。

「ジュースなら? 私を助けてくれたジュースなら? あれなら薬草じゃないよね、リズエッタさん! あれもダメなの?」
「ジュース? ーーーーそいやそんな事もしたっけか」

 思い出されるのはデリアの腹痛を治したフルーツジュース。
 確かにあれならば薬草でもなけりゃ薬でもない。あげる事だけは簡単にできる。
 けれどもその後が面倒だ。
 なんでも治せるジュース、なんてもんがあった薬師なんて廃業。プラスその後のわたしの生活に負担がかかる。それに何よりスヴェンにまた変なもん作りやがってと殴られるに違いないし、周りから薬草の時と同じくストーキングされるのも予測できる。
 そうまでしてホアンの娘を助けたいかと言われてもあった事もない人間を治す魅力なんてないし、第一また変に希望を持たせるのも悪いだろう。
 その病がなんなのかは知らないが、持病が治るかなんてまだ試してないのだから。

「絶対治ると思うの! だからそれなら、ね?」

 いいでしょうと私の手を取り懇願するデリアに面倒になりながら、条件次第で用意してあげなくもないと私は言葉を繋いだ。

「まず作ったのは私だと誰にも言わない事。薬でもなんでもない、ただ栄養のある飲み物だと伝える事。治らなくても文句を言わない事。治った場合は即座に私に報告する事。それが守れるなら作ってやんなくもない」
「約束する! 絶対に守る! だから治してあげて!」
「ーー治せるか分からんって言ってんのに。まぁ、作ってあとで渡す。でもホアンさんには一応謝っておきなよ」


 勿論ここは一肌脱ごう! なんて善人の考えで了承した訳ではない。
 もし仮にジュースで持病が治るのならば、不治の病が治るのならば、こんなチャンスを逃すことはない。
 薬も医学も発達してないこの世界、うっかり風邪で死にましたなんてたまったもんじゃないのだ。
 祖父にもスヴェンにも勿論アルノーにも長生きしてもらわなきゃいけないのだ、今回はホアンの娘には実験台になってもらおう。

 治らなくても責められるのは私じゃないし、問題ない。

 問題のある薬師に関してはニコラを味方につけてギルドに文句を言いにいくしかないな。



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