27 / 32
第27話 医者を呼ぶには
しおりを挟む
「困りましたねぇ」
ステラからわけを聞いたユリシーズはどうしたものかと頭を掻いた。
「えぇ……。村への案内の兼ねて私たちも旅にご一緒させてくださると、せっかく言ってくださったのに。これじゃあ今日出発は……申し訳ございません」
「緊急事態とはいえ、ユリシーズ様のお優しい申し出をふいにしてしまうことになり……本当に申し訳ございません」
残念そうな面持ちで謝罪を述べるステラの横でハンナも深々と頭を下げて謝罪した。
身分の怪しい赤ン坊連れの女が二人、だのにそれなりの身分であろうユリシーズからの申し出を断るということは反逆の意思アリとみなされてもおかしくはない。
それが例え体調不良が原因であろうとも、庶民以下である者には許されざることで……。
しかし高熱を出したままの赤ん坊を連れていっては命取りとなるので出立するわけにいかず、ほぼ庶民のような家で育ってきたハンナにだけはこれがどういうことだか理解していたのだった。
「そんなっ! 私のことはいいのです。赤ん坊というものはよく熱を出すものだといいますし、仕方がありませんよ」
そのまさかの言葉を返されて二人の顔はパッと少し明るくなり、特にハンナはホッとした。
「ありがとうございます。この子も何度か熱を出したことがありますが、ここまで熱くなるのは初めてで……」
一見冷静そうにも見えるステラの手は小刻みに震え、顔色も少し悪くなってきていて――。
「だ、大丈夫ですか!?」
フラリと気を失いかけて前に倒れそうになったステラをユリシーズは抱きとめたのだった。
「度々、申し訳ございません……。私、こういったことにまだ慣れていなくってちょっと怖く……」
「この子も生まれて間もないのでしょう? 誰しも最初はそんなものです――と、私が言っても説得力はありませんね。それで……医者はもう呼びましたか?」
「それが――」
答えを求めてステラはハンナにちらりと視線をやり、二人して目を合わせてから伏せる。
「路銀に使うので心もとないのでしたら私が立て替えても。なんなら出したって――」
「いえっ! そうじゃ――そうじゃないんです」
お金がない以外にどんな理由があるのかと、ユリシーズは強く否定されたことを不思議に思って首を傾げた。
言うべきか……言わざるべきか……。
言ったら悪い様に誤解され、もしかしたら逮捕されたりなど大変なことになるかもという恐れもあって迷っていたが――ハンナは覚悟を決めた。
言わないのもどのみち怪しまれる状況だと思い、ゆっくりと口を開く。
「この子にはまだ……名前が無いんです。この子の母になるステラに身分証もなく。だから、つまり……二人して身分証のない状態なので裏診療でしか――」
ステラからわけを聞いたユリシーズはどうしたものかと頭を掻いた。
「えぇ……。村への案内の兼ねて私たちも旅にご一緒させてくださると、せっかく言ってくださったのに。これじゃあ今日出発は……申し訳ございません」
「緊急事態とはいえ、ユリシーズ様のお優しい申し出をふいにしてしまうことになり……本当に申し訳ございません」
残念そうな面持ちで謝罪を述べるステラの横でハンナも深々と頭を下げて謝罪した。
身分の怪しい赤ン坊連れの女が二人、だのにそれなりの身分であろうユリシーズからの申し出を断るということは反逆の意思アリとみなされてもおかしくはない。
それが例え体調不良が原因であろうとも、庶民以下である者には許されざることで……。
しかし高熱を出したままの赤ん坊を連れていっては命取りとなるので出立するわけにいかず、ほぼ庶民のような家で育ってきたハンナにだけはこれがどういうことだか理解していたのだった。
「そんなっ! 私のことはいいのです。赤ん坊というものはよく熱を出すものだといいますし、仕方がありませんよ」
そのまさかの言葉を返されて二人の顔はパッと少し明るくなり、特にハンナはホッとした。
「ありがとうございます。この子も何度か熱を出したことがありますが、ここまで熱くなるのは初めてで……」
一見冷静そうにも見えるステラの手は小刻みに震え、顔色も少し悪くなってきていて――。
「だ、大丈夫ですか!?」
フラリと気を失いかけて前に倒れそうになったステラをユリシーズは抱きとめたのだった。
「度々、申し訳ございません……。私、こういったことにまだ慣れていなくってちょっと怖く……」
「この子も生まれて間もないのでしょう? 誰しも最初はそんなものです――と、私が言っても説得力はありませんね。それで……医者はもう呼びましたか?」
「それが――」
答えを求めてステラはハンナにちらりと視線をやり、二人して目を合わせてから伏せる。
「路銀に使うので心もとないのでしたら私が立て替えても。なんなら出したって――」
「いえっ! そうじゃ――そうじゃないんです」
お金がない以外にどんな理由があるのかと、ユリシーズは強く否定されたことを不思議に思って首を傾げた。
言うべきか……言わざるべきか……。
言ったら悪い様に誤解され、もしかしたら逮捕されたりなど大変なことになるかもという恐れもあって迷っていたが――ハンナは覚悟を決めた。
言わないのもどのみち怪しまれる状況だと思い、ゆっくりと口を開く。
「この子にはまだ……名前が無いんです。この子の母になるステラに身分証もなく。だから、つまり……二人して身分証のない状態なので裏診療でしか――」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
136
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる