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おもしろ小話番外編
2、結婚式には白薔薇を(前編:エクトル視点)
「白薔薇の騎士様とダンスを踊れたらさぞ素敵でしょうね……」
エレナ・リトラーゼ侯爵令嬢が、うっとりとした口調でそう言った。エクトルと観劇した後の出来事だ。
「ははは、白薔薇の騎士は本当に人気ですな」
エクトルはそう言って笑う。
あちらこちらで開かれる茶会でも彼女の話でもちきりで、その時に白薔薇の騎士とダンスを踊りたいといった話題が出たらしい。
「あら、もちろんエクトル様が一番ですわよ」
赤いドレス姿のエレナが、うふふと笑う。
彼女の髪にはつい先日、エクトルが贈ったピンクのスイートピーが、髪飾りとしてあしらわれていた。やはり可憐な彼女には、繊細な花がよく似合う。エクトルはそんな風に思って、顔をほころばせた。
まさか、この年になって春が来ようとは思わなかった。何とも照れ臭い。こうして自分の為に精一杯お洒落をする彼女が、可愛らしくもあり、こそばゆくもある。
夜会服に身を包んだエクトルの胸ポケットには、エレナが刺繍してくれたハンカチが忍ばせてあった。
「では、お手をどうぞ」
エクトルは手を差し出し、エレナを侯爵家の馬車へ乗せた。立ち振る舞いは流石年の功、堂々としたものだ。
二人の結婚式は華やかだった。
何せ国王陛下の覚えもめでたい宰相閣下の結婚式である。盛大にならないわけがない。結婚式場は王城の聖堂で、誰もが羨むような豪華さだ。真っ白い花嫁衣装に身を包んだエレナと、花婿衣装のエクトルが祭壇に向かって進む。
式後に行われた披露宴もまた格別に素晴らしかった。光り輝く豪奢なシャンデリアがひときわ人目を引き、一流の職人によって装飾された会場の素晴らしさは言うまでもなく、贅をこらした料理がずらりと並び、色鮮やかな生花がふんだんに使われている。かぐわしい芳香は二人の未来を祝福しているかのよう。
両開きの扉の向こうから、エレナを伴ったエクトルが現れれば、盛大な拍手が巻き起こる。おめでとう、というわけだ。
美しい純白の花嫁衣装から、妖精を思わせる淡いグリーンのドレスに着替えたエレナが、幸せそうに微笑んでいる。結い上げられた艶やかな栗色の髪にも、可愛らしい白と緑の生花が飾られていた。エスコートしているエクトルもまた、何とも幸せそうだ。
「おめでとうございます、宰相閣下」
高位貴族の一人がそう言って挨拶をすれば、後に続く者達が続々と現れる。
「おめでとうございます」
「宰相閣下、おめでとうございます」
「それにしても美しい花嫁ですなぁ」
誰もがエレナをそう言って褒め称える。
「宰相閣下は幸せ者ですな」
「いやいやかたじけない」
エクトルもまた照れ臭そうに笑い、そう挨拶を返す。そこで、ふっと鏡壁に映った自分の姿を見て、苦笑いが浮かんでしまった。夜会服に身を包んだ自分の頭は、綺麗につるつるだった。
結婚前、オーギュストの執務室で、ふと窓に映った自分の姿を見て、さて、はげ上がったこの自分の頭をどうしようかと悩んでいると、
――剃れ。
オーギュストの声にそう告げられ、エクトルは飛び上がりそうになった。
そろりと振り返れば、そこにあったのは、オーギュストのうっとうしいと言いたげな眼差しだ。何を悩んでいたのか一発で見抜かれたらしい。
――スッキリするぞ?
オーギュストはそう言い、早、手元の書類に視線を戻される。話は終わったとでも言いたげに。本当に陛下は歯に衣着せない。というか、容赦ない。
エクトルは、はふうとため息をついた。
このままうじうじ悩んでいると、オーギュスト陛下のことだ、実力行使に出かねない。そう観念したエクトルが、残りの毛を剃り、つるっつるにすると、
――まあぁ! エクトル様、格好良いですわ!
と、エレナには意外にも好評だ。
そうですかな? と、エクトルが自信なさげに言えば、
――ええ! 男前になりました! うふふ、素敵ですわ。
エレナは可愛らしい笑顔を見せてくれた。エクトルはほっと胸をなで下ろす。剃って良かったと思ったことは言うまでもない。
華やかな披露宴会場では、多くの貴族が入れ替わり立ち替わり挨拶に訪れ、それがすむと、美しい花嫁とのファーストダンスだ。エレナの軽やかなステップにあわせて、エクトルもまたダンスのステップを踏む。
楽しい、エクトルはそう思った。
今までは、ほとんど義務でしか踊ったことがないから、なおさらそう感じるのかもしれない。ああ、でも……ははは、ローザ王太子殿下と踊った時も楽しかったか。目の前のエレナのように頬を染め、可愛らしく微笑んでくれた事を思い出す。
「エクトル様はダンスもお上手ですのね」
エレナがそう言って笑う。
「ははは、何の何の、エレナ嬢には負けますぞ」
エクトルが褒めると、まぁ、お上手ねとエレナが頬を染める。
そこへ、きゃあという黄色い声が上がった。人気俳優でも目にしたかのような騒ぎようだ。ちらりと周囲に視線を走らせれば、ダンスフロアの向こう側に人だかりが出来ていた。集まっているのは着飾った貴婦人達ばかりのようである。
はて、何の騒ぎだろう?
エクトルは不思議に思う。
貴婦人達がこんな風に浮かれ騒ぐ相手をエクトルは知らなかった。オーギュスト陛下が現れれば、逆に場は静まりかえる。憧れと陶酔に畏怖が混じるからだ。恐れ敬うがゆえに、騒ぐなどという輩はいない。
ダンスの相手を代わろうと、エクトルがフロアから下がれば、
「お美しいお嬢さん、わたくしと一曲踊って下さいませんか」
エレナに手を差し出した相手を見て、エクトルは目を剥いた。
覆面をしているが、どう見ても白薔薇の騎士に扮したローザ王太子殿下である。白い騎士服に身を包み、剣を身につけた姿は、颯爽として凜々しい。
ちょ、いや、何の冗談か!
「王太……げっほげほ!」
「まあぁ! 白薔薇の騎士様!」
エクトルの慌てようとは真逆なまでに、エレナは大はしゃぎだ。
エレナ・リトラーゼ侯爵令嬢が、うっとりとした口調でそう言った。エクトルと観劇した後の出来事だ。
「ははは、白薔薇の騎士は本当に人気ですな」
エクトルはそう言って笑う。
あちらこちらで開かれる茶会でも彼女の話でもちきりで、その時に白薔薇の騎士とダンスを踊りたいといった話題が出たらしい。
「あら、もちろんエクトル様が一番ですわよ」
赤いドレス姿のエレナが、うふふと笑う。
彼女の髪にはつい先日、エクトルが贈ったピンクのスイートピーが、髪飾りとしてあしらわれていた。やはり可憐な彼女には、繊細な花がよく似合う。エクトルはそんな風に思って、顔をほころばせた。
まさか、この年になって春が来ようとは思わなかった。何とも照れ臭い。こうして自分の為に精一杯お洒落をする彼女が、可愛らしくもあり、こそばゆくもある。
夜会服に身を包んだエクトルの胸ポケットには、エレナが刺繍してくれたハンカチが忍ばせてあった。
「では、お手をどうぞ」
エクトルは手を差し出し、エレナを侯爵家の馬車へ乗せた。立ち振る舞いは流石年の功、堂々としたものだ。
二人の結婚式は華やかだった。
何せ国王陛下の覚えもめでたい宰相閣下の結婚式である。盛大にならないわけがない。結婚式場は王城の聖堂で、誰もが羨むような豪華さだ。真っ白い花嫁衣装に身を包んだエレナと、花婿衣装のエクトルが祭壇に向かって進む。
式後に行われた披露宴もまた格別に素晴らしかった。光り輝く豪奢なシャンデリアがひときわ人目を引き、一流の職人によって装飾された会場の素晴らしさは言うまでもなく、贅をこらした料理がずらりと並び、色鮮やかな生花がふんだんに使われている。かぐわしい芳香は二人の未来を祝福しているかのよう。
両開きの扉の向こうから、エレナを伴ったエクトルが現れれば、盛大な拍手が巻き起こる。おめでとう、というわけだ。
美しい純白の花嫁衣装から、妖精を思わせる淡いグリーンのドレスに着替えたエレナが、幸せそうに微笑んでいる。結い上げられた艶やかな栗色の髪にも、可愛らしい白と緑の生花が飾られていた。エスコートしているエクトルもまた、何とも幸せそうだ。
「おめでとうございます、宰相閣下」
高位貴族の一人がそう言って挨拶をすれば、後に続く者達が続々と現れる。
「おめでとうございます」
「宰相閣下、おめでとうございます」
「それにしても美しい花嫁ですなぁ」
誰もがエレナをそう言って褒め称える。
「宰相閣下は幸せ者ですな」
「いやいやかたじけない」
エクトルもまた照れ臭そうに笑い、そう挨拶を返す。そこで、ふっと鏡壁に映った自分の姿を見て、苦笑いが浮かんでしまった。夜会服に身を包んだ自分の頭は、綺麗につるつるだった。
結婚前、オーギュストの執務室で、ふと窓に映った自分の姿を見て、さて、はげ上がったこの自分の頭をどうしようかと悩んでいると、
――剃れ。
オーギュストの声にそう告げられ、エクトルは飛び上がりそうになった。
そろりと振り返れば、そこにあったのは、オーギュストのうっとうしいと言いたげな眼差しだ。何を悩んでいたのか一発で見抜かれたらしい。
――スッキリするぞ?
オーギュストはそう言い、早、手元の書類に視線を戻される。話は終わったとでも言いたげに。本当に陛下は歯に衣着せない。というか、容赦ない。
エクトルは、はふうとため息をついた。
このままうじうじ悩んでいると、オーギュスト陛下のことだ、実力行使に出かねない。そう観念したエクトルが、残りの毛を剃り、つるっつるにすると、
――まあぁ! エクトル様、格好良いですわ!
と、エレナには意外にも好評だ。
そうですかな? と、エクトルが自信なさげに言えば、
――ええ! 男前になりました! うふふ、素敵ですわ。
エレナは可愛らしい笑顔を見せてくれた。エクトルはほっと胸をなで下ろす。剃って良かったと思ったことは言うまでもない。
華やかな披露宴会場では、多くの貴族が入れ替わり立ち替わり挨拶に訪れ、それがすむと、美しい花嫁とのファーストダンスだ。エレナの軽やかなステップにあわせて、エクトルもまたダンスのステップを踏む。
楽しい、エクトルはそう思った。
今までは、ほとんど義務でしか踊ったことがないから、なおさらそう感じるのかもしれない。ああ、でも……ははは、ローザ王太子殿下と踊った時も楽しかったか。目の前のエレナのように頬を染め、可愛らしく微笑んでくれた事を思い出す。
「エクトル様はダンスもお上手ですのね」
エレナがそう言って笑う。
「ははは、何の何の、エレナ嬢には負けますぞ」
エクトルが褒めると、まぁ、お上手ねとエレナが頬を染める。
そこへ、きゃあという黄色い声が上がった。人気俳優でも目にしたかのような騒ぎようだ。ちらりと周囲に視線を走らせれば、ダンスフロアの向こう側に人だかりが出来ていた。集まっているのは着飾った貴婦人達ばかりのようである。
はて、何の騒ぎだろう?
エクトルは不思議に思う。
貴婦人達がこんな風に浮かれ騒ぐ相手をエクトルは知らなかった。オーギュスト陛下が現れれば、逆に場は静まりかえる。憧れと陶酔に畏怖が混じるからだ。恐れ敬うがゆえに、騒ぐなどという輩はいない。
ダンスの相手を代わろうと、エクトルがフロアから下がれば、
「お美しいお嬢さん、わたくしと一曲踊って下さいませんか」
エレナに手を差し出した相手を見て、エクトルは目を剥いた。
覆面をしているが、どう見ても白薔薇の騎士に扮したローザ王太子殿下である。白い騎士服に身を包み、剣を身につけた姿は、颯爽として凜々しい。
ちょ、いや、何の冗談か!
「王太……げっほげほ!」
「まあぁ! 白薔薇の騎士様!」
エクトルの慌てようとは真逆なまでに、エレナは大はしゃぎだ。
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